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魔法使い、闇に落ちる。
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「おい、聞いたか?アレク様また高度魔法を習得したらしい。」
「また!?この間火の高度魔法を習得したばかりじゃないか!」
「今度は水の高度魔法らしい。」
「うわぁ凄いなぁ…。アレク様はもう国1番の魔法使いだな…。」
あっすみません!と曲がり角で俺にぶつかりそうになった団員は頭を下げた。
「やばっジュディム様だよ……聞こえたかな今の……。」
「国1番の……ってやつ?そうだよな…魔法使いジュディム様の前じゃやばいよな…。」
「いや、何も言ってこないし聞こえてないんじゃないか?」
団員達はそう言って歩いて行った。
………ああ、聞こえている、聞こえているさ!!お前達がアレクを賞賛する声が呪言のようにね!!
「わぁ!ジュディム様凄い!!光が点った!」
「ふふ、このぐらいどうってことない。」
師匠の家にいる後輩達に魔法を教えてやるのが俺の日課だった。
「ジュディム様!ジュディム様は将来王様につかれるのでしょう?」
「俺が王様に?そんな畏れ多い……。」
「そんなこと無い!!ジュディム様は今は師匠を超える力だ!!国1番の魔法使いになって国をお守りください!!」
分かった分かった、俺はそう言って後輩達の頭を撫でた。
「ジュディム、お前に話がある。」
突然師匠に呼ばれた。やばい師匠が大事にしていたクッキーを食べたのがバレたか………。
「すまない師匠…つい手が……「何の話だ。ジュディムお前に手紙だ。」
師匠はそう言って俺に手紙を渡した。豪華な飾りの付いた美しい手紙………まさか、これは!?
逸る気持ちを抑えながら手紙を開けると―――お城からの召集令状だった。
「………王様から?俺は………王様に呼ばれたのか…?」
「ジュディム、お前の腕が認められたんだ。お前の力をこんな小さい魔法教室で終わらすのは惜しい。王様の元に行って、その力を捧げよ。」
ああ、ついに俺の力が認められたのか!!この国で1番偉い、王様に!!―――俺はすぐにお城へと向かう準備をした。
「……ジュディム様行ってしまうんだね…。」
「なんだよあれほど喜んでたのに!ジュディム様困ってるだろ!」
「だって寂しい……。」
「大丈夫だ、また遊びに来るよ。手紙だって書く。」
「ジュディム様ぁぁ!!」
後輩達が泣きついてきた。はっ…鼻水が!!
「………ジュディム…………。」
「……師匠……お世話になりました。ここまで来れたのも師匠のおかげです。」
「ふん、お前の実力だよ。お城での仕事は大変だからな、たまには休みに来い。………あとな、ジュディム。」
師匠が真面目な顔をした。なんだ。
「…お城には強いやつが沢山いる。もしかしたらお前より魔法が得意なやつも居るかもしれない。だがお前が強いことには代わりはない。…………自分を見失うなよ。」
「何言ってんだ先生!ジュディム様が1番に決まってるだろ!」
後輩達が師匠に喰ってかかった。
「………いや、そうだな世界は広いからな。忠告ありがとうございます師匠。」
俺はそう言って頭を下げたのだった。
「おい、あの方が王様直々にお呼びになった魔法使いだろ?」
「ああ、凄いよな…この間の魔物の群れもあの方1人でほぼ全滅させたらしいぞ。」
「田舎の魔法教室から来たと言うが……ダイヤの原石だったんだな。」
あはは、どこもかしこも俺の賞賛でいっぱい。そうだ俺は国1番の魔法使いだ。畏れ多い存在だ。もっと俺を賞賛すればいい。
「ジュディム様、お手紙が届いております。」
召使いから渡された手紙……ボロボロの紙に崩れた文字………後輩達だ。
【ジュディム様お元気ですか?毎日のようにジュディム様のご活躍が聞けて僕達は嬉しいです。たまには遊びに来てください。】
「……悪いな俺は魔法の勉強で忙しいんだ……。」
俺は可愛い後輩達に返事を書きに部屋へと戻った。
「なぁ、知ってるか?新しい団員の話。」
「ああ、聞いた!!なんか物凄く強いんだろ?」
「この間副団長が訓練中に負けたらしい。信じられるか?あの副団長が!!」
「なんかいい所のお坊ちゃまらしいけど……凄いんだな。」
「名前はなんだっけ………えっと…………。」
「クリス=シュナイダー=アレクサンドリアだ。」
俺が突然声をかけると団員達は驚いた。
「!! ジュディム様お疲れ様です!!」
「こんな所でお喋りとは。騎士団も暇なんだな。」
「申し訳ございません!!失礼します!!」
団員達はそう言って走って行った。
―――クリス=シュナイダー=アレクサンドリア……。最近嫌に耳にするな。聞いた話剣だけではなく魔法も使えるとか。……ふん、まぁ俺に比べればまだまだだろう。さてまた研究に戻るか。
「……ジュディム、お前の魔法研究に入れて欲しい者がいる。」
ある日の午後、俺は王様に呼ばれていた。
「研究に?構いませんが…新しい魔法使いですか?」
この時期に新しい魔法使いが来るなんて珍しいな…俺みたいに優秀なやつか?
