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19話 ワイバーンカーニバル
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奥の部屋から出て来たティリアは、フラリと小さく揺れた。
その様子にライルは目敏く気付く。
「疲れているのですか?」
「だ、大丈夫よ。疲れてないわ」
ライルが近寄って顔を覗き込むと、ティリアは目を背ける。
「もしや体調不良ですか?」
「……」
無言のティリアを見て、ライルとヴェイナーは頷き合う。ティリアは気分が優れないのを誤魔化していたようだった。
(取り繕うのが上手くなられた)
弱みを見せないように教育されてきたからだ。
「慣れない生活で無理が祟ったんでしょ?」
「……」
それも図星だった。気を張って生活し続けたのが、ティリアの不調の原因だ。
「しばらく休みなさい。ほら」
腕を引っ張られたティリアは、もたれ掛かる様にしてヴェイナーの隣に座る。そしてしばらくすると、スースーと静かな寝息を立て始めた。
「《睡眠(強)》《体力回復》」
ライルはティリアに魔法を掛ける。
「魔法を使ったの?」
「今のティリア様には必要だと思いましたので」
「魔法に頼り過ぎのも良くないわ。今日はこれでいいけど、根本的な原因を取り除いてやらないと駄目よ」
「もちろんです」
ライルはしっかりと頷いた。
「こんな場所でいきなり眠るくらいだから、かなり疲れてるのね」
ヴェイナーは意味深に呟きながら、ティリアの髪を静かに撫でる。
「ティリアちゃんって、元は高位貴族だったんでしょ?」
「分かりますか?」
「そりゃ分かるさ。一目瞭然だし」
だからこそティリアは、今の生活に苦労していた。先日の料理しかりだ。「不慣れな事を続けさせてもいいのか?」と、ライルは思い悩む。
「侍女やメイドを付けるべきでしょうか?」
「それが出来るならね。この子見てると不安になるわ。こんな細い腕で、市井の女としてやっていけるのかってね」
ライルは天井を見ながら思考にふける。
「まずはしっかり休ませて、しっかり食べさせる事ね。今日はワイバーンの謝肉祭があるから、これでもかってくらいに食べさせなさい」
「はい」
冒険者達がワイバーンを仕留め、街の人間が調理をする。それを全員で食すのが謝肉祭だ。
そして時は進んで夕方となり、この街始まって以来の大規模な祭りが始まった。
「食えるだけ食うぞ!」
「一生分食ってやる!」
賑やかな声がそこかしこで聞こえてくる。
「凄い人出ね。人波に流されてしまいそう」
ティリアはすっかり元気を取り戻していた。
「ティリア様。少々お待ちください」
ライルは印を切って魔法を唱えた。《魔法反射》と《防御強化》のバフがティリアに掛けられる。
「では、足元に気を付けくださいね」
「ええ。ありがとう」
街の至る所で酒や料理が振舞われ、2人は祭りを楽しみながら肉料理を堪能する。祭りの流れが変わったのは、ライルが最優秀者としての責務で街の大広場を訪れた時だった。
『今年の最優秀者であるギルド《鷹の眼》所属のライル様が来られました! こちらのライル様ですが、なんと全てのワイバーンを魔法で撃ち落とすという、かつてない偉業を達成しておられます!』
拡声魔法によって届けられた言葉は、大広場の端々まで響く。
『その栄誉を称える為にも、是非この場で腕前を披露していただこうではありませんか!』
賛成の拍手が起こると、それはやがて大歓声を伴っていく。大広場はとてつもない盛り上がりを見せ、拒否は許されない雰囲気だ。
「ライル」
ティリアの目が心許なく揺れている。大陸覇者闘技会で大役を果たしたライルは、その後の披露目の場で全ての名声を失った。そして今回も似たような流れとなっている事に、ティリアは不安を感じているのだ。
「ご安心くださいティリア様。魔導超越者としての力を失ったりはしません。今回は箱を開けたりしないのですから」
それでもティリアの顔色は優れない。
「やっぱり出てこれないよなぁ」
いつまでも進み出ないライルに向かって、不満の声が上がる。
「詐術だったからだよ。もう1回見せろって言われても見せられないって」
「大賢者だってあんな芸当は無理だしな」
他のギルドの冒険者達は、ライルを遠巻きにしながら非難する。その内容からも、今回の件について疑問視しているのは明らかだった。
大半の冒険者達は、ライルが魔導トラップを広範囲に仕掛けた上で、何かしらの奇策を用いてワイバーンを殲滅したと考えている。
仮に魔導トラップで魔物を仕留めようとも、それは別に蔑まれるような事ではない。それでも多くの冒険者達が納得していないのは、「ライルが自身の魔法で倒した」という話になっているからだった。
――冒険者は正直であらねばならない――
これは矜持のようなものだ。魔物への誤った対処法が広まれば、無駄に命を落とす者が増える。だからこそ虚偽申告は忌み嫌われており、許されざる行いであった。
今はライルとその所属ギルド《鷹の眼》に対して、多くの者が疑いの目を向けている。虚偽を暴いて、所属ギルドごとライルを潰すべきだと考える過激派までいる程だった。
