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コブタは友だち3
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響子が目をゆっくり開けると、見知らぬ天井が見えた。ベッドで寝ていた。あああ、あたしってえ、どうしちゃったのお?
寝た覚えがないのに、ベッドで寝ているなんて、初めてのことだった。
「気がついたの響子、心配したよぉ」
天井を見るあたしに、低い声を発しながら、ゆらゆら揺れる幽霊がのぞき込んでいる。ああ、ついに天上界に召されたのお? ここはどこ? あんたはだれ? ああ、奇天烈、奇っ怪な豚といい、最近のあたしは、以前のあたしではない。どうして歯車が狂ってしまったの? まともな生活に戻りたい。
響子は近づいてくる幽霊から逃れるように、掛け布団をかぶりベッドに潜り込んだ。こんな悪夢、また、眠ってすっかり忘れよう。この次、目覚めたときは、きっと豚も消えてるよ。そして、すっかり元通りになっている、と自分に言い聞かせる。
響子は目を強くつむりながら、存在を信じない神に向かって、祈った。神様、いらっしゃるなら、お願いを聞いてください。悪夢をあたしの前から消し去ってくださいまし。かなえてくださるなら、すぐにでも氏子となってあがめ奉りさせていただきとう存じますぅー と思いながら、それにしてもさっきからずっと足元が重い。何かがのしかかっているようだ。そんなささいなこと気にせず寝よう。そして、今度、目を覚ませば、平穏無事ないつもの日常が待っている。響子は祈った。悪魔退散、悪霊退散、あーエトセトラ退散、神様、あたしをお救いくださいませぇー
「ねえ、響子ったらさあ、布団をかぶらないでよ。気がついたんでしょ? 」
響子には聞き覚えのある嫌な声が安らぎを容赦なく破壊してくるように聞こえる。
「ねえ、布団をめくっちゃうよ」
この素っ頓狂な声はまさに最低干物女・由香里の声に違いない。なんで、こいつがまだいる? 夢から覚めたらまともな世界に戻っているはずなのに。さっきより頭がやっとしゃきしゃきしてきた。掛け布団をしっかりつかみ、鼻から上をそっと出してみた。
目の前のかすみがすっかり晴れていた。医薬品が置いてある棚が見えてきた。その視界の中に突然、愛想を振りまき、手をひらひらさせるけったいな女が現れた。やっぱり由香里だった。いつもの調子でへらへら笑っていた。
「響子、気が付いて良かったねえ」
「何が?」
「だって気がついたんだもの。響子ったら、突然倒れてさ。あたし、心配したよぉー」
こいつは天然の楽天、脳天気女だ。心配している顔がそれか?
「それよかさ、あたし、なんでこんなところにいるの?」
「前沢くんがあんたをおぶって運んで来てくれたのよ。でも、男性恐怖症の響子にいきなりキスは驚いたよね」
「アアアアー そうだった、あん畜生! ヤツが原因だったぁー」
「彼さ、アメリカにいたみたいでさ。あいさつのキスは習慣になっちゃってるんだって。謝ってくれって言ってたわ。アメリカ流って言ったって、あたしにはキスしてくんなかったよ。ひどいよね。そう思うでしょ?」
「思わん」
「…… 」
由香里は絶句しながら、下唇を長い舌を使ってなめた。
それにしてもさっきから足元が重いのはなぜだ。
響子は上体を起こして足元を見た。例の豚が布団の上に乗っていた。犬のように自分の前足をなめて、のうのうと体の生えているのか生えていないのか分からん毛の毛繕いをしている。
「ねえ、由香里、あたしの足元に何かいるの見える?」
「えっ、何かいるの?」
由香里は豚の鼻先に顔をやってきょろきょろしている。やはり、豚は見えないみたいだ。それにしてもこの豚は何を食ってこれほどまでに太っているのだろう。出現した6年前より確実に大きくなっている。何か食べている姿を見たことはない。やはりこいつは化け物に違いない、と改めて感心した響子だった。
寝た覚えがないのに、ベッドで寝ているなんて、初めてのことだった。
「気がついたの響子、心配したよぉ」
天井を見るあたしに、低い声を発しながら、ゆらゆら揺れる幽霊がのぞき込んでいる。ああ、ついに天上界に召されたのお? ここはどこ? あんたはだれ? ああ、奇天烈、奇っ怪な豚といい、最近のあたしは、以前のあたしではない。どうして歯車が狂ってしまったの? まともな生活に戻りたい。
響子は近づいてくる幽霊から逃れるように、掛け布団をかぶりベッドに潜り込んだ。こんな悪夢、また、眠ってすっかり忘れよう。この次、目覚めたときは、きっと豚も消えてるよ。そして、すっかり元通りになっている、と自分に言い聞かせる。
響子は目を強くつむりながら、存在を信じない神に向かって、祈った。神様、いらっしゃるなら、お願いを聞いてください。悪夢をあたしの前から消し去ってくださいまし。かなえてくださるなら、すぐにでも氏子となってあがめ奉りさせていただきとう存じますぅー と思いながら、それにしてもさっきからずっと足元が重い。何かがのしかかっているようだ。そんなささいなこと気にせず寝よう。そして、今度、目を覚ませば、平穏無事ないつもの日常が待っている。響子は祈った。悪魔退散、悪霊退散、あーエトセトラ退散、神様、あたしをお救いくださいませぇー
「ねえ、響子ったらさあ、布団をかぶらないでよ。気がついたんでしょ? 」
響子には聞き覚えのある嫌な声が安らぎを容赦なく破壊してくるように聞こえる。
「ねえ、布団をめくっちゃうよ」
この素っ頓狂な声はまさに最低干物女・由香里の声に違いない。なんで、こいつがまだいる? 夢から覚めたらまともな世界に戻っているはずなのに。さっきより頭がやっとしゃきしゃきしてきた。掛け布団をしっかりつかみ、鼻から上をそっと出してみた。
目の前のかすみがすっかり晴れていた。医薬品が置いてある棚が見えてきた。その視界の中に突然、愛想を振りまき、手をひらひらさせるけったいな女が現れた。やっぱり由香里だった。いつもの調子でへらへら笑っていた。
「響子、気が付いて良かったねえ」
「何が?」
「だって気がついたんだもの。響子ったら、突然倒れてさ。あたし、心配したよぉー」
こいつは天然の楽天、脳天気女だ。心配している顔がそれか?
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「前沢くんがあんたをおぶって運んで来てくれたのよ。でも、男性恐怖症の響子にいきなりキスは驚いたよね」
「アアアアー そうだった、あん畜生! ヤツが原因だったぁー」
「彼さ、アメリカにいたみたいでさ。あいさつのキスは習慣になっちゃってるんだって。謝ってくれって言ってたわ。アメリカ流って言ったって、あたしにはキスしてくんなかったよ。ひどいよね。そう思うでしょ?」
「思わん」
「…… 」
由香里は絶句しながら、下唇を長い舌を使ってなめた。
それにしてもさっきから足元が重いのはなぜだ。
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「ねえ、由香里、あたしの足元に何かいるの見える?」
「えっ、何かいるの?」
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