前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎

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1章 旅立ち

14話 安倍叡明 弍

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 清士郎の元服の儀の終了直後――

「叡明さまぁ、おつかれさまです~」
「ああ」

 叡明が加冠役かかんやくを務めあげ、さっさと寝殿しんでんを出ていくと、東満が声をかけてきた。

 東満は叡明の隣に並びながら、

「清士郎ちゃん……どうお考えなんですぅ?」
「どう、とは?」
「いや、どこまで真実を言っているとお考えなのかなと思いましてねぇ」

 叡明はしばし黙る。

 自身でも消化しきれていないことだった。

 あの童――刀岐とき清士郎せいしろう只人ただびとではないのは明らかだ。あの齢で東満の霊弾を完璧に捌いてみせたのだから、それは疑いようもない。

 しかしその力が、清士郎本人の言ったような鍛錬の結果に身につけたものなのか、あるいは別の何かがあるのかは判断しかねていた。

(モノノ怪の線も考えたが……)

 あの童が妖人姿ヒトガタのモノノ怪だという可能性。
 それはまず最初に考えた。

 だが――

(モノノ怪では……なかった)

 身近で観察し、そう確信した。

 感覚的なものだが、人間とモノノ怪の霊力には違いがある。清士郎の霊力は、まぎれもなく人間のものだった。モノノ怪ではありえない。

(だが.......ただの神童とも思いがたい)

 単純に実力だけの話ならば、才能ある童で済ますこともできたのかもしれない。

 だが清士郎はそれだけではなかった。
 妙に肝が据わっているのだ。

 叡明や東満を前にしたとき、あるいは東満に不意打ちされたとき、一般的な童ならば心乱されてしまうのが普通。だが清士郎にはそれがなかった。常に動じず、応対も落ちついていて老獪とでも評すべきものだった。内心で動じていたとしても、それを見せない利口さがあった。

(だがそれならば……なんなのか)

 結論――やはり、わからなかった。

 屋敷で聞き込みをしたものの、清士郎本人の言葉を裏付ける情報しか出てこなかったのだ。幼少期に両親を失い、不義の子として虐げられて育った童。実際それが彼の真実であり、叡明は考えすぎているだけではというのが現状の結論だった。

「どうなんです~……?」
「東満……残念ながらお前がわかっている以上のことは、わたしにもわからぬよ」

 東満は少し納得いかない様子で、

「そう……ですかぁ。叡明さまならば、何か掴んでおられると思ったのですがね~」
「……」
「ちなみになぜ加冠役を? 誰のものも務めないとおっしゃられていたのに」

 一瞬の沈黙。
 なぜなのだろう、と自分自身で考える。

「昔の自分に……似ていたから、だろうか」

 結局、そんなことを言った。

 容姿とか才能とかそういうことではない。清士郎の置かれている境遇が、叡明の幼少期に置かれた境遇とかぶる部分があったのだ。

 そのときは深く考えず行動したが、言語化するとそれが大きな理由の気がしていた。

 なるほどねぇ、と東満はうなずく。

「なんにしろ清士郎ちゃんも可哀想に」
「……?」
「叡明さまが加冠役を務めた新人となれば、注目を集めるのは間違いない。嫉妬を買い、足を引っ張ろうとする輩も出るでしょうね~」

 悪戯な笑みを浮かべる東満。
 可哀想という割には愉しげだった。

「その程度でつぶれるならそれまでだ」
「いや~ん、叡明さま鬼畜~!」

 でもそこが好き~! と。
 くねくねと身をよじって巫山戯ふざける東満。

 叡明はそれを完全に無視し、

「それよりも……あの“れつ”を放ったモノノ怪については何か掴めたのか?」
「いえ、特には」

 訊ねるが、東満は肩をすくめる。

「ただ、目撃者によるといたちのようだったという情報が多いですねぇ。まあ鼬のモノノ怪はありふれているので、なんとも言えないですが~」
「……鼬、か」

 昨晩のあの桁外れの“裂”。
 正直に言うと、叡明は清士郎のこと以上にあれのことが気にかかっているのだった。

 もちろん、清士郎が嘘をついていて、あの“裂”を放った本人だったというならば話は別だが、その可能性は極めて低いと叡明は思っていた。あの“裂”は規格外で、人間の童が放てるものとはやはり思えないものだったからだ。

 となると、“裂”の術者はモノノ怪だが――

(あの霊圧は……)

 確かな情報は何もないが、叡明はあれが覚えのあるモノノ怪のものに思えたのだ。すでにこの世にいない――とあるモノノ怪のものに。

(いや、やはりありえない)

 ありえるわけがない。
 叡明はその手でそのモノノ怪を討ちとり、その目で死にゆくさまを見たのだから。

 それにあれは鼬ではない。あれの側近には確か鼬のモノノ怪もいた気はするが。
 やはり別のモノノ怪だろう。

(鼬となると……特定は難しい)

 鼬の妖怪変化はありふれている。鼬の数がそもそも多いため、それに応じているのだろう。式神として使役する陰陽師も少なくない。

 なんにしろ――


(……必ず見つけだし、始末する)


 それだけは間違いない。

 そのモノノ怪にかぎった話ではない。
 モノノ怪はすべからく始末する。

 あの日――そう誓ったのだから。


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