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25話 神罰を受けた護衛騎士(2)
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グローツ子爵は多少酒が回ってきたのか、赤ら顔でライルを待っていた。その傍らにはフローレンス公爵と、娘であるミリーナ・フローレンス公爵令嬢が佇んでいる。
「ライル。優勝おめでとう。貴方の婚約者として嬉しく思いますわ」
「お褒めに預り光栄ですミリーナ様」
「まあ!」
と言って、驚いた表情で扇を広げる。ミリーナはフローレンス公爵の後妻の娘であり、ティリアの異母妹だ。
「嫌だわ。婚約者同士なのだから、もっと気楽に話してくれてよくってよ?」
「勿体ないお言葉です」
ライルは顔をしかめたくなる本心を微塵も見せず、胸に手を当てて騎士の礼をする。
ミリーナはライルを「無能者」と呼んで長年蔑んでいたが、ライルが大陸覇者闘技会の開催国代表に選ばれてからは、手のひらを返して婚約者の座に収まっていた。
「ライル。フローレンス公爵との話し合いで、お前の護衛任務がティリア様からミリーナ様へ変更になった」
「なっ!?」
父の言葉に絶句している。ライルが命を賭して守りたいのは、ティリアであってミリーナではないからだ。
目線で「一体どういう事か?」と訴えるが、グローツ子爵はどこ吹く風だ。
「父上、俺はティリア様の護衛で――」
「ミリーナ様は、いずれお前の伴侶となる御方だ。であれば誰を護衛すべきか分かるな?」
有無を言わさぬ父親の態度に、もはや言葉も出なかった。
貴族として生きる限りは当主の意向に逆らえない。それは分かっている。
分かっているが、到底納得出来るものではなかった。
「末永く、よろしくお願いいたしますわね。未来の旦那様」
「ミリーナ様……光栄の至りです」
ライルは全てを呑み込んで笑ってみせた。自分が頑なな態度を示せば、そのシワ寄せがティリアに向かうのが容易に想像出来たからだ。
公爵家での立場が弱いティリアを、ミリーナの悪意から守る事。それが、己のやるべき事だと即座に判断した。
「今日はめでたい日だ。良かったなライル」
「はい。父上」
全くめでたいとは思えず最悪な気分だった。だが、
(あの時よりはマシか)
ティリアが王太子の婚約者に選ばれたと知った6年前、ライルはかつてない衝撃を受けて絶望の底に叩き落とされた。
それでもティリアの護衛騎士として恥じぬよう、自らの感情を押し殺して今までやってきたのだ。
(全てはティリア様の為)
それがライルの生きる意味であり、人生の全てだった。5歳で「天啓なし」との判断が下され「無能者」と揶揄されていたライルが、尋常でない研鑽の末に天啓を授かれたのも、ティリアへの一途な想いがあればこそだ。
「ねぇライル。貴方の強さをここで見せてもらえないかしら?」
しなだれ掛かるようにライルの腕を抱き、ミリーナは上目遣いで訴える。祝賀会には、国内外から数多くの王侯貴族が訪れていた。
この場で婚約者の腕前を披露し、優越感に浸りたいとの思惑がミリーナからは見て取れる。
「いや、しかし……」
「よいではないかライル」
娘の傍らに立つフローレンス公爵は、困惑しているライルを笑って制した。
「ふふっ。お願いしますわね。お父様」
「ミリーナには敵わんな。どれ、陛下に進言するとしようか」
フローレンス公爵が使いを送って国王の許可を得ると、ライルの父親であるグローツ子爵は「誰ぞ我が息子に挑む者はおらぬか!」と言って挑戦者を募る。
「では僭越ながら私が」
名乗りを上げたのは、決勝戦でライルと戦った赤髪の騎士だった。大陸覇者闘技会の前大回優勝者であり、今大会では本命と目されていた男だ。
これから余興が始まると察した貴族達は、少しずつ会場中央から離れて空間を開けていく。
「今度は勝たせてもらう」
「よろしくお願いします」
刃を潰した剣が渡されると、双方が騎士の礼をして剣を構えた。茶番に長く付き合うつもりが無いライルは、迅速に終わらせるべく心を落ち着ける。だが、
(何だ? 夜会の雰囲気にでも酔ったのか?)
