居候は厨二病。

Musk.

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魔法使い、光になる。

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「反逆者ジュディム=サダリア。お前を処刑に処する。」

ああ……笑ってしまうな。俺がせっかくあの忌々しい副団長様を異世界に飛ばしたのに。聖なる力などという、くだらないものを持った勇者が異世界からやって来てあっけなく魔王様は討伐されてしまった。

「…………本当に笑ってしまうな…。」

俺はそう呟くと看守に連れられて歩いて行った。


アレクが戻ってきてから俺の処刑は決まった。戻ってきたアレクは俺を見るなり文句を言った。ふん、いい気味だ。

―――何が王様自慢の魔法使いだ。王様自慢なのはお前だろう。いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!いつもお前は俺の前に居た!!お前には……お前だけには俺の気持ちは分からない!!俺は力いっぱい牢屋の壁を殴りつけた。




「どうして!?先生嘘だよね!?」

弟子達が俺に詰め寄った。

「……本当だ。ジュディムの処刑が決まった。……1週間後に執行される。」

「なんで!?どうして!?」

「言っただろう。ジュディムは魔王の手先になって……「そんなの嘘だ!!ジュディム様が魔王なんかにつくわけがない!!」

「そうだ!!何かの間違いだ!!僕、王様に抗議する!!」

僕も僕も!!と次々に声が上がった。

「……いい加減にしなさい。ジュディムが反逆者なのは事実だ。」

俺がそう言うと弟子達は泣き出してしまった。

「うう……先生のせいだ!!先生がジュディム様をお城に連れて行ったから!!」

「先生なんて大嫌いだ!!先生も王様も……消えてしまえばいいんだ!!」

そう言って弟子達は自分達の部屋に入って行ってしまった。

……やれやれ困ったヤツらだ……俺はため息をついた。



―――カツン、カツン。

静かな牢屋に足音が響き渡る。この足音は……アレクだ。

「………これはこれは…アレク様じゃないですか。」

また来たのか。もう二度と会いたくなったんだがな。

「処刑が決まった俺を笑いに来たんですか?なんという素敵な趣味で。」

「ふざけんな。……死にゆく人にそんな無礼な事はしない。」

俺が嫌味を言うとアレクは真剣な顔で言ってきた。ああ……なんだよお前………。処刑が決まったんだな!と笑い飛ばしてくれればいいのに。なんで笑わないんだよ…なんでそんな辛そうな顔をしているんだよ………。

俺が黙っているとアレクは重い口を開いた。

「………ジュディム、お前は王様が嫌いか?」

は?何言ってるんだこいつ。

「当たり前だろ?俺は殺そうとしてたんだぜ?」

嫌いだから殺そうとした。俺を認めなかったからこうなったんだ。そう言って王様の首を刎ねてやるつもりだった。

「…………俺の団服、いつもと違って黒だろ?」

「は?だからなんだ?」

「王様が、喪に伏せろと言ったんだ。」

「え?喪に?」

一瞬何を言われてるのか分からなかった。喪に伏せろ?王様の親族が亡くなったのか………?

「お前の処刑が行われるまでの1週間、喪に伏せろと全国民に通達された。処刑人に対して普通そんな配慮なんてしない。」

何………何を言ってるんだ?俺に?俺の為に?処刑される俺の為に喪に伏せろと言ったのか?一体何故……?

「……なぁ、お前は王様にとって本当に自慢の魔法使いだったんだよ。」

やめろ。やめてくれ。王様が俺をそんな風に思っているわけが無い。これはアレクの嘘だ。きっと最後に優しい嘘を俺についたんだ。……アレクはそういうやつだから………そうだろ?アレク。

「…………邪魔したな。」

アレクが静かに俺に背を向けた。

ふん、そうやって最後に蟠りも無く逝かせるつもりか?お前の嘘なんか信じないよ。……けどなんだ?さっきからなんで涙が止まらないんだろう。

その時師匠の「自分を見失うなよ。」という言葉を思い出した。ああ……俺は自分を見失っていたのか?地位や名誉に目がくらんで周りにいた大切な人達の……王様や後輩達………師匠達の気持ちが分からなくなっていたのか?