「いや、魔法使いではない。この度副団長に就任した…………。」
副団長に就任した?まさか………。
「クリス=シュナイダー=アレクサンドリアだ。」
「………ジュディム様、宜しく頼む。」
振り返ると副団長の服を着たクリスが立っていた。
「ジュディム様、これはこちらの魔法の方がいいのではないか?」
「あっああ……そうだな……。」
なんだこいつ…まだ研究室に来て間もないのにもう魔法の本質を理解し研究し始めたぞ。
「あっあとジュディム様……「アレク!!」
突然の俺の大きな声に研究室が静まりかえった。
「あっ……悪い………。アレク、俺の事はジュディムと呼んでくれ。様は要らない。」
「しかし………。」
「俺はお前の先生では無いんだ。そうだろ?」
ああ、そうだな。とアレクは新しい魔法水を取りに行った。
ジュディム様………そう呼ばれて虫唾が走ったのは初めてだ。なんだこの感覚は。怯えてる?俺があのガキに?そんな馬鹿な。俺は重い気持ちを引きづりながら研究を続けた。
【ジュディム様、最近お手紙が届きませんがいかがお過ごしでしょうか?僕達はやっと火の魔法を…………】
俺は手紙をクシャりと握り潰した。
あああ!!ついにアレクが新しい魔法を習得した!!あれは俺が何年もかけてやっと習得したのに……!!負けてられない!!俺は高度魔法を習得してやる!!
それから俺は狂ったように研究室に引きこもった。
「………ジュディム…久しぶりだな。大丈夫か?最近外でお前を見ていないが…王様も心配しておられだが……。」
「……ああ、アレク大丈夫だよ。もう少しで習得出来そうなんだ………。」
あああああ!!うるさいうるさいうるさい!!お前なんかに負けてたまるか!!今に見てろ!!俺が先に高度魔法を習得して、お前を嘲笑ってやるからな!!俺は今日も研究に没頭していた。
―――そしてついに!!
「やった!!やったぞ!!ついに火の高度魔法を!!」
「きゃ!?ジュディム様どこへ……」
邪魔だどけ!!王様!!王様ついに俺は高度魔法を手に入れたぞ!!
「王様!!ジュディムはやりました!!」
「おい、ジュディム王様の前だ静かにしろ。」
うるさい神父!!王様……ついに……俺は……。
「おお、ジュディム久しぶりだな。顔が見られて嬉しいぞ。そうだジュディム、アレクがまたもや快挙だ!今度は水の高度魔法を手に入れおったぞ!!」
「…………え?……水………?またもや………?」
「そうかお前は研究室に引きこもってたから知らなかったんだな?あいつはこの間火の高度魔法も習得したのだ。」
…………頭を殴られた気分だ。俺が……俺がやっと習得した魔法をあいつは既に手に入れてたのか…?………既に新しい魔法も手に入れたのか……………?
「優秀な魔法使いが2人もいて私も鼻が高い。……ところでジュディム私に何の用か。」
「……………いえ、久しぶりに王様の顔を見ようかと…。」
「そうか、私も見られて嬉しい。こうやってたまには外に出なさい。」
俺はフラフラと王室を後にした。
「ああああああ!!」
俺があんなに苦労した高度魔法をもう習得していたなんて!!それに新しい魔法を習得しただと!?ふざけるな!!
