前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎

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1章 旅立ち

10話 陰陽師、靴を履かされる

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「……」

 びくん、と清士郎の体が跳ねる。
 心臓が高速で脈打った。
 暑くもないのに嫌な汗が首筋を伝う。

(待て、僕じゃない可能性がまだ……)

 残されているわけも、なかった。

「そこのお前だ、童」

 叡明は視線は向けず、しかししゃくで間違いなく清士郎を指した。

(……逃げる、か?)

 追いつめられ、そんなことを考える。

 だが相手はあの安倍叡明だ。
 そんな素振りを見せれば即座に捕まる。

 前世の記憶が戻ったと言っても、今の自分は人間。強靭なモノノ怪の肉体を持っていた前世とは、肉体の基礎能力値が違う。逃げきれまい。

(早まるな僕)

 下手に怪しまれることをするのは悪手。
 
 そもそも、だ。
 自分が昨晩の“裂”を放ったとバレても、別に前世で玉藻たまもだったことが明るみに出るわけでもない。最悪バレたとしてもごまかせる。

 冷静に考え、清士郎は腹をくくる。
 振りかえり、叡明と前世振りに向き合った。

「え、僕……ですか?」

 家族に気色が悪いと評される微笑を浮かべ、ひょこと首をかしげた。
 記憶を取りもどす前の無垢な童を演じる。

「そう言っている。履いてみろ」
「しかし僕はまともに陰陽術の鍛錬もしたことがありませんし……」

 真実だった。
 清士郎はこの家で虐げられ、まともな教育を受けられなかった。双子の練習相手という名目でこてんぱんにされていたので、身を守る術は人並み以上に使えるが、それだけだ。

「履いてみろと……そう言っている」

 しかし叡明は言い逃れさせてはくれない。

 これはもう履くしかなさそうだ。

 陰陽師たちに注目され、右衛門と双子には見下すような視線を向けられつつ、清士郎は叡明の前に進み出る。東満から靴を受けとる。

「どうぞ~」

 靴の前で東満にうながされる。
 清士郎はひとつ息をつき、いつものように靴に笏を差しこみ、すんなりと履いてみせた。

 おお~! と周囲から感嘆の声があがる。

「驚いたぁ……ぴったりだね~?」

 東満が興味深げに言い、ニヤニヤと舐めるように清士郎を見る。
 どこか品定めする視線で居心地が悪い。

 だがそれ以上に居心地が悪いのが――

(ひい……)

 叡明の視線だった。

 先ほどまで無表情だったこともあり、鷹のように鋭くなったその視線の威力は、桁外れ。それだけで前世の恐怖が蘇るほどだ。

「う~ん、強そうには見えないけど……きみがあの“裂”を使った本人ってことでいいのかな~?」
「あ、いやそれはですね……」

 清士郎が口を開きかけると、横槍が入る。


「お待ちください!」
「そいつなわけがありません!」


 口を挟んできたのは、善吉と幸吉だった。

「そいつにはいつも我らの鍛錬の相手をさせていましたが、弱いのなんのでお話にならない実力です。幼少期からの仲なので断言できる」
「そうです、あのモノノ怪と対面して生きのびられるわけがない。ましてやあんな“裂”なんて」

 不服そうにそう言い、嘲笑する。

 相変わらずの性格だが、正直ありがたい。
 理由はどうあれ、清士郎には追い風だ。

「そうなんですよ、僕なんて……」
「……“そう”を見せてみろ」

 だが叡明は自分の目で見るまで何も信じぬというように、清士郎にすぐにそう命じる。

(しかたない……か)

 清士郎は渋々うなずき、“装”の印を結ぶ。

 “装”で実力を確かめるということだろう。
 “装”は陰陽師の実力を測るのによく使われる。霊力量が見えやすいのにくわえ、全身に霊力を行き渡らせる霊力操作技術も必要だからだ。

「う~ん、並以下」

 清士郎の“装”を見て、東満は眉をひそめる。
 実際、貧弱な“装”であった。

「そうでしょう、そうでしょう」
「これがこいつの実力なのですよ」

 双子は満足げに言った。

(うまく騙せたか)

 もちろんこの“装”は清士郎の実力ではない。
 あえて記憶を取りもどす前の実力に見えるよう調整しているのだ。“装”で故意にこの操作をするのは高難度のため、疑うものもいないはず。

「あの霊圧とは比べるべくもないね~?」
「あ……そのことですが、確かに僕はあの場にいました。靴も僕のです。だけど実はあの“裂”は僕じゃなく、敵のモノノ怪が放ったもので」

 先ほど双子に遮られた嘘をすかさず話す。

「えぇ……あれやったのモノノ怪なの~?」
「……そうです、申し訳ありません。すぐに名乗り出ればよかったのですが、大事になっていて本当のことを言うのが怖くなってしまって」

 目撃者の方は見間違えてしまったようですが、と呼吸するように嘘を並べる清士郎。
 嘘は得意だった。前世から。

 東満は絶望した表情で、

「せっかく新しい玩具……じゃなかった、才能が見つかったと思ったのになぁ……知られざる凄腕陰陽師なんていなかったってことか~」
「そういうわけで……お騒がせしました」

 それでは僕は仕事がまだありますので――と丁寧にお辞儀をし、東満に背を向ける清士郎。

 だがそのときだった。


「……!?」


 背後から強烈な殺気。
 それと同時に複数の霊力の塊が、すごい勢いでこちらに向かってくるのを感じた。

 それは反射だった。

「……っ」

 清士郎は前世でそうしていたように、印すら結ばずに全身の霊力を活性化させる。

 そして振り向きざま、飛んできていた三つの霊弾を目視。冷静に手をかざし、それぞれの霊弾の軌道と威力に合わせ、同等の霊弾を放つ。

 向かってきていた三つの霊弾は、清士郎の霊弾とぶつかりあい、相殺されて消失した。

 そこまでほんの数瞬のことだった。

 刹那の出来事に静まりかえる寝殿。
 清士郎へと一気に集まる衆目。


(あ……)


 陰陽師たちが絶句し、いつも無表情な叡明でさえ、こちらを見て目を見開いていることに気づき、清士郎は自身のやらかしを悟った。

 ひゅ~! と霊弾を清士郎へと放った東満の口笛が愉しげに響く。
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