ああ………俺はいつもそうだ。肝心な所で失敗する。師匠の弟子になったばかりの時に言われたじゃないか。

「お前は才能がある……が、それ故に周りが見えなくなることがある。力を過信するな。自分を見失うな。」って。

今頃気付くなんて……俺は本当に馬鹿だ。

「ああ……俺はどこで間違えたんだろうな…。」

俺の情けない声は牢屋に響き渡った。



「……ジュディム…起きているか?」

顔をあげると顔なじみの神父が俺を覗いていた。

「久しぶりだな。お前が来るということは………処刑は明日か。」

「………神に祈りを捧げなさい。そうすれば魂は救われる。」

俺は入ってきた神父の服を見て驚いた。いつもは紺なのに…黒だ。

「……やはり本当だったのか…喪に伏せているのは。」

「何か言ったか?ジュディム。」

「………いや、なんでもない。しかし魂は救われる…か。俺は魔王様についた反逆者だぞ?そんな俺でも救われるのか?」

俺が馬鹿にしたように笑うと神父は真剣な顔で言った。

「………お前は魔物ではない、人間だ。お前はもう充分苦しんだはずだ。お前が闇から解放されることを神だけじゃない、王様や私達も信じている。―――だからジュディム、最後に祈るんだ。」

ああ、本当に……アレクといい王様といいこの神父といい……揃いも揃ってお人好しだなぁ。俺が魂さえも汚れていて、祟り神になったらどうするんだ?お前ら全員殺してしまうよ?―――そう思っているのに、涙が止まらなかった。ああ、俺はやっぱり人間なんだなぁ。この期に及んでまで救われたいと思っているのか…。

俺は静かに目を閉じて、祈りを捧げた。


「アレクか…………………。」

その日の夜アレクが牢屋に来た。……何となく来ると分かっていたが。

「今日は俺に皮肉は言わないのか?ジュディム。」

「ふん、処刑前日にまで言いませんよ。」

「そうか………。」

アレクは悲しげに笑った。そんな顔するなよ…。

「………アレク、本当だったんだな。」

「? 何がだ?」

「全国民が喪に伏せているということだ。さっき俺の所に来た神父までもが黒服だった。」

「俺が嘘ついていると思ったのか。」

「……お前は変なところで優しいからな。最後に俺に気遣いしたのかと思ったんだ。」

「………ふん、そんな気遣いするわけ無いだろう。」

そうだよな。そんな嘘つかないよな。……王様は本当に俺を自慢の息子だと思ってくれていたんだな…。いつも1番になれなくて影に隠れていた俺を、大切に思っていてくれてたんだな…。

「……………最後に王様の気持ちを教えてくれてありがとうな。俺はお前のおかげで祟り神になりそうもない。」

「げっ祟り神になるつもりだったのか。」

アレクは心底嫌そうな顔をした。失礼な奴だな。

「神になるわけないか。魔王様に忠誠を誓ったんだから。」

俺がそう笑うとアレクは困ったように笑った。


「……アレク、異世界に飛ばして悪かったな。」

やっと言えた謝罪。しかしアレクはそんな事気にするな、と軽く返した。……俺はお前の人生をめちゃくちゃにしたのに。お前は許してくれるのか…。

「相変わらず優しいなお前……。本当に調子が乱れる。あっアレクそろそろ時間だ。……最後に話が出来て良かった。」

「…………ああ、俺もだ。」

ありがとうアレク。まさか死ぬ前にこんな気持ちになるなんて思わなかった。俺はアレクや王様……国民全てを恨んだまま死ぬと思っていた。ありがとう……本当にありがとう……そしてすまなかった。……王様、師匠、後輩達の笑顔が頭から離れない。ああ、俺は愛されていたんだなぁ。あまりに気付くのが遅かったけれど。……俺は幸せだったよ。こんなにも愛されて。―――ありがとう。




「………出掛けてくる。戸締りを頼むな。」

返事は無かった。あれから弟子達は皆俺を無視だ。授業にもなりゃしない。

「生意気なクソガキどもめ。」

俺はそう言って王都へと歩き出した。

「先生のせいだ!!先生がジュディム様をお城に連れて行ったから!!」

弟子が叫んだ言葉が頭から離れない。

―――俺のせいか?俺がジュディムをお城に連れて行かなかったら…ジュディムは平和に暮らせたのだろうか。ジュディム……恐ろしい程の才能を持ちながら傲慢さも併せ持っていた。才能ある人達が集う王室でジュディムはやっていけるか不安だった。だから俺は言ったんだ…自分を見失うなよ、と。

