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序章〜観測者
16. Recollection (回想1 南 千里) RUN & GUN
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■中学時代の南 千里
黄色いボディに象の絵が描かれたマイクロバスの車内の座席に南 千里は後輩の天道 京華と並んで座っていた。
自身の魔法で離れた場所の様子がわかる千里は、堂島たちを含めた男子がなんか盛り上がってるなぁ!…と思い笑いを堪える様に肩を震わせて少し俯むいていた。
中学時代の千里だったらまずこんな反応はしなかったはずだ。
「お姉さま、どうかなさいましたか?」
隣に座っている天道 京華が千里に声を掛ける。
「男子達の様子が伝わってきて…」
「アホの男子たちですか?それにしても凄いですわ!お姉さまの魔法!私なんか、とっても恥ずかしくて…役に立たないと言うか…これではまるでfarmですわ!」
「????」
「2軍って事ですわ!」
それを聞いてまた千里はクスっと笑う。
天道 京華は他の生徒達と違いどこかのお金持ち?資産家?の令嬢らしく、言葉遣いもそれに寄せてる気がする。
一つ年上の南 千里の事をお姉さまと呼び、上級生の女生徒たちをお姉さま方と呼ぶ。
ただし、上級生や同級生の男子に対してはそうしないのは何故なのかはわからない。
そもそも、男子が嫌いで女子が好きという噂もあるくらいだし京華がこの学校に入学し、ハンドボール部のマネージャーになったのも1年先輩の南 千里を慕っているからだった。
「それにしてもお姉さまは本当にすごいですわ!」
「そんな…京華ちゃん、私なんて!」
「いいえお姉さま!私(わたくし)、中学時代のお姉さまの活躍!とても感動しましたのよ!」
中学時代…高校に入学してマネージャーになる前は、千里はハンドボール部の選手だった。
強豪と呼ばれるチームに所属し、男子にも引けを取らない活躍でエースの座をものにした。
小学校の3年の時にちょっとした興味から始めたのがキッカケで、千里は、身体能力の高さからみるみる上達を果たし、ジュニア時代、たった1年でレギュラーポジションを獲得した。
長い手足で自在にボールを操るドリブルと柔軟な身体を生かした可憐で変幻自在なシュートで他の女子を圧倒し続けた。
そして千里が中学2年の時、練習試合で自分の学校にやって来た相手チーム。
彼らの通う中学は中高一貫で中等部と高等部が併設して校舎が立ち並ぶ、中でも運動部の活動が盛んで、特に高等部で野球部などは毎年甲子園の出場校に名を連ねるほどだ。
部員も野球、サッカー、バスケ、そして高等部でのハンドボールも強豪校として知られていた。
にも関わらず中等部では、他の人気スポーツに押されてハンドボール部員が少なく何度か創部、廃部を繰り返し、まだ彼らの代が創部されて2年目だった。
知識のある指導者もろくにいない彼らは、千里の中学校の2軍の男子メンバーにすら手も足も出ずに、大敗を期していた。
その時の千里は、何も出来ずにコート内をウロウロする赤毛の小さな男の子の姿を覚えていた。
ドリブルもパス回しもろくに出来ずにウチの中学の中では最弱の男子メンバーにさえ全く歯が立たない。
稚拙な上に一方的な試合を見せられて千里は苛立ちを覚えた。
試合後、練習試合とは言え初勝利をあげた千里のチームの男子たちは大歓喜し、反対に1点も得点出来ずにいた彼らはと言うと、悔し涙一つ流さずにヘラヘラと笑っていたのが余計に腹立たしかった。
手も足も出せずに悔しく無いの?そんな思いが溢れ出たせいだろうか?
