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第1話 婚約破棄
しおりを挟む「おまえとの婚約を破棄する!」
ある日の夜会。
婚約者である公爵令息エドワード・ディゴリーに呼びだされたかと思うと、そんなとちくるった宣言をされた。
この王国では婚約を破棄されることは大変不名誉。このように公衆の面前でされるのはなおさらだ。傷物として社会的に詰んでしまうことにもなりかねない。なのでふつうならば縋りついてでも、婚約破棄を取り消してもらえるように頼む場面だ。
だが今回婚約破棄された侯爵令嬢エミリア・ファーラットは――
「はい、どうぞご自由に~!!!」
これ以上ないぐらいに満面の笑みでその申し出を了承した。
その間、わずかコンマ一秒である。
(やった……やったわ! ついに婚約破棄してくださったわ!)
体面もあるので表では笑みだけで済ませているが、エミリアの頭のなかはすでにお祭り騒ぎであった。
強がりではない。本当に、純粋に、心の底から、うれしかったのだ。
(暴力男とやっとおさらばできる!)
なにを隠そう、エミリアの婚約者であったこのエドワードは表では平凡なのだが、裏ではエミリアを粗雑に扱い、気にいらぬことがあれば口より手がさきにでるような最低男だった。
立場上、自分からは言いだせなかったが、本人から申し出てくれるなら問題なく婚約破棄できるというもの。
ニコニコと満面の笑みのエミリアを見て、エドワードは野生のチンパンジーのような暴力性をいかんなく発揮し、苛立ったように近くの卓を蹴りあげる。
「ご、ご自由にだと? この性悪が開きなおりおったか……! 貴様が辺境伯家のものと浮気していたこと、さらにはこのミーナをずっと陰で虐げてきたことについて説明しろ!」
「ああ、そちらは法廷でどうぞ~」
顔を真っ赤にして怒っているが、エミリアは適当にそうあしらう。
すべて事実無根だと説明はできるが、この男になにを言っても無駄だとわかっていたからだ。
「ひどい、エミリアさま……いつもあたしに陰で暴力を振るったり、侯爵家の権力をつかって仲間外れにしたりしてきたのに、ぜんぶ白をきるつもりなんだ! ふええええん」
エドワードの背に隠れていた令嬢、ミーナ・ラビスリーがわけのわからないことを言い、嘘泣きをはじめる。
(また病気がはじまった……)
このミーナ・ラビスリーという男爵令嬢は、地位ある男に片っ端から媚びを売って言い寄り、自分に都合のいいようにあることないこと言いふらすとんでもない虚言癖令嬢だ。虐げていた云々の話も、このミーナがエドワードに吹きこんだ話なのである。
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暴力云々がたとえなかったとしても、さすがにこの程度の嘘を見抜けない男は願いさげである。
「お話しがそれだけならこれで~」
「お、おい待てこの性悪浮気女!!!」
性格は確かによくはないが、浮気なんてしていないし、そもそも浮気しているのはエドワードとミーナのほうだ。
まあ暴力男に虚言女でお似合いなのでどうぞお幸せにという感じである。
呼びとめられたが無視し、エミリアは夜会をあとにするのだった。
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