……まだだ……まだ俺はやれる………。俺はさらに研究に没頭した。
「……ねぇ最近ジュディム様見かけないけど大丈夫なの?」
「研究室から出ないのよ…。お手紙さえも受け取らなくて…。」
「お手紙?ああ、あのジュディム様が昔居た魔法教室の子達の……。」
「可哀想に…ジュディム様から返事が無いのにずっと書き続けてるみたい………。」
ダメだダメだダメだ!!アレクはついに風の高度魔法も手に入れた……。こんなんじゃアレクを追い越すどころか隣にも立てない!!……もっと違う何かを………アレクが習得していない………何か………。あっ!!そうだ!!闇魔法だ!!闇魔法なら!!
「ダメだ。」
俺は王様に懇願していた。闇魔法習得の許可を。
「王様!!闇魔法は強大です!!必ずや魔王討伐に役に立つでしょう!!」
「ジュディム、闇魔法は人を捧げて習得するものだ。お前は魔王討伐に人の命を差し出すつもりか。」
「しかし王様!!多大な力には多少の犠牲も……!!」
「ジュディム!!お前には闇を頼らずとも強大な魔法があるだろう!!私の意見は変わらない。もうこの話は終わりだ。」
そう言って王様は俺に背を向けた。―――何故だ?何故許してくれない?何故俺を認めてくれないんだ。
俺はフラフラと路地裏を歩いていた。
俺はなんでこんな惨めな思いをしているんだろう。こんな思いをするためにお城に来たわけでは無い―――。
その時だった。俺の目の前に魔物が現れた。
「っ!くそっ!!」
俺は一瞬で魔物を魔法で焼き払った。
「……魔物まで俺を馬鹿にしやがって………ん?」
死んだ魔物の下に青い玉のようなものが転がった。……と同時にその玉は割れ煙が出てきた。
「!? なんだ!?……ぐっ!!」
一瞬で俺は地べたに這いつくばった。全身に恐ろしい程の気圧を感じる。なんだ!?なんだこれは!?
「……はじめまして、ジュディム。」
脳に直接語りかけるように話し始めた男……よく見えないが……こいつは………。
「お前……まさか魔王か………?」
「魔王か………人間達はそう呼んでいるな。」
まさか魔王が現れるなんて……情けないことに俺は魔王の放つ気に押され立つことさえ出来なかった。
「魔王が何しに来た?俺を殺しに来たのか?」
「ははは、今の私は影だ。お前に傷一つも付けることは出来ない。」
「なら何しに来た。無様な俺を笑いに来たのか?」
「ふふ、そう自暴自棄になるな。お前は優秀じゃないか。……お前達の周りには理解されてないがな。」
「………慰めに来たのか?俺も落ちたものだ。」
「だから自暴自棄になるなと言ってるだろう。お前は随分闇魔法に熱心じゃないか……闇魔法ならお前は1番になれるのにな。」
1番……その言葉が俺の頭に響いた。
「…………どうだジュディム、私達と来ないか?私ならお前を……お前の力を理解し生かすことが出来る。」
「はっ!ふざけるな!!いくら俺でもそこまで落ちぶれていない!!」
「ジュディム、私はな、こう見えて慈悲深いところもあるんだ。」
なんだこいつ。いきなり何の話だ。
「……昔食べるものにも困っている幼い兄弟を見かけたんだ。慈悲深い私は彼らに何枚もの金貨を渡してあげた。………するとどうだろう。幼い兄弟はありがとう、と言ってその金貨で取った木の実を割り始めた。……彼らは金貨の価値を知らなかったんだ。」
「…………何が言いたいんだ。」
「つまり、どんなに価値がある物でもその価値を知らないと無意味な物になる。…今のお前もそうじゃないのか?」
無意味!?ふざけるな俺は………。
「輝かしい功績をもった魔法使い様も今じゃ副団長の影にいる無意味な存在だ。」
違う俺は……俺は俺は俺は俺は!!
