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サンタさん、学生になる
101 未来への布石
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魔術師学校は週3日しか授業がない。
地方から来ている平民や下級貴族の子の多くは、寮費や食費をバイトして賄うのが通例なので、働く必要があるため休みが多いのだ。
元々この学校で学ぶことを期待していない私とアレス君だけど、入学して1か月過ぎても、誰も私たちを指導しようとしない。
「学費を払ってるのに、無理に来なくていいなんて校長は言うし、胡散臭いデスタート教官は親に会わせろと煩いし、担任のシュテファン教官は軍の演習場の見学をしろと命令してくる。おかしいよねアレス君」
「そうだよね。校長に授業免除って証明証をもらったから、堂々と休んでも大丈夫だけど、そろそろ父上かお爺様に相談した方がいいと思う」
今日は魔術師協会と軍の幹部、そして王宮魔術師団の関係者が来るから出席するよう先日担任から言われたけど、なんだか嫌な予感しかしない。
だからホームルームの後は、来客する人物を確かめてから行動すると決め、2人で正面玄関がよく見える資料室に潜り込んで愚痴を言い合う。
最初に到着したのは魔術師協会の馬車で、中から下りてきた人物を見て、アレス君がフフフと悪い顔をして低い声で笑った。
「あれって、私を攫った犯人のデモンズだよね」
「そうだねサンタさん。使える遠距離攻撃魔法で歓迎するのはどう?」
「う~ん用件を確認して、目的が私たちだったら歓迎会をしてもいいね」
なんてことを言いながら、出迎えた校長とデモンズの会話を窓を少し開けて聞いてみる。
「どうしてデモンズ様がいらしたのでしょう? 今日は来季の教官が学校見学に来るはずですが?」
「煩い! この私に意見する気か! 教官は午後から来るはずだ。例の子供は教室か?」
「いいえ、あの2人は今日休んでいます。先日、私が少し厳しい指導をしてケガを負ったので、暫く休むと思います。
私はデモンズ様のご指示に従い、必要以上に厳しくしております」
……ん? どういう意味だろう?
「サーク爺は校長を見張ってくれる? トキニさんはデモンズを、パトリシアさんは王宮魔術師団から来る者を、ダイトンさんは軍から来る者を探ってくれる?」
『了解』と、4人が返事をして直ぐに動いてくれる。
王宮料理人のマーガレットさんは、私たちの周囲を警戒してくれる。
どうやら校長は私たちを守ろうとしてくれたみたいだから、学校内でデモンズにバッタリ会うことがないよう、壁を越えて家に戻った。
守護霊の皆は最近500メートル移動が可能になったので、家に居ても活動が可能だった。壁を挟んでお隣って超便利。
『デモンズは相変わらずのクズだった。校長に2人を退学に追い込めとか、親を呼び出して初級学校に入れるよう命令しろとか・・・まあ、クズの中のクズ』
トキニさんの話を、できるだけ口真似してアレス君に伝える。
『あの校長は、無能なデモンズに未来ある学生を潰される訳にはいかない。また来るようならアロー公爵に直訴してでも2人を守らねばと言っておったぞ』
サーク爺は、デモンズが帰った後の校長の独り言を聞いたみたいで、デモンズの部下を装いながら私たちを守る気のようだと教えてくれた。
「学校に来なくていいと言った校長は、僕たちを守る気だったんだね」
「うん、そうみたい」
好意的にも感じられなかったけど、校長はいい人だったみたい。
『王宮魔術師団から来たのは、新しい教官候補と、王宮魔術師団で働く魔術師ではない事務官の子爵だったわ。
アレス君と養子縁組させる気だったみたいだけど、肝心のアレスが居なかったから、後日必ず会わせるとデスタート教官が約束してたわ。
デスタート教官は、お金で生徒を売る極悪人よ。気を付けなきゃ』
パトリシアさんの報告を聞いて、私とアレス君は身分を公開するしかないと頭を抱えた。
どんなに腹黒でも、アロー公爵の孫を養子にする度胸なんてないだろう。
