公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

文字の大きさ
20 / 77

20話 魔法剣士ライル

しおりを挟む
 メイン会場として使われているだけあって、街の大広場はかなりの広さだ。闘いを期待する観衆は、少しずつ後退して中心部にスペースを開けていく。

「ちょっと待ったライル! やる前にこれ着けな!」

 観衆を掻き分けてやってきたヴェイナーは、金色の腕輪をライルの左腕に通した。

「これで全力出しても大丈夫よ」
「これは、一体何の魔導具でしょうか?」

「魔力を外に出せなくなる・・・・・・・・腕輪よ。アンタが本気出したら相手が死ぬからさ」
「ヴェイナーさん。お心遣い感謝します」

 ライルの不穏な言葉に、冒険者達が若干動揺する。

「ブチのめしてきなさい」
「はい」

 大広場中央に向かって歩きながら、ライルは悠然と詠唱した。

「《印詠省略ロジックカット》」

 たったそれだけで、魔法使いらしき者達がざわついた。
 分かる者には分かる超高難度の古代魔法だからだ。

「では、どなたからでもどうぞ」
「じゃあ俺からやらせてもらおうか」

 威風堂々と出てきたのは金髪30代の大男ビルダーだった。
 鍛え上げられた身体から放たれる膂力は計り知れない。

『おおおおおお!』

 冒険者達が一斉に盛り上がる。

『ではお二人とも、準備はいいですか?』
「はい」
「ああ」
『それでは試合を始めてください!』

 だがビルダーは大剣を腰に差したまま、戦う素振りを見せない。

「お前は一体なんだ?」
「俺ですか? 俺は《鷹の眼ホークアイ》所属のライルと言います。今日からBランクになった冒険者です」

「俺はSランクの戦士でビルダーって者だ。この国ではそこそこ名が知られてる」
「ビルダー! 名前はガッツリ知られてるぞ!」

 ビルダーの同門らしき男から声が飛ぶ。

「ワイバーンを殲滅させたらしいが、どんな手品だ?」
「魔法です」

「魔法なわけねぇだろうが! 魔導トラップを大量に使ったってもっぱらの噂だぞ?」
「そんな高価な物は使ってませんよ。俺が使ったのは魔法だけです」

「魔法は誰に師事したんだ? この国には、あんな馬鹿げた事が出来る魔法使いなんていねーんだぜ?」

「師はおりません。強いて言うなら『はじめよう家庭の魔法』の著者の方でしょうか?」

 至極真面目に答えるが、ビルダーのこめかみがピクピクと動く。

「はっ。茶化して誤魔化そうってか? なあ、お前は回復魔法は使えるか?」
「おそらくですが、使えます」

(俺の力ではなく、ティリア様の御力ですが)

「じゃあ大丈夫だな?」
「何がでしょうか?」
「ヤバイと思ったら、自分に回復魔法を使えって事だっ!」

 ビルダーは大剣を構える。

「痛い目に遭いたくなきゃ『嘘でした』って言え! 最後まで言わないつもりなら、怪我しても文句言うなよ!」

 すると外野から、ライルに向かって声が飛ぶ。

「謝っとけって。下手すりゃ死ぬぞぉ!」
「ビルダーさんはSだからなぁ。怒らせたらマジでヤバイし」

 ライルは酔っ払い達の声を無視する。そして腰に差した剣を抜いて、しっかりと正眼に構えた。

魔法使いが・・・・・剣を使うだと? とことん舐めてくれるじゃねぇかよ!」

 だがライルは動じない。

(これが俺の進む道だ)

 ソードスキルの力に頼り過ぎたライルは、ソードスキルを失って無力となった。魔法の力だけを極めていけば、それを失った時にまた無力となってしまいかねない。

(同じ轍を踏む訳にはいかない)

 だからこそライルは、剣と魔法で生きて行こうと決めた。もしどちらかの力を失っても、ティリアを守っていけるように。

『始めてください!』

 頃合いを見計らい、進行役の男が戦闘を促す。
 ライルは剣を両手で握り締めると、魔法を唱えた。

「《身体能力強化フィジカルブースト》」
「はぁあああああ! 《速撃連斬オーバークイック!》」

 ビルダーが放つソードスキルは高速の2連撃だ。

(見える!)

 軌道を見切ってビルダーの初撃を弾き飛ばす。ライルの足が半歩分だけ後ろに押されたが、続く2撃目の斬撃は、その場で完全に受け切った。

「なんだとっ!?」

(ははっ)

 ライルは薄く笑っていた。驚きを隠せないビルダーの顔とは対照的だ。

(ソードスキルが使えなくても十分やれる)

 ビルダーの速さと膂力は、ライルの父や兄に勝るとも劣らない。仮に父に殺された当時のライルであれば、ビルダーの攻撃を受け切る事など出来なかっただろう。

 だがライルは真っ向から受け止めた。それはつまり《身体能力強化フィジカルブースト》の魔法を使った状態であれば、一流の剣士として戦えるという事に他ならない。

(俺の剣は通用する)

 ライルは幼い頃から剣の修練を続けてきた。弱いままではティリアを守れないと知っていたから、努力を続けてきたのだ。

 倒れるまで素振りをした事もあれば、余りの過酷さに立ったまま気絶した事もある。そしてその習慣は今でも変わっていない。例え血反吐を吐こうとも、剣の修練だけは止めなかった。

 その地道な努力が実った形だ。今のライルは《身体能力強化フィジカルブースト》の魔法を使えば、ソードスキルに頼らなくとも剣を思った通りに操れる。

 パリイのソードスキルを使えた頃のライルは、相手の剣を半自動で弾いていた。だが今のライルはソードスキルを使わずとも、同じような技を繰り出せている。パリイが使えないのであれば、自力で相手の剣を弾けばいいだけだからだ。

「ライルと言ったな……お前は何だ? 剣士なのか? 魔法使いなのか?」
「俺は魔導超越者マジックマスターの剣士です」

 この日、異色とも言える魔法剣士が誕生した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...