窓野枠 短編傑作集 13

窓野枠

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コブタは友だち1

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 高校3年の新藤響子は図書委員長である。髪を長くした響子は、暇さえあれば頭を下にして本を読んでいるから、彼女の顔を知るものは少ない。
 図書委員は響子を含めて全体で12人。3学年4組ずつあり、各組の代表が1名だけ選ばれて図書委員になっている。

  ★

 響子が教室でスポーツバッグに教科書を詰めていると、2年生の図書委員、大友真理子が大声を出して教室に入って来た。
「新藤先輩、新藤先輩!」
「なーに?」
「ごめんなさい! 塾の試験があってお休みします。ごきげんよう」
 両手を胸の前で合掌し、早口にそれだけ言うと、スカートの裾を翻し、疾風のごとく走り去っていってしまった。
「ねえ、ちょっと、待ちなさいよ。あんたー! きょうは初顔合わせなのよー」
 響子は舌打ちしながら遠く消えていく大友に向かって叫んだ。ちょっと、喉がむせて泣きたくなった。むせたから泣きたくなった訳ではない。この仕事そのものが虚しくて泣きたくなったのだ。
 初顔合わせの今日は、図書委員会の運営方針を決める重要な日だ。主に放課後の当番決めなのだが、だれもがやりたくない。本好きなら残りながら本を読むと言うこともできるが、今のヤツらは本が嫌いなのだ。しかし、なったからには務めは果たしてもらわねばならぬ。ああ、それなのに、休むなんて絶対に許せない。時間がたつにつれ、響子は腹綿が煮えくり返ってきた。思い切りそばにいた豚を蹴飛ばした。豚はいきなり蹴られたので、ブウゥー と苦しい悲鳴を上げた。
「あんたー、先輩をなめんじゃないよー」
 すでに教室にはだれも残っておらず、響子と丸々と肥えた豚しかいなかった。とは言っても、この豚は響子にしか見えない。他の人間には見えない。声を震わせ叫ぶ。エコーが自分に跳ね返る。そんな自分を呪いながら、うつむいてブツブツ言い始めた。そばにいた豚も突然蹴られて不満げだ。そのまま、教室から図書室へ向かうから、大抵の生徒は気味悪がって避けてしまう。オマケに牛乳ビンの底のような丸い眼鏡をしているからさらに不気味さが増す。響子の足元に豚は必死になってまとわりついている。そして絶えずぶうぶうと鳴いている。
 副委員長である3年生の五十嵐由香里と2人でまた決めなければならない。そう、思いつつ図書室へ向かう。気がさらに重くなる。と言うのも、その由香里と言う女はほとんど響子に頼りきりである。他の委員も他の活動は大変だから図書委員になって本を読んでいればいいや、と思っている。由香里はその不貞の輩の代表みたいな女である。
「あたしの周りにはまともなヤツはおんのかぁ!」
 その大きな声に、足元に控えていた豚が驚いて小さくなった。前足を自分のほおにはさんで、蹴らないでというしぐさをしている。そんな豚を見て響子は、「あわれだなぁー あたしに取りついたばかりに不幸なヤツだ」そういった直後、響子は容赦なく豚の頭頂部にかかと落としを入れてやった。ギャー 悲鳴らしき声を上げてから豚は涙を流して喜んでいる。
「ねえ、こんなにされてもなぜあたしに取りついてるのぉー」
 豚は前足でおでこにできたコブをゆっくりなでつけている。格好は豚に違いないのだが、しぐさがどう見ても人間と同じだ。ふふふ、かわいいやつだなあ、と後ろから両手で抱いてやる。豚はくすぐったいとみえて後ろ足をばたつかせている。
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