25 / 42
2章 陰陽寮
23話 陰陽師、小隊を結成する
しおりを挟む朱雀寮は、陰陽寮の南区画に位置する。
落ちついた濃紅を基調とした建物だ。
中央北側には朱雀寮主である安倍叡明と上等陰陽師の住まう朱雀寮本塔が屹立し、中央南側には訓練もできる広大な中庭が広がっている。そして本塔と中庭をぐるりと取りかこむ形で、中等陰陽師と下等陰陽師の住まう寮舎が建っていた。
その寮舎の西棟にある一室、そこに治療後に運びこまれた清士郎の姿があった。
「んんっ……」
うめき声とともに覚醒する。
そしてすぐに自身の状況を理解した。
(そうだ、模範訓練に指名されて……)
特等陰陽師である吉備詩流と戦い、最後は詩流のとどめの一撃を左肩あたりにもらって、面白いようにふっとばされてしまったのだ。
「あれ、なんともない……」
左肩を普通に動かせることに驚く。
詩流の最後の一撃を受けた瞬間に衝撃で半分意識が飛んでいたが、左肩は綺麗に砕かれた感触があった。癒術使いが治してくれたのだろうか。
鈍い痛みと重さのようなものは感じるが、ちゃんと治っている。あれだけ見事に砕かれたら、通常はすぐに治しきれるものとも思えないが――
「陰陽寮には凄腕癒術使いがおるでなあ」
言いながら入室してきたのは、さきほど本庭で声をかけてくれた日下部犬彦だった。
相変わらずの人懐こい笑みを浮かべた下等陰陽師は、清士郎の傍らにしゃがみこむと、全身から静かに霊力を放出しはじめた。
「でも無茶しとったから、治ったと思っても油断は大敵。木陽道、十六節――《白枝光》」
印を結んだ瞬間。
犬彦の手から数本の白い樹枝が伸び、清士郎の肩に絡みついて温かな光を放った。
すると肩の鈍い痛みが引いたばかりか、前よりも肩が軽くなった気がした。
「治りかけが一番危ないで、知っとき~」
「きみが治してくれたのか……?」
犬彦はぶんぶん首を横に振る。
「いんや、おいらじゃねえよ。おいらには粉々の骨をくっつける力はねえ。癒術使い志望だけどなあ。今のは治りかけの手助けをしただけ」
「そうか、でもありがとう。肩が軽くなった。僕は癒術からっきしだからすごいよ」
「へへへ、お世辞でもうれしいなあ」
犬彦はふにゃと照れくさそうに微笑む。
「でもそれ言うなら、おめえさんのがすげえよ。あの詩流さまに真っ向勝負挑んで! ボロ負けでアホ言うやつもおったけど、おいらは痺れたなあ」
「ありがとう、あれはアホが正解だけどね」
ははは、と笑って肩をすくめる清士郎。
(なるほど、そんな感じか)
清士郎の計算がうまくいっていたなら、最後の一撃で詩流は間違いなく一歩動いたはず。
だがそもそも詩流が動いたら負け、というやりとりは皆に伝わっていないのだ。そうなると清士郎の行動が向こう見ずに映るのは当然だった。
だがこのように評価してくれたものが一部でもいるなら、ちょうどいい塩梅だろう。
それはともかく、と部屋を見回す清士郎。
「ここって……?」
「朱雀寮。今日からおめえさんが暮らす部屋だで。おいらともう一人も一緒だけどなあ」
どういうこと? と首をかしげる清士郎。
すると犬彦は丁寧に説明してくれた。
今日で春に入寮した新人陰陽師が三人一組の小隊を組んだこと、その三人が同室で暮らすこと、そして清士郎と犬彦は同じ隊になったことを。
「んだから清士郎、これからよろしくなあ。おいらは犬彦ってまんま呼んでくれりゃええ」
「うん、よろしく犬彦!」
がっしりと握手を交わす二人。
(……運いいなあ。すぐに馴染めそうだ)
正直、今日ここに来るまでは陰陽師への恐怖心があった。というか今も十分にあるのだが、この犬彦とならうまくやれそうな気がした。
性格もよさそうだし、にこにこと本当に子犬みたいなかわいい顔をしているのだ。
その顔がおねだりをしているような表情だったため、清士郎はつい頭をなでてしまう。
「?」
「あ、ごめん」
きょとんと首をかしげる犬彦に即謝罪する。
この犬彦とは仲良くできそうだが――
「でも三人だからもう一人いるんだよね?」
「おん、そだよ~」
もう一人は、と犬彦が言いかけたときだ。
「……?」
おもむろに、襖が開く。
入ってきたのは叡明の弟、義比良だった。
「噂をすれば……だなあ」
犬彦は愉しげに肩をすくめる。
一方で嫌な予感がひしひしとする清士郎。
義比良はこれ以上ないぐらい不満げな顔で、ドタドタと音を立てて歩み寄ってきた。
そして案の定、
「まさか……俺がお前らと組むことになるとはな。誰でもいいとは思っていたが、それにしても最悪だ。一人は同期で下から数えたらすぐの無能。もう一人は皆の前で大恥を晒し、初日から骨折して小隊に迷惑をかける田舎貴族の童ときた」
昨日の初遭遇時と同じく、自身のお気持ちをつらつら表明して空気を悲惨なことにする。
(嫌な予感当たってたあ……)
顔が引きつる清士郎。
もちろん叡明や東満と比べればましだが、それにしても明らかに最初から好感度の低いものと組みたくはなかった。茨の道になりそうである。
「ははははは……迷惑かけて申し訳ない。でもあらためてこれからはよろしくな」
清士郎はとりあえず手を差しだしてみるものの、義比良はぷいと顔を背けて無視だった。
(先が思いやられる……)
そんなふうに苦笑していると、犬彦が無邪気な笑みで義比良に肩を組んだ。
「まあまあ、よっしー仲良くやろうやあ」
「……ええい離れろ、馴れ馴れしい」
忌々しげに振り払う義比良。
だが犬彦は気にした様子もなく、
「そんなつれないこと言うて、よっしーイケずう! なあ、おいらたちの仲だろお?」
「ほぼ初対面だ。あと変な名で呼ぶな」
「そんなこと言わんでなあ~! おいらたちこれから長い付き合いになるんだでさ」
命知らずにも頬をつんつんする犬彦だったが、義比良はそれも乱暴に払う。
「長い付き合いにするつもりない。俺はすぐに結果を出し、次の除目で中等陰陽師になる。中等陰陽師になれば個室が与えられるからな」
あらまあ、と犬彦は肩をすくめた。
義比良は今にも怒りだしそうな苛立った様子で背を向け、顎をくいと外に向ける。
「御託はいいから行くぞ。隊長が待ってる」
隊長? と首をかしげる清士郎。
「新人の下等陰陽師三人にいきなり任務がまかされるわけがないだろう。小隊には一人ずつ上等陰陽師が指導担当官としてつくのだ。担当官の指導のもと、任務をこなしていくことになる。田舎貴族はこんな常識すらも知らないのか?」
煽るような見下すような口調ではあったものの、ご丁寧に説明してくれる義比良。
「知らなかった……」
「おいらも今日知った!」
ふむふむとうなずく清士郎と犬彦。
義比良はそんな二人にさらに苛立ちを募らせた様子で、これ見よがしに舌打ちした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる