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1章 旅立ち
15話 蘆屋東満
しおりを挟む叡明を対屋まで送ったあと――
(結局……何もわからずじまい、かぁ)
東満は寝殿の屋根上で胡座をかいていた。
あの童――刀岐清士郎には何かある。
叡明ならばそれを掴んでいるのではと思ったが、やはりそう簡単ではないらしい。
(でもあの子……いいよねぇ。うん、とってもいい。しゃぶり甲斐がありそうだ~)
自身の放った霊弾を流れるように捌ききった清士郎を思いだし、ぶるっと身震いする。
これほどの感覚は久しぶりだった。
あの安倍叡明を初めて見たときに近しいものを感じたのだ。普通のものには決してない――一部のものだけが持つ常軌を逸した何かを。
(叡明さまは……まだしばらくはお預けだからねぇ。それまで我慢しなきゃだから、おいしそうなものはどれだけあっても困らないよね~)
東満は、刺激を求めていた。
情熱的で、妖艶で、甘美な刺激を。
叡明の旅路に同行したのもそのためだ。
叡明が周摩国の大百足――準上級の厄介なモノノ怪だ――を退治に行くというので、面白いことがあるのではと迷わず従者に志願した。大百足退治自体は叡明ひとりで間に合っていたために退屈だったが、帰路に方違えで訪れた辺境でこのような拾いものをするとは、思わぬ幸運であった。
辺境の国の興味もない双子の元服の儀に参加し、くだらぬ祝宴に耐えた甲斐があった。方違えなんて無視してまっすぐ京へ帰ろうという自分の主張を跳ねのけてくれた叡明にも感謝である。
あの純粋無垢に見えた童が、差し迫った状況で一瞬だけ垣間見せた凛とした表情。
あれはすごかった。とても、すごかった。
(あの“裂”も……どうなのかなぁ)
痕跡だけでゾクゾクと内から湧きたつような震えがとまらなくなる“裂”。
理屈だと術者はモノノ怪と考えるのが妥当だ。だが東満は、まだあの清士郎という童が術者である可能性も捨てきれてはいなかった。
まあ――あれが清士郎によるものであれば最高に興奮するし、モノノ怪によるものであったならば、それはそれで面白い玩具が別にもうひとつあることになり、やはり最高に興奮する。どちらに転んでも、東満にとっては最高なのだが。
(さてさてぇ……これから面白くなるぞ~)
秋の除目が近く、陰陽師たちは手柄を立てようと皆が躍起になっている。席は限られており、その席を奪いあわねばならないからだ。
そこに今をときめく右大臣――安倍叡明に加冠役を務めてもらった有望な新人が現れたとなれば、面白く思わないものも多かろう。
間違いなく、荒れる。
陰陽寮で清士郎がどんな輝きを見せてくれるのか、東満は楽しみでしかたがなかった。
(くくく……楽しませてくれよ~?)
新しい玩具を手にいれ、他人に見せられぬ恍惚として蕩けきった表情を浮かべる東満。
そんなときだった。
(ん、あれは……)
噂をすれば、だ。
対屋へと渡る清士郎を視界にとらえる。
儀式で着替えた束帯姿だった。
だがその肩には、何やらうごめく生きもの。
一匹の――小さな白い獣が乗っていた。
(……鼬?)
東満はひょこと小首をかしげた。
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