公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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23話 夜空の下で

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 ライルはティリアの前まで歩いて来ると、地面に片膝を着いて頭を垂れる。
 この辺りは人がまばらになっており、二人には誰も注目していない。

「ティリア様。試合に勝利する事が出来ました」
「お疲れ様」

 ティリアが右手を伸ばすと、ライルは驚いた顔でティリアを見上げた。

「そ、そうね。ごめんなさい」

 護衛騎士だった頃のライルは、試合で勝利する度にティリアの手の甲にキスをしていたからだ。

「こういう事は、もうしなくて良かったのにね」
「ティリア様」
「何?」

 ライルはティリアの指先にそっと触れて、手の甲へキスを落とす。

「今日の勝利をティリア様に捧げます」
「う、嬉しく思います。これからも貴方の勝利を願いましょう」

 赤くなりながらライルの労をねぎらった。
 ライルはティリアの手を離し、ゆっくりと立ち上がる。

「でも私は勝利よりも、ライルが無事に帰って来てくれた事の方が嬉しいわ。怪我をするんじゃないかと思って心配していたのよ」

「ありがとうございます。俺には勿体ない御言葉です」
「大変な試合だったわね。ビルダー様は、とても強かったもの」

「はい。ですが、強者と戦って勝てたのは大きな自信に繋がりました。色々と今後の課題も見えた事ですし、これからはより一層力を入れて、精進していきたいと思います」

 ティリアは小さく息を吐いた。

「程々にしておかないと駄目よライル? 貴方が修練中に倒れたと侍女から聞かされる度に、私はいつも苦しい思いをしてきたんだから」
「……善処します」

 ライルは苦い顔をして答える。

「ライル。そろそろ帰りましょうか」
「はい」

 夕日は沈み、辺りはすっかり暗くなっている。ライルはティリアをエスコートしながら、夜道をゆっくりと進んで行った。
 街の中心部から外れるにつれ、少しずつ人通りも減っていく。

「足元にお気を付けください」
「ええ。ありがとう」

 ふとライルは、自身の腕に添えられたティリアの手が気になった。

(簡単に折れてしまいそうだ)

 白く美しい手だが、ほっそりしていて不安になる。

「ティリア様」
「ん?」

 アメジストの瞳に見つめられて、ライルはどうしようもなく息が詰まった。

「しょ、食事は十分に召し上がられましたか?」
「え? ええ。貴方と一緒に街の食事を楽しんだでしょう?」

 ティリアは不思議そうな顔をしている。

「俺は思うのですが、ティリア様の食事の量はかなり少ないのではありませんか?」
「そうかしら? しっかり食べていると思うけれど」

 今のティリアは血色も良い。それにギルドで睡眠を取ったからだろうか、体調も良さそうだ。しかしギルドマスターのヴェイナーも言っていた通り、ティリアが痩せ気味なのは間違いない。

「街の女性は、ティリア様よりもずっと多く食べるみたいですよ。ティリア様も街の娘として過ごされていくのであれば、これからは、もっと食事の量を増やさねばならないのではありませんか?」

 ティリアは人差し指を口に当てて考える。

「そうね。分かったわライル。明日からはもう少し頑張って、食事を多く摂るように心掛けてみるね」
「はい。それがよろしいかと」

 ライルは簡単に言いくるめてしまう。だからこそライルは、信じ過ぎるティリアに不安を感じてしまうわけだが。

「ティリア様」

 とりあえず話題を変える事にした。

「今日の謝肉祭はいかがでしたか?」
「楽しかったわ」
「そうですか。楽しめたのなら幸いです」

「ライルはどうだったの?」
「俺も楽しかったです。今こうして、ティリア様と話しているのも楽しいですし」

 そうやってティリアに笑い掛けると、ライルは何かを思い出したようにハッとする。

「見せたいものがあるんです」
「私に? 何かしら?」

 ライルは魔力封じの腕輪を外し、魔法の詠唱を始める。両手で素早く印を切ると、様々な魔法を上空に放っていった。

 炎・雷・水の魔法を様々な形状や色に変え、夜空一面に魔法の花を咲かせていく。

「わぁっ!」

 ティリアは子供のように目を輝かせて、感嘆の声を上げた。

「凄いわライル。何て綺麗な花火なの」
「お褒めに預り光栄です。ティリア様から頂いた力は、こんなにも素晴らしいと伝えたかったんです」
「ふふっ。そんな風に言われると照れてしまうわね」

 はにかむようにティリアは笑う。

「素敵ね。本当に綺麗だわ」
「素晴らしい思い出は、一生記憶に残ります」
「それなら今この時の思い出は、私の記憶にいつまでも残り続けるわ」

(俺も、今この時の想いを一生忘れません)

 ティリアは夜空の下でも輝くように美しい。そんな少女の姿を愛おし気に見つめながら、ライルは幸せな時間に酔いしれていた。
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