窓野枠 短編傑作集 1

窓野枠

文字の大きさ
20 / 20
2

初日の出

しおりを挟む
 毎年、丸山さんの一家は、元旦を迎えると、家族そろって、車で2時間ほど走ったところの筑波山へ初日の出を見に行っていました。
 午前2時ころ、仮眠を取っていた丸山さんは、目覚ましのベルを止めます。丸山さんの奥さんも起きます。それから、丸山さんは小学6年と3年になる息子たちを起こします。
「さあ、今年も行くぞ! 」
 そう元気に声を掛ける丸山さんは眠い目をこすります。パジャマを脱ぐ子供たち二人は、寝ぼけてゆらゆら体を動かして眠そうです。それでも、丸山さん一家は毎年行きます。みんなで行くことがとても楽しかったのです。

 幾年かの歳月が流れました。
 午前2時、丸山さんは、寝ている上の男の子を揺り起こしました。すると、
「ごめん。俺、今日予定あるんだ。だから、行けない」
 上の男の子は、そういうと布団をかぶって寝てしまいました。丸山さんはがっかりしました。
 今度は、下の男の子の布団をぽんぽんとたたきました。すると、布団の中から声が聞こえてきました。
「……ごめん。僕、今日、……駄目なの」
 下の男の子も、さらに布団をかぶって寝てしまいました。丸山さんはとぼとぼと奥さんのところへ行きました。
「みんな、行かないってさ」
「もう、みんな大きいんですもの。仕方ないわ」
 奥さんが笑いながら言いました。
 丸山さんは顔を洗って、洗面台の鏡を見ました。いつのまにか、おでこが広くなっていました。よく見ると、髪の毛が減ってきているではありませんか。丸山さんは、自分がいつのまにか年を取っていたことに気が付きました。子供たちを育てることに夢中で、自分のことなんか見ている暇はありませんでした。
「ああ、自分で初日の出が拝めるなんて」
 禿げ上がってきた髪を掻き揚げた丸山さんの目から、眩しさに目がくらんで、涙がこぼれ落ちました。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

等々力千歌
2021.08.19 等々力千歌

とても面白いです。
読みやすいし、しかも切り口が新鮮。
続編出たらまた読ませて頂きます。

2021.08.20 窓野枠

感想をありがとうございます。読んでいただいている方がいらっしゃるようなので、続編、出してみます。

解除

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

黄泉津役所

浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。 だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。 一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。 ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。 一体何をさせられるのか……

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。