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26話 神罰を受けた護衛騎士(3)
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試合の日から10日が経過していた。
ソードスキルを全て失った事で、婚約者であるミリーナ・フローレンスの護衛を務める件は白紙となっていた。
「所詮は無能者だったという事か! この役立たずが!」
執務室の主は机を乱暴に叩く。
《剣戟受け流し》の天啓を授かった者は、パリイの修得が容易になる。《薙ぎ払い》の天啓を授かった者は、目の覚めるような一閃の修得が容易になる。
ゆえに《剣技超越者》の天啓を授かったライルは、あらゆるソードスキルを修得して大陸最強の騎士になる事が出来た。
しかし、それはもう過去の話だ。現在のライルは下級騎士相当の実力と見なされている。
「申し訳ありません父上」
頭を下げるが、それでグローツ子爵の怒りが収まる事は無い。18歳という若さを考慮すれば、下級騎士としてなら及第点だ。だが騎士の名門であるグローツ子爵家の者としては、明らかに力不足だった。
「これを見ろ!」
激高して2枚の書状を突き付ける。書状はフローレンス公爵家から今朝届いたものだ。1枚目には、ライルとミリーナの婚約を破棄するとの旨が記されていた。
こうなる事を予期していたライルは、特に何も感じない。だが2枚目に目を通した時、全身から一気に力が抜けていくのを感じた。
『ライル・グローツはティリア・フローレンスの護衛騎士として不適格である』
新たな護衛騎士の選任についても併記されていたが、それはライルの頭には入ってこなかった。
「恥をかかせおって!」
ライルは陰で「偽りの大陸覇者」と揶揄されるようになっていた。パンドラの箱が開いたにも関わらず、期待されていた「希望の光」が世に顕現しなかったからだ。
『開けてはいけない者が箱を開けてしまったからでは?』
憶測と共に、そんな噂が広がっていた。口さがない者からは「神罰でソードスキルを奪われた」とまで吹聴されている。
極めつけは今朝届いた書状だ。大陸覇者闘技会の優勝者が護衛を解任されるなど、前代未聞だった。
ミリーナから婚約破棄された件と併せて、グローツ子爵家の醜聞として瞬く間に広まるだろう。
「くそっ!」
どれだけ家名に傷が付いても、それを挽回する手立てが無い。その現状が、グローツ子爵を苛立たせる。
「1週間だけ待ってやる。ソードスキルの1つでも使えるようになってみせろ」
「……はい」
「可能性を示さねば、グローツ子爵家にお前の籍は無いものと思え」
「分かりました」
反論は無駄だと知っているライルは、項垂れながら執務室を出た。フラフラとした足取りで庭へと向かう。
「よう無能者」
「兄上?」
ライルを呼び止めたのは、王国近衛騎士団の副団長を務める5歳年上の嫡男だ。強大な魔力だけでなく、卓越した剣の腕も併せ持っている。
「『最強であること』が我が子爵家の誇りだ。お前はそれを傷付けた。分かっているのか?」
「申し訳ありません」
この国では貴族の造反を防ぐ為、魔力が強過ぎる者は高位貴族家を継げないようになっている。この制度があるが故に、グローツ子爵家は何代にも渡って陞爵を拒んでいた。
高位貴族家となってしまえば、最も強き者が嫡男となるグローツ子爵家の伝統を変えなければならないからだ。
「お前は所詮、紛い物の騎士でしかなかったんだよ」
ライルの魔力は少ないが、短時間の瞬発力勝負であれば戦える。膨大なソードスキルの中から瞬時に最適な選択をする事で、ライルは試合に勝ち続けてきた。
しかしそれは「魔力の弱さを誤魔化す為の姑息な手段」として、兄の目には映っていたようだ。
グローツ子爵家の中で最も才能ある者は、王都の近衛騎士団に出仕して名を上げる。その後にグローツ子爵家を継ぐのが習わしだ。
それ以外の者は、騎士となって護衛任務を経験してから、他家へと婿入りをする。剣才溢れるグローツ子爵家の男子は、魔物被害が大きい領地では引く手数多だ。婿入り先に困る事は無い。
しかし中には騎士に向かない者もいる。それらは子爵家から容赦なく籍を抜かれ、成人すると同時に平民に落とされてきた。
「お前には平民が相応しい。覚悟しておくんだな」
「……はい」
兄は傲慢な自信家だが腕は確かだ。近衛騎士団の副団長という職務上、大陸覇者闘技会には出られなかったが、「出場していれば優勝したのは俺だ」と言ってはばからない。
「兄上。それでは失礼します」
ライルは庭で鍛錬を始めたが、何日経とうともソードスキルが使えるようにはならなかった。
