前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎

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2章 陰陽寮

20話 陰陽師、一矢を報いる

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「……え?」

 陰陽師たちの注目が一挙に集まり、清士郎はそこでようやく詩流しりゅうの言葉を咀嚼する。

 自分が指名されたのだ、と理解する。

「僕……? なんで……?」

 前世は別として、今世では叡明以外の特等陰陽師には一切顔を合わせていなかった。

 いきなりの指名は意味がわからない。

『ほう……それは面白いのう。小僧……確か刀岐清士郎と言ったか、こちらに参れ』

 愉しげに言う虎勝とらまさ

 この模範訓練は普通、ある程度実績を積んだ中等か上等の陰陽師が指名されると聞いていたのだが、まったく止める気はないらしい。

 清士郎が当惑して固まっていると、

「ほら……早く前に行かんと!」
「あ……ああ」

 犬彦いぬひこに背を押され、我に返る。

 三百もの陰陽師の注目を一身に浴びながら、清士郎は大寝殿のほうへと歩いていく。

『いきなり指名だと……!?』
『叡明さまの加冠といい、例がないぞ』
『ここまで露骨な贔屓となると、裏で黒いやりとりがあったかと邪推してしまうがな』

 何もしていないのにすでに悪い噂が立ちはじめていて、清士郎は頭を抱えてしまう。

 御階みはしの下まで来ると、詩流はこちらを愉しげにながめて階下まで降りてきた。

「よォ、叡明の小僧やんぞォ」
「えっと……本当に僕でいいんですか?」
「いいからこうやって指名してんだろうがよォ? 気いつけろ、そういう頭のわりい質問するやつが俺様はこの世で七番目に嫌いなんだァ」

 すみません、と慌てて頭をさげる清士郎。

「でも僕なんか田舎もののド新人で」
「んなもんは知らねェ。あのスカした野郎が拾ってきたと聞いたから、試したくなっただけだァ。俺様に相手をしてもらえて喜べ、愚民」

 確かに本来なら喜ぶべきことなのだろう。

 だが注目を浴びずに平穏に暮らしたい清士郎からすれば、むしろ大迷惑なのだった。

 だが逃げることもできず、

「一応、初めての小僧に言うておく。九字は使用可だが、基本は体術じゃからな」
「……はい」

 無理やり詩流に向き合わされ、虎勝にそんな確認をされたが、うなずくしかなかった。

 陰陽術には、基礎となる九つの印――九字くじを結ぶことで発動できる九字術と、印を応用して組み合わせることで発動する五行術ごぎょうじゅつがある。

 訓練の主旨から考えると、“装”での体術で組み手をする一般的な訓練なのだろう。

 さてどう立ち回るか――


「それでは始め!!!」
「え、心の準備がまだ……!」


 虎勝の合図で詩流がこちらに駆けてくる。

 詩流の“装”は圧倒的だった。

 その霊圧の大きさは元より、一切の瑕疵がない。前世であっても侮れない相手である。まあ侮らなければ、負けることはなかろうが。

(目立たないように……しかし、叡明たちが見ても不自然じゃないようにしないと)

 難しいが、やるしかない。

 清士郎は“装”の印を素早く結ぶ。
 全身に霊力の鎧をまとった。

「おいおい……そりゃふざけてんのかァ!? なんだその貧弱な“装”はよォ……!?」
「すみませんが……これが僕の実力なので」

 直後。詩流の拳が襲いかかる。

「……っ」

 重い。
 
 詩流は本気のほの字も出していないだろうに、清士郎が両腕で受けたが、その防御を貫通し、のけぞるように体制を崩されてしまう。

 その後の幾度かの追撃も、かろうじて受け流すものの、防戦一方に追いこまれる。

 ついには横殴りの蹴撃の勢いを殺しきれず、清士郎は地面に勢いよく転がった。

『ぷぷっ……なんだありゃ弱え』
『“装”が貧弱すぎて、相手になってない』
『これだけ弱いと、やはりそういうことか。叡明さまがそんなことをなさるとはな』

 そんな陰口が飛びかうのが聞こえる。

 元々の清士郎への期待値が高かったのもあろうが、清士郎の想像以上の弱さのせいで、叡明の評判にまで傷がつきそうになっている。

(僕のことなら全然いいけど……僕のせいで安倍叡明の名に傷はつけられないよね)

 叡明をちらと見やり、清士郎は起きあがる。

 前世では宿敵のような関係だったが、同時にお互いを認め合う関係でもあった。そして今世では加冠役を務めてもらった恩もある。

 詩流が呆れた様子で歩み寄ってくる。

「体術自体は……並。だが圧倒的に霊圧が足りてねェ。下手したらそのへんの法師にも劣るんじゃねえかァ? さすがにがっかりだぜェ」
「力不足でがっかりさせて申し訳ありません。だけど……勝負はこれからですよね」

 清士郎が土のついた薄汚れた顔に不敵な微笑を浮かべると、詩流は目を細めた。

「諦めの悪い雑魚……この世で五番目に嫌いだぜェ。まあ、ならかかってこい。俺様をここから一歩でも動かせたら勝ちにしてやんよォ」

 詩流はあくびをし、本当に棒立ちとなる。

 清士郎のあまりの不甲斐なさのせいで、ついには巫山戯ふざけだしてしまった詩流を見て、陰陽師たちは清士郎を指してくつくつと嘲笑する。

 だがそんな中で――


(一歩なら……望みはある)


 清士郎は冷静に一筋の勝ち筋を見出した。

 直後。清士郎は詩流に攻撃をしかける。

 詩流は場から本当に一切動かず、眠そうな顔かつ片手で清士郎の攻撃をさばいた。

 清士郎はそれでも攻撃の手を休めずに連撃を浴びせるが、詩流は最終的にたったの二本の指だけで、清士郎の攻撃を受けきっていた。

「さすがに飽きたぜェ……叡明はなんだってこんな雑魚の加冠役を引き受けて、陰陽寮にまで連れてきたんだァ? まあいい……ねや」

 詩流の霊力が、そこで急にふくれあがる。
 あまりに強大な――そこに龍を幻視してしまうような殺意ある霊力を拳に集めていく。

(あれをまともに受けたら……重傷だな)

 詩流としては本気のほの字を出したかどうかの力なのだろうが、それでも今の清士郎の貧弱な“装”を考えると、致命傷になりうる力だった。

 だが、だからこそ清士郎は――


「……っ!」


 

 詩流が拳を繰りだすよりも一足先に動きだし、勢いのままに全力の拳を突きだした。

 詩流は清士郎のその動きに驚いたように目を見開くが、そのまま拳を繰りだしてくる。

 その瞬間、


「――――」


 二人の拳が、交錯した。

 詩流の拳のほうが断然速かったものの、清士郎のほうが一足先に繰りだしていたことで、二人の拳はほぼ同時に相手をとらえていた。

 詩流の拳は清士郎の左肩付近に突き刺さり、まるで龍に跳ねとばされたかのような凄まじい衝撃で、清士郎を本庭の端まで吹っ飛ばした。

 一方で清士郎の拳のほうは、詩流の顔面を捉えようとしたぎりぎりで詩流が頭部を背後にそらしたため、口元をかすめるにとどまった。

 だがその無理な回避動作の結果――


「っ……!?」


 確かに、詩流を後退させたのだった。





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