『軍の関係者は、魔術師学校で初級学校の勉強をさせ、卒業後は軍のお金で中級学校に入学させてから、中位・魔術師に合格させれば、軍に就職するしかないだろうと言っていた。
やって来たのは次の教官ではなく、軍の人事部の部長だったぞ』
勝手に養子縁組させようとする王宮魔術師団より、初級学校の勉強や中級学校で学ばせようとする姿勢は評価するけど、当人の気持ちや能力なんか全く考えてないから失格だと、ダイトンさんは呆れながら言う。
「僕たち最初から次は王立能力学園に入学するって言ってるのに、全く聞く気がないよね。魔術師学校も学力試験をすればいいのに。
そもそも中位・魔術師に合格したら、無試験で王立能力学園に入学できるのに、あいつら教官のくせに無知過ぎるだろう」
初級学校の勉強も分からないと思われていることが、我慢できないとアレス君はご立腹だ。
まあ、中位・魔術師に合格してから王立能力学園に入学する学生なんて数十年も出てないって、調査団で一緒だった魔術師協会のニンターイ女性課長が言ってたもんなぁ。
「ムフフ、これ以上、私たちの将来を勝手に決めさせないためにも、そろそろ外堀を埋めようかな。
早く魔法を習いたくてしょうがないと言っていた人物宛てに、新しい魔法を教えるから魔術師学校に遊びに来てねって招待状を送ろう。
きっと飛んできてくれると思うし、校長も来校を断れないはず」
『サンタや、悪い顔になっとるぞ』
サーク爺が直ぐに注意するけど、やめろとは言わなかったから作戦を実行するのは大丈夫ってことだ。
よしよし、これから在学中に数人のゲストを招待しよう。
「サンタさん、卒業間近になったら友達にも遊びにおいでよって誘った方がよくない?」
ほほう、アレス君もゲスト作戦に乗り気だな。しかも、お友達を招待するだなんて、魔術師学校始まって以来の大物ゲストになっちゃうよね。
私は鼻歌を唄いながら最初のゲストに、現状報告を兼ねた招待状を書く。
貴族らしく特急便で送れば、ちゃんと本人の手元に届くだろう。
差出人は、サンタナリア・ヒータテ・ファイトアロ男爵だ。
……う~ん、何から教えようかなぁ、あっ、教える前にちゃんと魔力量を増やせているか確認しなきゃ。
地方から来ている平民や下級貴族の子の多くは、寮費や食費をバイトして賄うのが通例なので、働く必要があるため休みが多いのだ。
元々この学校で学ぶことを期待していない私とアレス君だけど、入学して1か月過ぎても、誰も私たちを指導しようとしない。
「学費を払ってるのに、無理に来なくていいなんて校長は言うし、胡散臭いデスタート教官は親に会わせろと煩いし、担任のシュテファン教官は軍の演習場の見学をしろと命令してくる。おかしいよねアレス君」
「そうだよね。校長に授業免除って証明証をもらったから、堂々と休んでも大丈夫だけど、そろそろ父上かお爺様に相談した方がいいと思う」
今日は魔術師協会と軍の幹部、そして王宮魔術師団の関係者が来るから出席するよう先日担任から言われたけど、なんだか嫌な予感しかしない。
だからホームルームの後は、来客する人物を確かめてから行動すると決め、2人で正面玄関がよく見える資料室に潜り込んで愚痴を言い合う。
最初に到着したのは魔術師協会の馬車で、中から下りてきた人物を見て、アレス君がフフフと悪い顔をして低い声で笑った。
「あれって、私を攫った犯人のデモンズだよね」
「そうだねサンタさん。使える遠距離攻撃魔法で歓迎するのはどう?」
「う~ん用件を確認して、目的が私たちだったら歓迎会をしてもいいね」
なんてことを言いながら、出迎えた校長とデモンズの会話を窓を少し開けて聞いてみる。
「どうしてデモンズ様がいらしたのでしょう? 今日は来季の教官が学校見学に来るはずですが?」
「煩い! この私に意見する気か! 教官は午後から来るはずだ。例の子供は教室か?」
「いいえ、あの2人は今日休んでいます。先日、私が少し厳しい指導をしてケガを負ったので、暫く休むと思います。
私はデモンズ様のご指示に従い、必要以上に厳しくしております」
……ん? どういう意味だろう?