身体に違和感を感じた。
「変だな……」
呟くと、審判役を買って出た騎士爵の男が、怪訝な視線を向けてくる。
ライルは頭を振って、目の前の相手に集中した。
「始め!」
「「はぁっ!」」
裂帛の気合と同時に双方が踏み込んだ。
「パリイ! ――なっ!?」
甲高い金属音と共に1本の剣が弾き飛ばされる。
決勝戦とは真逆の結果となり、無手となったのはライルの方だった。
「ソードスキルが……発動しなかった?」
ライルは信じられないと言った顔で立ち尽くす。
まさかの敗北に、グローツ子爵は怒りの形相でライルを睨み付け、婚約者のミリーナは扇をへし折って震えている。
――パンドラの箱を開けた最強騎士の祝賀――
その開催名目に泥を塗る事態となり、終始和やかだった雰囲気は一変して剣呑なものとなる。
興が削がれた夜会は早々に閉会となった。
後日、王宮内の歴史編纂人から「パンドラの箱を開けた副作用ではないか?」との説明を受け、ライルの身体は詳細に調べられた。
そして、ライルが今まで鍛え上げたソードスキルは、二度と使えないと結論付けられる事となる。
「ライル。優勝おめでとう。貴方の婚約者として嬉しく思いますわ」
「お褒めに預り光栄ですミリーナ様」
「まあ!」
と言って、驚いた表情で扇を広げる。ミリーナはフローレンス公爵の後妻の娘であり、ティリアの異母妹だ。
「嫌だわ。婚約者同士なのだから、もっと気楽に話してくれてよくってよ?」
「勿体ないお言葉です」
ライルは顔をしかめたくなる本心を微塵も見せず、胸に手を当てて騎士の礼をする。
ミリーナはライルを「無能者」と呼んで長年蔑んでいたが、ライルが大陸覇者闘技会の開催国代表に選ばれてからは、手のひらを返して婚約者の座に収まっていた。
「ライル。フローレンス公爵との話し合いで、お前の護衛任務がティリア様からミリーナ様へ変更になった」
「なっ!?」
父の言葉に絶句している。ライルが命を賭して守りたいのは、ティリアであってミリーナではないからだ。
目線で「一体どういう事か?」と訴えるが、グローツ子爵はどこ吹く風だ。
「父上、俺はティリア様の護衛で――」
「ミリーナ様は、いずれお前の伴侶となる御方だ。であれば誰を護衛すべきか分かるな?」
有無を言わさぬ父親の態度に、もはや言葉も出なかった。
貴族として生きる限りは当主の意向に逆らえない。それは分かっている。
分かっているが、到底納得出来るものではなかった。
「末永く、よろしくお願いいたしますわね。未来の旦那様」
「ミリーナ様……光栄の至りです」
ライルは全てを呑み込んで笑ってみせた。自分が頑なな態度を示せば、そのシワ寄せがティリアに向かうのが容易に想像出来たからだ。
公爵家での立場が弱いティリアを、ミリーナの悪意から守る事。それが、己のやるべき事だと即座に判断した。
「今日はめでたい日だ。良かったなライル」
「はい。父上」
全くめでたいとは思えず最悪な気分だった。だが、
(あの時よりはマシか)
ティリアが王太子の婚約者に選ばれたと知った6年前、ライルはかつてない衝撃を受けて絶望の底に叩き落とされた。
それでもティリアの護衛騎士として恥じぬよう、自らの感情を押し殺して今までやってきたのだ。
(全てはティリア様の為)
それがライルの生きる意味であり、人生の全てだった。5歳で「天啓なし」との判断が下され「無能者」と揶揄されていたライルが、尋常でない研鑽の末に天啓を授かれたのも、ティリアへの一途な想いがあればこそだ。
「ねぇライル。貴方の強さをここで見せてもらえないかしら?」
しなだれ掛かるようにライルの腕を抱き、ミリーナは上目遣いで訴える。祝賀会には、国内外から数多くの王侯貴族が訪れていた。
この場で婚約者の腕前を披露し、優越感に浸りたいとの思惑がミリーナからは見て取れる。
「いや、しかし……」
「よいではないかライル」
娘の傍らに立つフローレンス公爵は、困惑しているライルを笑って制した。
「ふふっ。お願いしますわね。お父様」
「ミリーナには敵わんな。どれ、陛下に進言するとしようか」
フローレンス公爵が使いを送って国王の許可を得ると、ライルの父親であるグローツ子爵は「誰ぞ我が息子に挑む者はおらぬか!」と言って挑戦者を募る。
「では僭越ながら私が」
名乗りを上げたのは、決勝戦でライルと戦った赤髪の騎士だった。大陸覇者闘技会の前大回優勝者であり、今大会では本命と目されていた男だ。
これから余興が始まると察した貴族達は、少しずつ会場中央から離れて空間を開けていく。
「今度は勝たせてもらう」
「よろしくお願いします」
刃を潰した剣が渡されると、双方が騎士の礼をして剣を構えた。茶番に長く付き合うつもりが無いライルは、迅速に終わらせるべく心を落ち着ける。だが、
(何だ? 夜会の雰囲気にでも酔ったのか?)
身体に違和感を感じた。
「変だな……」
呟くと、審判役を買って出た騎士爵の男が、怪訝な視線を向けてくる。
ライルは頭を振って、目の前の相手に集中した。
「始め!」
「「はぁっ!」」
裂帛の気合と同時に双方が踏み込んだ。
「パリイ! ――なっ!?」
甲高い金属音と共に1本の剣が弾き飛ばされる。
決勝戦とは真逆の結果となり、無手となったのはライルの方だった。
「ソードスキルが……発動しなかった?」
ライルは信じられないと言った顔で立ち尽くす。
まさかの敗北に、グローツ子爵は怒りの形相でライルを睨み付け、婚約者のミリーナは扇をへし折って震えている。
――パンドラの箱を開けた最強騎士の祝賀――
その開催名目に泥を塗る事態となり、終始和やかだった雰囲気は一変して剣呑なものとなる。
興が削がれた夜会は早々に閉会となった。
後日、王宮内の歴史編纂人から「パンドラの箱を開けた副作用ではないか?」との説明を受け、ライルの身体は詳細に調べられた。
そして、ライルが今まで鍛え上げたソードスキルは、二度と使えないと結論付けられる事となる。
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