公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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22話 胡散臭いザイル・グローツ

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 ビルダーはガクリと膝を着く。

『しょ、勝者ライル! ギルド《鷹の眼ホークアイ》のライル様が勝ちました!』

 大手ギルドから雇われていた司会進行役の男が、拡声魔法を使ってヤケクソ気味に叫ぶ。すると大広場は熱狂に包まれ、観衆は口々にライルを称えていった。

「はぁ」

 司会進行役の男は、大広場から離れた場所で静かにボヤく。

「筋書きと全然違うんだが。どうしたもんかね」

 葉巻に火を付け、ゆっくりと煙をくゆらせる。男が雇われたのは、ライルが無様に負けた姿をこき下ろし、ワイバーン討伐の虚偽申告を衆目の前で糾弾する為だった。

「こうなったのは俺のせいじゃないし、仕方ないわな」

 ライルの実力が疑いようのないものだと証明された今、男の役目は既に終わっている。

「あー、やられたやられた」

 頭をガシガシと掻きながら、男は街外れへと消えて行った。

 △

 立ち上がったビルダーは、スッキリした顔をしている。

「疑って悪かったなライル。お前の力が本物だってのは分かった」
「凄く楽しい試合でした。ありがとうございました」

「楽しい試合か。敵わねぇな。俺は全力でやってたんだが」
「俺も全力でやってましたよ。貴方と互角に戦えて嬉しかったです」

「慰めは要らねぇよ。大体、お前が魔法を使ってたら、俺は相手にならなかっただろ?」
「……それはどうでしょうか?」

 ライルは言葉を濁した。

 魔力封じの腕輪は「外向きの魔力」を封じる物だ。身体能力強化フィジカルブースト》の魔法を自分自身に掛けるような「内向きの魔力」には効果がない。

 外向きの魔法は使っていないが、内向きの魔法は使っている為、ライルはビルダーへの返答に困ったのだ。

「謙遜するな。その腕に着けてる魔力封じの腕輪は、飾りじゃねぇんだろ?」
「はい」

「腕輪なんか着けずに魔法を使われてたら、最初から俺に勝ち目なんてなかったさ」

 ライルは曖昧に頷いた。

「とにかく俺の完敗だ。今度会う時は、もう少しマシな戦いが出来るように鍛えてくるから、よければ再戦も考えておいてくれ」

「その時はよろしくお願いします」
「今年のワイバーン討伐は、忘れられない思い出になりそうだ」
「俺もいい勉強になりました」

 するとビルダーは、ニッと笑って観衆の方を振り向いた。

「俺は完敗した! 他にライルに挑戦したい奴はいるか?」

 大声で伝えたが、誰一人として名乗り出ない。

「ライル。お前の実力は認められたみたいだぜ」
「ありがとうございます」

 するとビルダーは真顔になる。

「お前の剣技を見ていて気になったんだが、グローツの剣に似ているな」
「グローツの剣?」

 ライルの表情の変化から、ビルダーは何かを読み取る。

「お前って、あのライル・グローツなのか?」
「はい。生家からは廃籍されましたが」

「そうか。お前がライル・グローツか。俺は魔物討伐ばかりやってたから、大陸最強男の顔なんて知らなかったんだ」

 しみじみと語る。

「ザイル・グローツは、お前の兄だな?」
「兄上を知っているんですか?」

「剣の腕前も含めてな。俺はアイツと試合をやって引き分けたんだ」
「兄上は強いですから。祖国では兄上に勝てる騎士はいませんし」

 しかしビルダーは鼻で笑う。

「違うな。お前が大陸最強だと言われても俺は納得出来るが、ザイル・グローツが俺と同レベルだの、お前より強いだのと言われても、俺は絶対納得出来ねぇ」
「何故ですか?」

 兄のザイルが強い騎士であるのは、紛れもない事実だ。

「アイツは確かに強い。だがアイツ並に胡散臭いものを、俺は他に見た事が無い」
「兄上が胡散臭い?」

「剣を打ち合ったら、相手がどれだけの時間を剣に費やしてきたのか分かるだろ? お前が死に物狂いで修練を積んできた事だって、俺には分るんだよ。お前だって、俺の剣を受けて似たような感想を抱いたはずだ」

 ライルは首肯する。

「だがザイルと打ち合っても、その剣に俺は何も感じなかった。努力の欠片も感じられない空虚な剣だ。そんなのが俺と同レベルの強さだなんて有り得るか?」
「それは兄上が天才だからではないですか?」

 ライルは兄の事を「努力を必要としない天賦の才の持ち主だ」と思っている。

「俺も天才だって散々言われてきた。打ち合えばどんな奴かは分かるんだよ。アイツは天才でも何でもない。只の凡夫だ」

 断言されても、ライルとしては腑に落ちない。

「それでは兄上の強さが説明出来ません」
「だから胡散臭いのさ。まあ、グローツの家を出たお前には、もう関係ない話だろうがな」

 困惑しているライルに向かって、ビルダーは右手を差し出した。そのまま固い握手を交わすと、ビルダーは「じゃあな」と言って踵を返して去って行く。

 ライルはビルダーとのやり取りをしばらく反芻はんすうすると、待っているティリアの元へと向かった。
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