「………お前の本当の力を見せてやればいいじゃないか。」
―――そうか……俺は無意味なんかじゃない。俺はここで終わってしまう人間では無いんだ………。
「私達と一緒に来るんだ。ジュディム。」
気付けばあれほど俺を抑えていた魔王の気も収まっていた。俺はフラフラと立ち上がった。
"お前達は私の自慢の息子だ。"王様の声が頭に響いた。
「……自慢の息子は…………2人も要らないんだ………。」
俺はそう呟いて魔王の手を―――取った。
「また!?この間火の高度魔法を習得したばかりじゃないか!」
「今度は水の高度魔法らしい。」
「うわぁ凄いなぁ…。アレク様はもう国1番の魔法使いだな…。」
あっすみません!と曲がり角で俺にぶつかりそうになった団員は頭を下げた。
「やばっジュディム様だよ……聞こえたかな今の……。」
「国1番の……ってやつ?そうだよな…魔法使いジュディム様の前じゃやばいよな…。」
「いや、何も言ってこないし聞こえてないんじゃないか?」
団員達はそう言って歩いて行った。
………ああ、聞こえている、聞こえているさ!!お前達がアレクを賞賛する声が呪言のようにね!!
「わぁ!ジュディム様凄い!!光が点った!」
「ふふ、このぐらいどうってことない。」
師匠の家にいる後輩達に魔法を教えてやるのが俺の日課だった。
「ジュディム様!ジュディム様は将来王様につかれるのでしょう?」
「俺が王様に?そんな畏れ多い……。」
「そんなこと無い!!ジュディム様は今は師匠を超える力だ!!国1番の魔法使いになって国をお守りください!!」
分かった分かった、俺はそう言って後輩達の頭を撫でた。
「ジュディム、お前に話がある。」
突然師匠に呼ばれた。やばい師匠が大事にしていたクッキーを食べたのがバレたか………。
「すまない師匠…つい手が……「何の話だ。ジュディムお前に手紙だ。」
師匠はそう言って俺に手紙を渡した。豪華な飾りの付いた美しい手紙………まさか、これは!?
逸る気持ちを抑えながら手紙を開けると―――お城からの召集令状だった。
「………王様から?俺は………王様に呼ばれたのか…?」
「ジュディム、お前の腕が認められたんだ。お前の力をこんな小さい魔法教室で終わらすのは惜しい。王様の元に行って、その力を捧げよ。」
ああ、ついに俺の力が認められたのか!!この国で1番偉い、王様に!!―――俺はすぐにお城へと向かう準備をした。
「……ジュディム様行ってしまうんだね…。」
「なんだよあれほど喜んでたのに!ジュディム様困ってるだろ!」
「だって寂しい……。」
「大丈夫だ、また遊びに来るよ。手紙だって書く。」
「ジュディム様ぁぁ!!」
後輩達が泣きついてきた。はっ…鼻水が!!
「………ジュディム…………。」
「……師匠……お世話になりました。ここまで来れたのも師匠のおかげです。」
「ふん、お前の実力だよ。お城での仕事は大変だからな、たまには休みに来い。………あとな、ジュディム。」
師匠が真面目な顔をした。なんだ。
「…お城には強いやつが沢山いる。もしかしたらお前より魔法が得意なやつも居るかもしれない。だがお前が強いことには代わりはない。…………自分を見失うなよ。」
「何言ってんだ先生!ジュディム様が1番に決まってるだろ!」
後輩達が師匠に喰ってかかった。
「………いや、そうだな世界は広いからな。忠告ありがとうございます師匠。」
俺はそう言って頭を下げたのだった。
「おい、あの方が王様直々にお呼びになった魔法使いだろ?」
「ああ、凄いよな…この間の魔物の群れもあの方1人でほぼ全滅させたらしいぞ。」
「田舎の魔法教室から来たと言うが……ダイヤの原石だったんだな。」
あはは、どこもかしこも俺の賞賛でいっぱい。そうだ俺は国1番の魔法使いだ。畏れ多い存在だ。もっと俺を賞賛すればいい。
「ジュディム様、お手紙が届いております。」
召使いから渡された手紙……ボロボロの紙に崩れた文字………後輩達だ。
【ジュディム様お元気ですか?毎日のようにジュディム様のご活躍が聞けて僕達は嬉しいです。たまには遊びに来てください。】
「……悪いな俺は魔法の勉強で忙しいんだ……。」
俺は可愛い後輩達に返事を書きに部屋へと戻った。
「なぁ、知ってるか?新しい団員の話。」
「ああ、聞いた!!なんか物凄く強いんだろ?」
「この間副団長が訓練中に負けたらしい。信じられるか?あの副団長が!!」
「なんかいい所のお坊ちゃまらしいけど……凄いんだな。」
「名前はなんだっけ………えっと…………。」
「クリス=シュナイダー=アレクサンドリアだ。」
俺が突然声をかけると団員達は驚いた。
「!! ジュディム様お疲れ様です!!」
「こんな所でお喋りとは。騎士団も暇なんだな。」
「申し訳ございません!!失礼します!!」
団員達はそう言って走って行った。
―――クリス=シュナイダー=アレクサンドリア……。最近嫌に耳にするな。聞いた話剣だけではなく魔法も使えるとか。……ふん、まぁ俺に比べればまだまだだろう。さてまた研究に戻るか。
「……ジュディム、お前の魔法研究に入れて欲しい者がいる。」
ある日の午後、俺は王様に呼ばれていた。
「研究に?構いませんが…新しい魔法使いですか?」
この時期に新しい魔法使いが来るなんて珍しいな…俺みたいに優秀なやつか?