そしてティリアが王太子から婚約を破棄されて、その後釜にはライルの元婚約者であるミリーナが据えられた事を知る。
ソードスキルを全て失った事で、婚約者であるミリーナ・フローレンスの護衛を務める件は白紙となっていた。
「所詮は無能者だったという事か! この役立たずが!」
執務室の主は机を乱暴に叩く。
《剣戟受け流し》の天啓を授かった者は、パリイの修得が容易になる。《薙ぎ払い》の天啓を授かった者は、目の覚めるような一閃の修得が容易になる。
ゆえに《剣技超越者》の天啓を授かったライルは、あらゆるソードスキルを修得して大陸最強の騎士になる事が出来た。
しかし、それはもう過去の話だ。現在のライルは下級騎士相当の実力と見なされている。
「申し訳ありません父上」
頭を下げるが、それでグローツ子爵の怒りが収まる事は無い。18歳という若さを考慮すれば、下級騎士としてなら及第点だ。だが騎士の名門であるグローツ子爵家の者としては、明らかに力不足だった。
「これを見ろ!」
激高して2枚の書状を突き付ける。書状はフローレンス公爵家から今朝届いたものだ。1枚目には、ライルとミリーナの婚約を破棄するとの旨が記されていた。
こうなる事を予期していたライルは、特に何も感じない。だが2枚目に目を通した時、全身から一気に力が抜けていくのを感じた。
『ライル・グローツはティリア・フローレンスの護衛騎士として不適格である』
新たな護衛騎士の選任についても併記されていたが、それはライルの頭には入ってこなかった。
「恥をかかせおって!」
ライルは陰で「偽りの大陸覇者」と揶揄されるようになっていた。パンドラの箱が開いたにも関わらず、期待されていた「希望の光」が世に顕現しなかったからだ。
『開けてはいけない者が箱を開けてしまったからでは?』
憶測と共に、そんな噂が広がっていた。口さがない者からは「神罰でソードスキルを奪われた」とまで吹聴されている。
極めつけは今朝届いた書状だ。大陸覇者闘技会の優勝者が護衛を解任されるなど、前代未聞だった。
ミリーナから婚約破棄された件と併せて、グローツ子爵家の醜聞として瞬く間に広まるだろう。
「くそっ!」
どれだけ家名に傷が付いても、それを挽回する手立てが無い。その現状が、グローツ子爵を苛立たせる。
「1週間だけ待ってやる。ソードスキルの1つでも使えるようになってみせろ」
「……はい」
「可能性を示さねば、グローツ子爵家にお前の籍は無いものと思え」
「分かりました」
反論は無駄だと知っているライルは、項垂れながら執務室を出た。フラフラとした足取りで庭へと向かう。
「よう無能者」
「兄上?」
ライルを呼び止めたのは、王国近衛騎士団の副団長を務める5歳年上の嫡男だ。強大な魔力だけでなく、卓越した剣の腕も併せ持っている。
「『最強であること』が我が子爵家の誇りだ。お前はそれを傷付けた。分かっているのか?」
「申し訳ありません」
この国では貴族の造反を防ぐ為、魔力が強過ぎる者は高位貴族家を継げないようになっている。この制度があるが故に、グローツ子爵家は何代にも渡って陞爵を拒んでいた。
高位貴族家となってしまえば、最も強き者が嫡男となるグローツ子爵家の伝統を変えなければならないからだ。
「お前は所詮、紛い物の騎士でしかなかったんだよ」
ライルの魔力は少ないが、短時間の瞬発力勝負であれば戦える。膨大なソードスキルの中から瞬時に最適な選択をする事で、ライルは試合に勝ち続けてきた。
しかしそれは「魔力の弱さを誤魔化す為の姑息な手段」として、兄の目には映っていたようだ。
グローツ子爵家の中で最も才能ある者は、王都の近衛騎士団に出仕して名を上げる。その後にグローツ子爵家を継ぐのが習わしだ。
それ以外の者は、騎士となって護衛任務を経験してから、他家へと婿入りをする。剣才溢れるグローツ子爵家の男子は、魔物被害が大きい領地では引く手数多だ。婿入り先に困る事は無い。
しかし中には騎士に向かない者もいる。それらは子爵家から容赦なく籍を抜かれ、成人すると同時に平民に落とされてきた。
「お前には平民が相応しい。覚悟しておくんだな」
「……はい」
兄は傲慢な自信家だが腕は確かだ。近衛騎士団の副団長という職務上、大陸覇者闘技会には出られなかったが、「出場していれば優勝したのは俺だ」と言ってはばからない。
「兄上。それでは失礼します」
ライルは庭で鍛錬を始めたが、何日経とうともソードスキルが使えるようにはならなかった。
そしてティリアが王太子から婚約を破棄されて、その後釜にはライルの元婚約者であるミリーナが据えられた事を知る。
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