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序章〜観測者
14. Finally found (やっとみつけた)
しおりを挟む灰色の雨雲が空を覆い、更に雨は降り続く。
豪雨という表現が生易しく感じるほどの雨は激しさを増しながら、雨を避けるように3台は順番に[かまくら]の中に入っていく。
園児たちを乗せたマイクロバス、月斗たちの乗ったバスと妃音の赤いクーペが横一例に並ぶ。
マイクロバスから数名の園児たちを連れて泉 穂波が車外に出て用を足しにいく。
赤いクーペの車内では、助手席に月斗がしっかりと陣取っていた。
妃音の飲み残しのペットボトルにはいった水が視界に入る。それに気づいてか、気付かずか妃音が悪戯っぽい表情で
「月斗くん、喉…乾かない?」
月斗はゴクリ…と唾を飲み込むと、その音が妃音に聞こえてしまうのが恥ずかしくて顔が熱くなるのがわかった。
「私も喉乾いちゃった。」そう言ってさっき月斗が口をつけたペットボトルに妃音の柔らかそうな唇が触れる。
「月斗くんも飲んで!飲みさしで悪いけど!」そう言うと月斗にソレを差し出した。
妃音から差し出されたペットボトルを受け取る時に月斗の指が妃音の指に触れる。
慌てて
「すっ、すみません!」
妃音はクスリと笑いながら
「月斗くんの手、大きくて硬いのね!」切れ長の大きな目が笑うとさらに長い睫毛がよく目立つ。整った人形のような妃音の顔が目の前に近づくと
「月斗くんのそうきゅうってコレは何部なの?」と言って月斗の制服のシャツの下に着ているユニフォームから覗く文字を指さした。
「そうきゅう?ああ!コレ…ハンドボール部です!」
「ハンドボール?」
「ああ、バスケとサッカーを合わせた様なスポーツなんですけど…」
「へぇ!ごめんなさい、私スポーツに疎くて…」
「そうですね、野球やサッカー、バスケットと違ってあまり知らない人も多いと思います」
「そうなんだ…」
「妃音さんは!何で1人で…」と問いかけた時に運転席の窓から覗く子どもの姿が見えた。
肩まで伸びた黒髪と切りそろえられた前髪、琥珀色の綺麗な瞳の子ども。左目の下にホクロがある。
窓越しに見えたその子の唇が運転席に座る妃音に向かって
「ヤ ッ ト ミ ツ ケ タ…」と動いた気がした。
北浜 晴人の能力で雨は1時間ほどで収まった。
名前のイメージから 晴人=いい天気 という事だろう。
最初晴人が試したところ彼の周りだけが雨がやんだ。
ささなくてもいい傘みたいだな。
全く使え無い能力かに思えたが、皆の意識が集中すると晴人の能力が途端に向上した。どうやら、名前と他人からのイメージが高まるほどこの世界での魔法に影響が出る事に間違いが無いようだ。雲が徐々に消えていき、次第に雨が止んだ。
雨粒の大きさの割には水嵩が増さずに済んだことは不幸中の幸いで乾いた大地が大量の雨を吸い尽くしていた。
短い夜が明けて、太陽が地平線の低いところに位置している。朝を迎えたが、低い位置の太陽が冬場のどんよりとした雰囲気で朝焼けと言うよりも夕暮れの様相だった。
堂島が皆を集めてこの世界とマイクロバスの園児たちの事を説明した。
難しい話であるため園児たちを幼稚園バスで待機させ、マネージャーの南 千里と天道 京華を園児たちに付き添わせた。
堂島の話を聞いた、当の本人の泉 穂波をはじめ、生徒たちは皆、一様に信じられないという表情を浮かべる。
10年前に失踪した幼稚園児たちがそのままの姿で目の前にいる事実と、もしかしたら自分達も同様にこの異世界に囚われるかも知れないという不安が生徒たちの間に渦巻いた。
更に昼夜が短い事について堂島の話では、通常大きな天体ほど自転速度が速い為、昼夜の時間が短くなるという。
地球の自転周期が約24時間=1日、なのに対して直径が地球の12倍弱ある木星は10時間程で一回転をする。
この世界では6時間程で陽が沈み、6時間程で陽が昇っていた。約12時間で一回転するとすればここは地球より大きな惑星という可能性がある…が、重量が弱いという点が不思議だとか何とか言っていた様な…ていうか、他の星だとすれば息が出来ると言うのもそもそも不思議という事だ。
月斗はその事よりもさっきの妃音(ひめの)に近寄って来た園児の事の方が気になっていた。
あの子の唇の動きの「ヤットミツケタ」の意味。
見間違いかも知れないが明らかに妃音さんに近づいて来ていたはず!
結局その後すぐにその子は、泉先生に連れられてマイクロバスへと移動した。
あの子たちが失踪したのが10年前…と言ってもあの子たちにとってはつい昨日?の出来事のはず。
あの子が妃音さんの知り合い?…なはずは無い…よな?
月斗はそんな事を1人考えを巡らしながら、隣にいる妃音の方を見た。
妃音と目が合い
「なんか難しいね…」と小声で話し掛けられた。
「えっ、ええ」妃音の整った顔と長い睫毛の目がとても綺麗で思わず見とれてしまう。
その間も堂島の長い講義?は尚も続いていた。
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