「いや、魔法使いではない。この度副団長に就任した…………。」
副団長に就任した?まさか………。
「クリス=シュナイダー=アレクサンドリアだ。」
「………ジュディム様、宜しく頼む。」
振り返ると副団長の服を着たクリスが立っていた。
「ジュディム様、これはこちらの魔法の方がいいのではないか?」
「あっああ……そうだな……。」
なんだこいつ…まだ研究室に来て間もないのにもう魔法の本質を理解し研究し始めたぞ。
「あっあとジュディム様……「アレク!!」
突然の俺の大きな声に研究室が静まりかえった。
「あっ……悪い………。アレク、俺の事はジュディムと呼んでくれ。様は要らない。」
「しかし………。」
「俺はお前の先生では無いんだ。そうだろ?」
ああ、そうだな。とアレクは新しい魔法水を取りに行った。
ジュディム様………そう呼ばれて虫唾が走ったのは初めてだ。なんだこの感覚は。怯えてる?俺があのガキに?そんな馬鹿な。俺は重い気持ちを引きづりながら研究を続けた。
【ジュディム様、最近お手紙が届きませんがいかがお過ごしでしょうか?僕達はやっと火の魔法を…………】
俺は手紙をクシャりと握り潰した。
あああ!!ついにアレクが新しい魔法を習得した!!あれは俺が何年もかけてやっと習得したのに……!!負けてられない!!俺は高度魔法を習得してやる!!
それから俺は狂ったように研究室に引きこもった。
「………ジュディム…久しぶりだな。大丈夫か?最近外でお前を見ていないが…王様も心配しておられだが……。」
「……ああ、アレク大丈夫だよ。もう少しで習得出来そうなんだ………。」
あああああ!!うるさいうるさいうるさい!!お前なんかに負けてたまるか!!今に見てろ!!俺が先に高度魔法を習得して、お前を嘲笑ってやるからな!!俺は今日も研究に没頭していた。
―――そしてついに!!
「やった!!やったぞ!!ついに火の高度魔法を!!」
「きゃ!?ジュディム様どこへ……」
邪魔だどけ!!王様!!王様ついに俺は高度魔法を手に入れたぞ!!
「王様!!ジュディムはやりました!!」
「おい、ジュディム王様の前だ静かにしろ。」
うるさい神父!!王様……ついに……俺は……。
「おお、ジュディム久しぶりだな。顔が見られて嬉しいぞ。そうだジュディム、アレクがまたもや快挙だ!今度は水の高度魔法を手に入れおったぞ!!」
「…………え?……水………?またもや………?」
「そうかお前は研究室に引きこもってたから知らなかったんだな?あいつはこの間火の高度魔法も習得したのだ。」
…………頭を殴られた気分だ。俺が……俺がやっと習得した魔法をあいつは既に手に入れてたのか…?………既に新しい魔法も手に入れたのか……………?
「優秀な魔法使いが2人もいて私も鼻が高い。……ところでジュディム私に何の用か。」
「……………いえ、久しぶりに王様の顔を見ようかと…。」
「そうか、私も見られて嬉しい。こうやってたまには外に出なさい。」
俺はフラフラと王室を後にした。
「ああああああ!!」
俺があんなに苦労した高度魔法をもう習得していたなんて!!それに新しい魔法を習得しただと!?ふざけるな!!