―――あの時俺が手紙を渡さないで破り捨ててさえいれば……今もあの小さい魔法教室で弟子達に魔法を教えていたのか…?俺は深い後悔に押し潰されそうになっていた。



王都には沢山の人が集まっていた。それもそうだ。国で一二を争う程の魔法使いで、魔王に全てを捧げた男の処刑なのだから。

「まさかジュディム様が反逆者だったとはねぇ…。」

「あんなに強い方だったのに…勿体ない。」

「王様を殺して自分が王様になるつもりだったのか?情けない。」

人々が口々にジュディムの噂話をする。まるで俺が言われてるかのような気がして心が張り裂けそうだった。


「今から反逆者ジュディム=サダリアの処刑を行う。」

処刑人が声高らかに宣言をした。それと同時に看守に連れられジュディムが姿を現した。

「まぁジュディム様よ!!」

「ああ、裏切り者が姿を現したぞ!!」

ジュディムの姿を見た群衆は騒ぎ出した。

ああ、ジュディム……!!あんなに輝いていた姿が嘘みたいだ……!!久しぶりに見たジュディムは別人のようにやせ細っていた。

「静粛に!!……ジュディム、覚悟はいいか?」

処刑人の言葉にジュディムはそろりと顔を上げ辺りを見回した。

「!!」

ジュディムと目が合った。こんな群衆の中で目が合うとは!!俺は固まってしまった。……ジュディムも同じなようで目を丸くして固まっていた。

ああ……ジュディムすまない………。お前がそこにいるのは俺のせいかもしれない。お前を狂わせたのは俺かもしれないんだ。

俺はジュディムの目をずっと見つめていた。……その時だった。ジュディムは優しく微笑んだ。そして……ありがとう、と口が動いた。

「え……?ジュディム?」

ジュディムは処刑人に覚悟が出来た。と言うとギロチン台に横になった。―――俺は涙でジュディムの最後の姿を見ることが出来なかった。


王都に13回の鐘が鳴り響いた。―――ジュディムの処刑執行を知らせる鐘が。

「……ねぇジュディム様最後微笑まなかった?」

「安からな顔をされていた……本当に彼は魔王の手先だったのか?」

人々が話していると雨が降り始めた。突然の雨に群衆は蜘蛛の子を散らすように去っていった。―――王都には泣き崩れる俺の姿しか残っていなかった。




「ジュディム、覚悟はいいか?」

処刑人が俺にそう告げる。ふん、覚悟なんてとっくに出来てるよ。俺は顔を上げて群衆を見渡した。人の処刑を見に来るなんてなんて悪趣味なヤツらだ。そう思っていると。

「………え?まさか………なんで………。」

なんでこんな所にいるんだ……俺は群衆の中に師匠を見つけた。―――まさか目が合うとは思わなかったのだろう。師匠も俺を見て固まっていた。ああ、俺の処刑を見に来るなんて…師匠も随分悪趣味だなぁ。じっと見つめていると師匠の顔が歪んだ。ああ…きっと優しい師匠のことだ。自分のせいで俺が処刑される、と自分を責めているんだろう。あー嫌だな、どいつもこいつもお人好しで。俺は自分の意思で魔王様についたんだ。師匠を恨んでなんていやしないよ。…………師匠、最後に来てくれてありがとう。俺はその気持ちを伝えたくて師匠に微笑んだ。そして…ありがとう、と呟いた。―――俺の気持ち伝わったかな?師匠は鬱陶しいぐらい敏感だからきっと伝わっただろう。……ああ、生まれ変わってもまた師匠の弟子になりたいなぁ。のんびりと後輩達に魔法を教えてやりたい。

「……次もまた魔法使いになれますように。」

俺はそう呟くと処刑人に覚悟が出来た、と言ってギロチン台に横になった―――。




「「「先生!!」」」

俺が家に着くなり弟子達が俺に群がってきた。

「……なんだ?ここを出ていくのか?」

俺は止めない、と言うと弟子達は違うよ!!と叫んだ。

「……先生、ジュディム様の処刑を見に行ったんだろ?………その、すみませんでした!先生に生意気言って……。」

弟子達は頭を下げた。

「本当は分かっていたんだ…ジュディム様が裏切り者だって!でも認めたくなかった……ジュディム様が薄ぎたない裏切り者になったなんて認めたくなかったんだ!!」

「………違うな。」

俺は弟子達の頭を撫でるとしゃがんで言った。

「ジュディムは薄ぎたない裏切り者なんかじゃない。」

「………え?でもジュディム様は裏切り者だから……。」

「確かに昔は裏切り者だった。だが魔王が討伐されてジュディムは目を覚ましたんだ。」

「それじゃジュディム様は!!」

「ああ、薄ぎたない裏切り者としてじゃなく誇らしい魔法使いとして旅立ったよ。」

そう言うと弟子達は泣き始めた。

ったくジュディムめ、何がありがとうだ。最後の最後に感謝するなんてふざけるな馬鹿め。

……生まれ変わったらまた俺の弟子になれジュディム。今度は魔法だけじゃなくて性格も鍛えてやるからな!!
俺はそう心の中で呟くとジュディムが大好きだったシチューを作り始めたのだった―――。

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