「サーク爺は校長を見張ってくれる? トキニさんはデモンズを、パトリシアさんは王宮魔術師団から来る者を、ダイトンさんは軍から来る者を探ってくれる?」
『了解』と、4人が返事をして直ぐに動いてくれる。
王宮料理人のマーガレットさんは、私たちの周囲を警戒してくれる。
どうやら校長は私たちを守ろうとしてくれたみたいだから、学校内でデモンズにバッタリ会うことがないよう、壁を越えて家に戻った。
守護霊の皆は最近500メートル移動が可能になったので、家に居ても活動が可能だった。壁を挟んでお隣って超便利。
『デモンズは相変わらずのクズだった。校長に2人を退学に追い込めとか、親を呼び出して初級学校に入れるよう命令しろとか・・・まあ、クズの中のクズ』
トキニさんの話を、できるだけ口真似してアレス君に伝える。
『あの校長は、無能なデモンズに未来ある学生を潰される訳にはいかない。また来るようならアロー公爵に直訴してでも2人を守らねばと言っておったぞ』
サーク爺は、デモンズが帰った後の校長の独り言を聞いたみたいで、デモンズの部下を装いながら私たちを守る気のようだと教えてくれた。
「学校に来なくていいと言った校長は、僕たちを守る気だったんだね」
「うん、そうみたい」
好意的にも感じられなかったけど、校長はいい人だったみたい。
『王宮魔術師団から来たのは、新しい教官候補と、王宮魔術師団で働く魔術師ではない事務官の子爵だったわ。
アレス君と養子縁組させる気だったみたいだけど、肝心のアレスが居なかったから、後日必ず会わせるとデスタート教官が約束してたわ。
デスタート教官は、お金で生徒を売る極悪人よ。気を付けなきゃ』
パトリシアさんの報告を聞いて、私とアレス君は身分を公開するしかないと頭を抱えた。
どんなに腹黒でも、アロー公爵の孫を養子にする度胸なんてないだろう。
『軍の関係者は、魔術師学校で初級学校の勉強をさせ、卒業後は軍のお金で中級学校に入学させてから、中位・魔術師に合格させれば、軍に就職するしかないだろうと言っていた。
やって来たのは次の教官ではなく、軍の人事部の部長だったぞ』
勝手に養子縁組させようとする王宮魔術師団より、初級学校の勉強や中級学校で学ばせようとする姿勢は評価するけど、当人の気持ちや能力なんか全く考えてないから失格だと、ダイトンさんは呆れながら言う。
「僕たち最初から次は王立能力学園に入学するって言ってるのに、全く聞く気がないよね。魔術師学校も学力試験をすればいいのに。
そもそも中位・魔術師に合格したら、無試験で王立能力学園に入学できるのに、あいつら教官のくせに無知過ぎるだろう」
初級学校の勉強も分からないと思われていることが、我慢できないとアレス君はご立腹だ。
まあ、中位・魔術師に合格してから王立能力学園に入学する学生なんて数十年も出てないって、調査団で一緒だった魔術師協会のニンターイ女性課長が言ってたもんなぁ。
「ムフフ、これ以上、私たちの将来を勝手に決めさせないためにも、そろそろ外堀を埋めようかな。
早く魔法を習いたくてしょうがないと言っていた人物宛てに、新しい魔法を教えるから魔術師学校に遊びに来てねって招待状を送ろう。
きっと飛んできてくれると思うし、校長も来校を断れないはず」
『サンタや、悪い顔になっとるぞ』
サーク爺が直ぐに注意するけど、やめろとは言わなかったから作戦を実行するのは大丈夫ってことだ。
よしよし、これから在学中に数人のゲストを招待しよう。
「サンタさん、卒業間近になったら友達にも遊びにおいでよって誘った方がよくない?」
ほほう、アレス君もゲスト作戦に乗り気だな。しかも、お友達を招待するだなんて、魔術師学校始まって以来の大物ゲストになっちゃうよね。
私は鼻歌を唄いながら最初のゲストに、現状報告を兼ねた招待状を書く。
貴族らしく特急便で送れば、ちゃんと本人の手元に届くだろう。
差出人は、サンタナリア・ヒータテ・ファイトアロ男爵だ。
……う~ん、何から教えようかなぁ、あっ、教える前にちゃんと魔力量を増やせているか確認しなきゃ。
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