……まだだ……まだ俺はやれる………。俺はさらに研究に没頭した。
「……ねぇ最近ジュディム様見かけないけど大丈夫なの?」
「研究室から出ないのよ…。お手紙さえも受け取らなくて…。」
「お手紙?ああ、あのジュディム様が昔居た魔法教室の子達の……。」
「可哀想に…ジュディム様から返事が無いのにずっと書き続けてるみたい………。」
ダメだダメだダメだ!!アレクはついに風の高度魔法も手に入れた……。こんなんじゃアレクを追い越すどころか隣にも立てない!!……もっと違う何かを………アレクが習得していない………何か………。あっ!!そうだ!!闇魔法だ!!闇魔法なら!!
「ダメだ。」
俺は王様に懇願していた。闇魔法習得の許可を。
「王様!!闇魔法は強大です!!必ずや魔王討伐に役に立つでしょう!!」
「ジュディム、闇魔法は人を捧げて習得するものだ。お前は魔王討伐に人の命を差し出すつもりか。」
「しかし王様!!多大な力には多少の犠牲も……!!」
「ジュディム!!お前には闇を頼らずとも強大な魔法があるだろう!!私の意見は変わらない。もうこの話は終わりだ。」
そう言って王様は俺に背を向けた。―――何故だ?何故許してくれない?何故俺を認めてくれないんだ。
俺はフラフラと路地裏を歩いていた。
俺はなんでこんな惨めな思いをしているんだろう。こんな思いをするためにお城に来たわけでは無い―――。
その時だった。俺の目の前に魔物が現れた。
「っ!くそっ!!」
俺は一瞬で魔物を魔法で焼き払った。
「……魔物まで俺を馬鹿にしやがって………ん?」
死んだ魔物の下に青い玉のようなものが転がった。……と同時にその玉は割れ煙が出てきた。
「!? なんだ!?……ぐっ!!」
一瞬で俺は地べたに這いつくばった。全身に恐ろしい程の気圧を感じる。なんだ!?なんだこれは!?
「……はじめまして、ジュディム。」
脳に直接語りかけるように話し始めた男……よく見えないが……こいつは………。
「お前……まさか魔王か………?」
「魔王か………人間達はそう呼んでいるな。」
まさか魔王が現れるなんて……情けないことに俺は魔王の放つ気に押され立つことさえ出来なかった。
「魔王が何しに来た?俺を殺しに来たのか?」
「ははは、今の私は影だ。お前に傷一つも付けることは出来ない。」
「なら何しに来た。無様な俺を笑いに来たのか?」
「ふふ、そう自暴自棄になるな。お前は優秀じゃないか。……お前達の周りには理解されてないがな。」
「………慰めに来たのか?俺も落ちたものだ。」
「だから自暴自棄になるなと言ってるだろう。お前は随分闇魔法に熱心じゃないか……闇魔法ならお前は1番になれるのにな。」
1番……その言葉が俺の頭に響いた。
「…………どうだジュディム、私達と来ないか?私ならお前を……お前の力を理解し生かすことが出来る。」
「はっ!ふざけるな!!いくら俺でもそこまで落ちぶれていない!!」
「ジュディム、私はな、こう見えて慈悲深いところもあるんだ。」
なんだこいつ。いきなり何の話だ。
「……昔食べるものにも困っている幼い兄弟を見かけたんだ。慈悲深い私は彼らに何枚もの金貨を渡してあげた。………するとどうだろう。幼い兄弟はありがとう、と言ってその金貨で取った木の実を割り始めた。……彼らは金貨の価値を知らなかったんだ。」
「…………何が言いたいんだ。」
「つまり、どんなに価値がある物でもその価値を知らないと無意味な物になる。…今のお前もそうじゃないのか?」
無意味!?ふざけるな俺は………。
「輝かしい功績をもった魔法使い様も今じゃ副団長の影にいる無意味な存在だ。」
違う俺は……俺は俺は俺は俺は!!
「………お前の本当の力を見せてやればいいじゃないか。」
―――そうか……俺は無意味なんかじゃない。俺はここで終わってしまう人間では無いんだ………。
「私達と一緒に来るんだ。ジュディム。」
気付けばあれほど俺を抑えていた魔王の気も収まっていた。俺はフラフラと立ち上がった。
"お前達は私の自慢の息子だ。"王様の声が頭に響いた。
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手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
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