居候は厨二病。

厨二病、日常を取り戻す。

キーンコーンカーンコーン。

最後の授業のチャイムが鳴る。私はこの音が大嫌いだ。だって…

「さぁ帰ろう、まどか。」

そう言ってくれていた人物はもうこの世界に居ないのだから。


「まどか？大丈夫？」

「ん？どうしたの花梨大丈夫だよ？」

「……ならいいけど…アレクくん早く戻ってくるといいね。」

花梨はそう言うと部活だから！と走って行った。

「いやいや早く戻られたら困るんだけどね！」

「あっ田中くん………。」

「まどかちゃん元気出して？俺と一緒に帰ろうか？」

「こらっ田中！お前部活サボる気か。」

田中くんは軽音部の先輩にズルズルと引きづられて行った。口パクでごめんね、と言いながら。私はありがとう、と口パクをして笑った。

「はぁ……ダメだな…私。」

皆に心配かけてる。家でもお母さんが私の好物ばかり作るから最近飽きてきちゃった。

「………クリスは何してるのかな。」

今頃何をしているのかな。騎士団に戻って剣で戦っているのか、酒場で団長達とウイスキーを飲んでいるのか、レイラさんと楽しく話しているのか…。あっダメだ胸が痛い。……私はまだ吹っ切れないでいた。





「団長！！ほら終わったぞ！」

「えっ？ああ、すまんな。なら次はこれを……。」

俺はそう言ってクリスに書類を渡した。

「いやぁアレク様仕事が早いですね、流石です。」

新人団員が俺に話しかけてきた。

「あいつ昔は書類仕事は一切しなかったんだぜ。」

「えっそうなんですか！？」

「ああ、頭いいくせに面倒くさいと全部俺に投げてきやがる。」

「でも今はされてますよね？異世界に行って成長したんですかね？」

「……………ああ、そうだな…。」

俺はクリスをじっと見つめていた。


「団長！！これ終わったら飲みに行かないか？」

クリスが頼んでいた書類を机に置いて言った。

「もう終わったのか！早いな。」

「ふん、俺は頭がいいから書類仕事も得意だ。」

「ああ、そうですか！面倒くさいと俺に押し付けてきてたのは誰でしたかねぇ！？」

俺が嫌味ったらしく言うと気の所為だ、とクリスは呟いた。こいつ何が気の所為だよ！！

「でもクリスが飲みに誘うとは珍しいな？お姉さん達に遊ばれたくなったのか？」

「ふざけんな！俺はウイスキーが飲みたいだけだ！日本では飲めなかったからな！！」

「えっ？」

「……あっいや、なんでもない。ほら団長置いていくぞ。」

そう言ってクリスは歩き始めた。えっなんでこいつ上から目線なの。


「「「きゃークリス様いらっしゃいー！！」」」

酒場の姉ちゃん達が一斉にクリスに群がった。毎回毎回凄いな。

「おい、俺も居るんだが。」

「分かってますよ団長様！でも団長様はマーガレット様の物だからね。」

姉ちゃんはふふ、と笑った。マーガレットはこの酒場のママだ。めちゃくちゃいい女だぞ。

「そう言えばマーガレットは居ないな？」

「マーガレットさんは今日お買い物に行ってますよ？」

そうか残念、と俺はビールを頼んだ。クリスはウイスキーだな。

「クリス様……最近酒場に来る頻度多くない？気になる子出来たの？」

1人が言うと皆が慌て始めた。なんだこいつら。

「えっクリス様そうなの！？」

「クリス様私よね？私！！」

「何言ってるの私よ！！だって私が1番クリス様とキスしてるもの。」

あっそう言えば帰ってきてからクリス様とキスしてない……と姉ちゃんがクリスに抱きついた時だった。

「！？ やめろ！！」

クリスが険しい顔で腕を振りほどいた。

「……え？クリス様…………？」

「あっ…すまない…そういう気分じゃなくてな。」

クリスはバツが悪そうにそう言うと

「悪い団長、今日はやっぱり飲まないで帰る。」って帰ってしまった。

「はぁぁ！？お前が飲みに行きたいって言ったんだろ！？って居ない！！」

「ちょっとクリス様どうしたの？なんか最近おかしくない？」

「………やっぱりお前もそう思うか？」

「なんかやたらとテンション高いと思ったら今みたいに急降下したり………団長、クリス様いじめてるの？」

「おい、ふざけんな。むしろ俺がいじめられてるわ。」

冗談よぉと姉ちゃんは笑った。…………やっぱりあいつおかしいよな…大丈夫か？クリス…………。





ああああ！！くそっ！俺は何やってるんだ！！

キスされそうになった時、まどかの顔が浮かんだ。まどか以外とキスしたくない、と思った。

「未練タラタラじゃないか……。」

ダメだ忘れるんだ。まどかにはまどかの生活がある、そして俺にも俺の生活がある。……早く日常を取り戻すんだ！！異世界に行く前の、俺の日常を！！

俺はそう言って歩き始めたのだった。