コートを後にし、教室で着替え終わった彼らと偶然廊下で見つけた。屈託なく談笑しながら千里の横をすり抜けた彼らに
「あんた達!あんな試合して恥ずかしくないの?」
そう言われ振り向いた赤い髪の小さな男の子はニコリと笑い。
「次は俺たちが勝つから!」
思いもよらない答えに戸惑いながら
「何を根拠に?あんな動きで何が出来るっての?」
赤毛のその男の子は満面の笑顔を浮かべながら
「うーん、そっか!」
と少し考える仕草をして
「いっぱい練習する!」と答えた。
細めた左目の下に泣きぼくろがあったのを千里は覚えている。
その無垢な笑顔に千里はつい
「頑張って!」と素直に答えてしまった。
彼らの学校とは、2か月後に練習試合の予定が組まれていたが千里のチーム側が練習にならないと言う理由で一方的に練習試合はその後一度も行われなかった。
結果、彼らのチームとはそれきり練習試合はおろか試合が組まれる事が無く千里は3年生になっていた。
8月、千里のチームは男女とも全国大会への出場権を獲得していた。
北は北海道、南は九州までの全国各地から勝ち上がった代表校19校と開催地からの1校が集結している。
千里の所属するチームの近畿勢は、3校の代表校が勝ち上がって来ていた。
その内の1校に西宮の応徳学園中等部の名前がある。
僅か創部、3年目と云う異例のスピードで他の強豪校を押し除けての出場である。
この年は、開催地がハンドボールの聖地と呼ばれる富山県氷見市での開催の為、兵庫県での開催と違い、開催地枠での出場というわけでもない。
間違いなく彼らは実力で勝ち上がって来たという事になる。
その選手らの中に赤毛の少年の姿もあった。
大会はトーナメント方式で優勝が争われた。
20校は男女でそれぞれ4ブロックに分けられ、同じ近畿勢が対戦するには準々決勝となっていた。
初日の一回戦、千里の中学は男女共シード校として試合は行われ無かったが応徳学園中等部は初戦を難なく突破して2回戦へと駒を進めていた。
たった一年前と違い、個々の選手の動きがとても統制されていて、中でも特徴的なのが通常、1チームはコート上に7人以内で、今大会の最大登録人数が14人なのに対してコートプレーヤー6人とゴールキーパー1人の構成が基本的だが、彼らのチームには、ゴールキーパーがいない。
中学校の大会では前半25分で、交代は無制限で申告する必要もない為、選手層の厚いチーム程、スタミナの面では有利だと言える。
敵チームは自陣の交代ラインからいつでも何度でも交代できる為、頻繁にメンバーチェンジが行われる中、彼らは7人で全員の為、誰一人交代する事なく、25分間をフルで出場しながらの圧倒的なランアンドガンスタイルで一回戦を制した。
その独特なプレースタイルに会場中が息を呑んだ。
黄色いボディに象の絵が描かれたマイクロバスの車内の座席に南 千里は後輩の天道 京華と並んで座っていた。
自身の魔法で離れた場所の様子がわかる千里は、堂島たちを含めた男子がなんか盛り上がってるなぁ!…と思い笑いを堪える様に肩を震わせて少し俯むいていた。
中学時代の千里だったらまずこんな反応はしなかったはずだ。
「お姉さま、どうかなさいましたか?」
隣に座っている天道 京華が千里に声を掛ける。
「男子達の様子が伝わってきて…」
「アホの男子たちですか?それにしても凄いですわ!お姉さまの魔法!私なんか、とっても恥ずかしくて…役に立たないと言うか…これではまるでfarmですわ!」
「????」
「2軍って事ですわ!」
それを聞いてまた千里はクスっと笑う。
天道 京華は他の生徒達と違いどこかのお金持ち?資産家?の令嬢らしく、言葉遣いもそれに寄せてる気がする。
一つ年上の南 千里の事をお姉さまと呼び、上級生の女生徒たちをお姉さま方と呼ぶ。
ただし、上級生や同級生の男子に対してはそうしないのは何故なのかはわからない。
そもそも、男子が嫌いで女子が好きという噂もあるくらいだし京華がこの学校に入学し、ハンドボール部のマネージャーになったのも1年先輩の南 千里を慕っているからだった。
「それにしてもお姉さまは本当にすごいですわ!」
「そんな…京華ちゃん、私なんて!」
「いいえお姉さま!私(わたくし)、中学時代のお姉さまの活躍!とても感動しましたのよ!」
中学時代…高校に入学してマネージャーになる前は、千里はハンドボール部の選手だった。
強豪と呼ばれるチームに所属し、男子にも引けを取らない活躍でエースの座をものにした。
