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第13章 小山内慶子の攻略

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「係長がお弁当を喜んでくださって、うれしいです。きょうも作ってきましたから少し出勤時間がいつもより遅くなりました。もちろん、きょうもご一緒していただけますよね…… ね?」
 慶子は進一の快い了解の返事が返るものと思っていた。それが返らない、と分かるとあわてるように話しを続けた。
「昨日…… あたしたちの関係がうわさになると、困る…… なんて、係長はあんなことをおっしゃっていましたけど、大丈夫ですよ、こっそり会議室で食べれば、だれにも分かりませんから…… 心配ありませんよ。あたし、全然、うわさになってもいいですから…… そうだ、きょうは奥さまの分も作ってきましたから、奥さまも誘われてはいかがでしょうか? 尊敬、崇拝する、奥さまに、隠れて食べてるようであたしも心苦しいですから」
 入庁時、慶子はもともと進一のことは風采の上がらない中年男としか見ていなかった。このどこから見ても、フツメンの風采の上がらない男の妻が、後になり、今田危機管理対策室長と知ったときの驚きは半端ではなかった。月とスッポン、提灯に釣鐘、の言葉の意味はよく分からなかったが、この二人のことに、使う言葉かと思いあたったほどだ。その妻とお近づきになりたい、とだれもが思う憧れの人だ。慶子は、このとき、彼女が小山内グループを揺るがし、自らの人生も左右する存在になろう、とは予想もしていない。
 慶子は高校生の時、母に対人関係の心得を聞かされた。
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