またねの鶴

窓野枠

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第1章 孤独の出発点

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 真一は顔を赤くして、うつむいた。でも、その胸の奥で、小さな灯りがともった気がした。遥は教室にいない日も、どこかで自分を思い出してくれていた。

 真一が教室の空席に向けて話しかけた言葉が、ちゃんと届いていたんだ──そう思うと、真一の背筋が少しだけ伸びた。

 それが、彼の人生でいちばん最初に「だれかのために動いた記憶」となった。

 5月の風が、教室のカーテンをふわりと揺らした。

 遠くの窓からは、校庭を走る子どもたちの笑い声が聞こえてくる。もうすぐ1時間目が始まる直前、真一は教壇に据えられた鉛筆削り機で鉛筆を削ると、自席に戻ろうとした。いつも空席だった席に、遥がいつの間にか座ってランドセルから教科書を出していた。深沢遥が小さくあくびをした。

「ふわぁ……おはよぉ」

「……もう元気になったんだ? よかったね」

 真一が遥に言うと、笑顔だった遥は顔を曇らせて首を横に振った。

「まだ、だめなの……やんなっちゃうわ……昨日の夜も、私の体のことで家族でいろいろお話してたの……」

 そう言って、遥はふと窓の外を見つめた。真一もつられて視線を同じ方向へ向けた。グラウンドの端には、咲きかけたアジサイの茂みが風に揺れていた。

「……お医者さんがね、空気のきれいなところで暮らせば、ぜんそくはもっとよくなるかもって言ったんだって」

「……そうなの?」

 真一は、遥が治って出てきたと思った直後だけに、返す言葉が思い付かなかった。遥は言葉を選ぶように、ゆっくり続けた。
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