小学校の3年の時にちょっとした興味から始めたのがキッカケで、千里は、身体能力の高さからみるみる上達を果たし、ジュニア時代、たった1年でレギュラーポジションを獲得した。
長い手足で自在にボールを操るドリブルと柔軟な身体を生かした可憐で変幻自在なシュートで他の女子を圧倒し続けた。
そして千里が中学2年の時、練習試合で自分の学校にやって来た相手チーム。
彼らの通う中学は中高一貫で中等部と高等部が併設して校舎が立ち並ぶ、中でも運動部の活動が盛んで、特に高等部で野球部などは毎年甲子園の出場校に名を連ねるほどだ。
部員も野球、サッカー、バスケ、そして高等部でのハンドボールも強豪校として知られていた。
にも関わらず中等部では、他の人気スポーツに押されてハンドボール部員が少なく何度か創部、廃部を繰り返し、まだ彼らの代が創部されて2年目だった。
知識のある指導者もろくにいない彼らは、千里の中学校の2軍の男子メンバーにすら手も足も出ずに、大敗を期していた。
その時の千里は、何も出来ずにコート内をウロウロする赤毛の小さな男の子の姿を覚えていた。
ドリブルもパス回しもろくに出来ずにウチの中学の中では最弱の男子メンバーにさえ全く歯が立たない。
稚拙な上に一方的な試合を見せられて千里は苛立ちを覚えた。
試合後、練習試合とは言え初勝利をあげた千里のチームの男子たちは大歓喜し、反対に1点も得点出来ずにいた彼らはと言うと、悔し涙一つ流さずにヘラヘラと笑っていたのが余計に腹立たしかった。
手も足も出せずに悔しく無いの?そんな思いが溢れ出たせいだろうか?
コートを後にし、教室で着替え終わった彼らと偶然廊下で見つけた。屈託なく談笑しながら千里の横をすり抜けた彼らに
「あんた達!あんな試合して恥ずかしくないの?」
そう言われ振り向いた赤い髪の小さな男の子はニコリと笑い。
「次は俺たちが勝つから!」
思いもよらない答えに戸惑いながら
「何を根拠に?あんな動きで何が出来るっての?」
赤毛のその男の子は満面の笑顔を浮かべながら
「うーん、そっか!」
と少し考える仕草をして
「いっぱい練習する!」と答えた。
細めた左目の下に泣きぼくろがあったのを千里は覚えている。
その無垢な笑顔に千里はつい
「頑張って!」と素直に答えてしまった。
彼らの学校とは、2か月後に練習試合の予定が組まれていたが千里のチーム側が練習にならないと言う理由で一方的に練習試合はその後一度も行われなかった。
結果、彼らのチームとはそれきり練習試合はおろか試合が組まれる事が無く千里は3年生になっていた。
8月、千里のチームは男女とも全国大会への出場権を獲得していた。
北は北海道、南は九州までの全国各地から勝ち上がった代表校19校と開催地からの1校が集結している。
千里の所属するチームの近畿勢は、3校の代表校が勝ち上がって来ていた。
その内の1校に西宮の応徳学園中等部の名前がある。
僅か創部、3年目と云う異例のスピードで他の強豪校を押し除けての出場である。
この年は、開催地がハンドボールの聖地と呼ばれる富山県氷見市での開催の為、兵庫県での開催と違い、開催地枠での出場というわけでもない。
間違いなく彼らは実力で勝ち上がって来たという事になる。
その選手らの中に赤毛の少年の姿もあった。
大会はトーナメント方式で優勝が争われた。
20校は男女でそれぞれ4ブロックに分けられ、同じ近畿勢が対戦するには準々決勝となっていた。
初日の一回戦、千里の中学は男女共シード校として試合は行われ無かったが応徳学園中等部は初戦を難なく突破して2回戦へと駒を進めていた。
たった一年前と違い、個々の選手の動きがとても統制されていて、中でも特徴的なのが通常、1チームはコート上に7人以内で、今大会の最大登録人数が14人なのに対してコートプレーヤー6人とゴールキーパー1人の構成が基本的だが、彼らのチームには、ゴールキーパーがいない。
中学校の大会では前半25分で、交代は無制限で申告する必要もない為、選手層の厚いチーム程、スタミナの面では有利だと言える。
敵チームは自陣の交代ラインからいつでも何度でも交代できる為、頻繁にメンバーチェンジが行われる中、彼らは7人で全員の為、誰一人交代する事なく、25分間をフルで出場しながらの圧倒的なランアンドガンスタイルで一回戦を制した。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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