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2章 陰陽寮
22話 安倍義比良
しおりを挟む清士郎が大神殿内部に運ばれたあと、残りの特等陰陽師による模範訓練が続行された。
清士郎という例外はありつつも、各々が目をかける陰陽師を指名し、名前のとおりに模範となる高水準の訓練が行われたのだった。
多くの陰陽師は自身が選ばれなかったことに肩を落としつつも、次こそはと奮起した。
だが不満を残すものもいた。
(なぜだ……)
その一人が叡明の弟、安倍義比良だった。
義比良は昨日、実は叡明にこの模範訓練で指名してもらえるように頼んでいた。そのために陰陽寮を出て、叡明の屋敷を訪れたのだ。
(……なぜ兄上は俺を選ばなかった?)
だが叡明は義比良を選ばなかった。
確かに頼んだときの反応はいまいちだったが、兄弟なのだ。便宜を図ってくれるものと思っていた。家族の地位をあげることは、自身の利益にもつながる。家のものを贔屓にするのは普通で、貴族とはそういうものなのだから。
刀岐清士郎というあの童に目をかけていたことは懸念点だったが、清士郎は詩流が指名した。だから叡明は迷わず自分を選ぶと思った。
だが叡明が指名したのは、蘆屋東満だった。
確かに上等陰陽師で並々ならぬ実力のある陰陽師なのは承知だ。実際に二人の模範訓練は規格外で、間違いなく今日一番の激しさだった。
しかし――しかし、と思うのだ。
「……」
納得できなかった義比良は、朝礼のあとに叡明の下に行き、その件を問いつめた。
「なぜ指名していただけなかったのです?」
叡明は義比良に視線もくれず、
「あれは模範訓練。皆の模範となる訓練を行うためにふさわしい相手を選んだだけだ」
「俺では役不足だと?」
「そう言っている」
即答する叡明。
義比良は下等陰陽師ではあるものの、中等陰陽師に近い実力はあると自分では思っている。位が低いのは、入寮して間もないからなのだ。
正当な評価をされる機会があれば、すぐにでも昇格できるはず。だからこそ今日の模範訓練で指名してもらえるように頼んだのだ。
「役不足というなら、あの刀岐清士郎という童でしょう。あれが指名され、俺が役不足とされる意味がわからない。そうではありませんか?」
まくしたてるが、叡明はちらと義比良を振りかえり、無表情でふうと息をついた。
「……あいつの訓練を、見なかったのか?」
「見ていましたよ。詩流さま相手に何もできず、無様に倒れるところをね。詩流さまも指名したことをさぞ後悔なさったことでしょう」
清士郎の無様な姿を思いだし、嘲笑する。
「ほう、なるほどな。だがその詩流は……清士郎を青龍寮へと望んでいるようだったがな」
「まさか!?」
驚愕に目を見開く義比良。
それはつまり、詩流はあの酷い模範訓練の中で清士郎を評価したということになる。
詩流の考えが、わからなかった。
確かにあの訓練で、なぜか清士郎を評価していたものもいた。だがそれは所詮逆張りで、多くのものは清士郎の貧弱さを笑っていたのだ。
「理解できない……詩流さまはあれのどこを評価したというのです? 青龍寮では打撃訓練用の巻藁が不足しているとでもいうのですか?」
あの貧弱な霊力では、清士郎にはそれぐらいにしか使い道がないと本気で思った。
叡明は静かにこちらを見据え、
「義比良よ、お前はいつも斜に構えすぎる。斜に構えていては、物事もゆがんで見えてしまうものだ。それでは決して強くはなれぬ」
「俺は……間違いなく強くなっています。あれから学ぶことなんか何もありませんよ」
日々の鍛錬は欠かしていない。
大きな任務はまだこれからだが、同期では誰よりも成果をあげつづけているはずだ。
「……ならば俺から言えることはない。詩流がなぜ清士郎を評価したかわからぬうちは、俺が訓練でお前を指名することはないと思え」
「兄上……!」
叡明は一方的に言いはなつと、義比良の制止を聞かずに歩き去ってしまった。
義比良はひとり本庭に取りのこされる。
(くそっ、あいつが……なんだというのだ)
強く、歯噛みした。
義比良の元服のときでさえ、叡明は加冠役を引き受けてはくれなかった。にもかかわらず、あの清士郎の加冠役は引き受けたという。
昨日はその理由も問いただしたが、叡明は言葉を濁すばかりで明言を避けていた。
そして今回のことだ。
(ありえない……あんなやつに俺が劣っているはずがない。すぐに証明してやる)
証明できる機会はすぐに来るだろう。
今日、義比良は小隊に配属される。
春に入寮した下等陰陽師は全員、訓練生としての準備期間が終わり、小隊でモノノ怪討伐を軸とした任務がまかされるようになるのだ。
小隊は新人の下等陰陽師の三人一組となり、それに上等陰陽師が指導担当官として一人つく。その小隊の人員が今日わかるはずだった。
(誰と組むことになろうが関係ない)
仲間が無能ならば見捨てるだけ。とにかく結果さえ出せればそれでいいのだから。
決意を新たにする義比良なのだった。
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