そういった者達にとっては、ワイバーン千体を魔法の一撃で葬ったと言い張る者など、害悪の存在でしかないからだ。
その様子にライルは目敏く気付く。
「疲れているのですか?」
「だ、大丈夫よ。疲れてないわ」
ライルが近寄って顔を覗き込むと、ティリアは目を背ける。
「もしや体調不良ですか?」
「……」
無言のティリアを見て、ライルとヴェイナーは頷き合う。ティリアは気分が優れないのを誤魔化していたようだった。
(取り繕うのが上手くなられた)
弱みを見せないように教育されてきたからだ。
「慣れない生活で無理が祟ったんでしょ?」
「……」
それも図星だった。気を張って生活し続けたのが、ティリアの不調の原因だ。
「しばらく休みなさい。ほら」
腕を引っ張られたティリアは、もたれ掛かる様にしてヴェイナーの隣に座る。そしてしばらくすると、スースーと静かな寝息を立て始めた。
「《睡眠(強)》《体力回復》」
ライルはティリアに魔法を掛ける。
「魔法を使ったの?」
「今のティリア様には必要だと思いましたので」
「魔法に頼り過ぎのも良くないわ。今日はこれでいいけど、根本的な原因を取り除いてやらないと駄目よ」
「もちろんです」
ライルはしっかりと頷いた。
「こんな場所でいきなり眠るくらいだから、かなり疲れてるのね」
ヴェイナーは意味深に呟きながら、ティリアの髪を静かに撫でる。
「ティリアちゃんって、元は高位貴族だったんでしょ?」
「分かりますか?」
「そりゃ分かるさ。一目瞭然だし」
だからこそティリアは、今の生活に苦労していた。先日の料理しかりだ。「不慣れな事を続けさせてもいいのか?」と、ライルは思い悩む。
「侍女やメイドを付けるべきでしょうか?」
「それが出来るならね。この子見てると不安になるわ。こんな細い腕で、市井の女としてやっていけるのかってね」
ライルは天井を見ながら思考にふける。
「まずはしっかり休ませて、しっかり食べさせる事ね。今日はワイバーンの謝肉祭があるから、これでもかってくらいに食べさせなさい」
「はい」
冒険者達がワイバーンを仕留め、街の人間が調理をする。それを全員で食すのが謝肉祭だ。
そして時は進んで夕方となり、この街始まって以来の大規模な祭りが始まった。
「食えるだけ食うぞ!」
「一生分食ってやる!」
賑やかな声がそこかしこで聞こえてくる。
「凄い人出ね。人波に流されてしまいそう」
ティリアはすっかり元気を取り戻していた。
「ティリア様。少々お待ちください」
ライルは印を切って魔法を唱えた。《魔法反射》と《防御強化》のバフがティリアに掛けられる。
「では、足元に気を付けくださいね」
「ええ。ありがとう」
街の至る所で酒や料理が振舞われ、2人は祭りを楽しみながら肉料理を堪能する。祭りの流れが変わったのは、ライルが最優秀者としての責務で街の大広場を訪れた時だった。
『今年の最優秀者であるギルド《鷹の眼》所属のライル様が来られました! こちらのライル様ですが、なんと全てのワイバーンを魔法で撃ち落とすという、かつてない偉業を達成しておられます!』
拡声魔法によって届けられた言葉は、大広場の端々まで響く。
『その栄誉を称える為にも、是非この場で腕前を披露していただこうではありませんか!』
賛成の拍手が起こると、それはやがて大歓声を伴っていく。大広場はとてつもない盛り上がりを見せ、拒否は許されない雰囲気だ。
「ライル」
ティリアの目が心許なく揺れている。大陸覇者闘技会で大役を果たしたライルは、その後の披露目の場で全ての名声を失った。そして今回も似たような流れとなっている事に、ティリアは不安を感じているのだ。
「ご安心くださいティリア様。魔導超越者としての力を失ったりはしません。今回は箱を開けたりしないのですから」
それでもティリアの顔色は優れない。
「やっぱり出てこれないよなぁ」
いつまでも進み出ないライルに向かって、不満の声が上がる。
「詐術だったからだよ。もう1回見せろって言われても見せられないって」
「大賢者だってあんな芸当は無理だしな」
他のギルドの冒険者達は、ライルを遠巻きにしながら非難する。その内容からも、今回の件について疑問視しているのは明らかだった。
大半の冒険者達は、ライルが魔導トラップを広範囲に仕掛けた上で、何かしらの奇策を用いてワイバーンを殲滅したと考えている。
仮に魔導トラップで魔物を仕留めようとも、それは別に蔑まれるような事ではない。それでも多くの冒険者達が納得していないのは、「ライルが自身の魔法で倒した」という話になっているからだった。
――冒険者は正直であらねばならない――
これは矜持のようなものだ。魔物への誤った対処法が広まれば、無駄に命を落とす者が増える。だからこそ虚偽申告は忌み嫌われており、許されざる行いであった。
今はライルとその所属ギルド《鷹の眼》に対して、多くの者が疑いの目を向けている。虚偽を暴いて、所属ギルドごとライルを潰すべきだと考える過激派までいる程だった。
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