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33話 ギルドの風物詩
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ライルはギルドの扉を押し開けた。
「おっ? 帰ってきたね」
「遅くなってすみませんヴェイナーさん」
「気にしなくていいって。どうせそこのアホが『試合しようぜ』とか何とか言って、アンタは付き合わされたんだろ?」
ライルは何とも言えない表情だ。無言は肯定を意味する。
「『ウチのギルドでは俺がエースだ!』とか言って飛び出してったくせに、負けて担がれて帰って来てんだから世話ないわホント。あはははは」
ヴェイナーが笑い飛ばすと、ライルの肩を借りていたリンドルがビクリと震えた。顔を上げてライルから離れると、ヴェイナーに突っ掛かる。
「随分な言い草じゃねぇかよヴェイナー。誰のお陰でこのギルドが持ってると思ってんだ?」
「あたしのお陰に決まってんだろ。今までどんだけ綱渡り経営してきたと思ってんのさ。あたしがギルマスやってなきゃ、ここは更地になってるよ」
「その前に、俺の稼ぎがなきゃとっくに潰れてんだろが!」
「はぁ? 不良冒険者がナマ言ってんじゃないよ! 大体さぁ、アンタがしょっちゅう安請け合いして、儲からない仕事ばっかギルドに持ってくるから大変なんだからね!」
「仕事がないよりマシじゃねぇかよ!」
「赤字の仕事なんて無い方がマシなんだよ! 話持ってくるなら少しは仕事を選べって、いつも言ってんでしょうが! その軽過ぎる頭には、綿でも詰まってんじゃないでしょうね?」
2人の間には火花が飛んでいる。誰も立ち入れない雰囲気だ。
「まーたやってるよ。これが始まると『リンドルが帰ってきたんだなぁ』って感じがするよな」
「ギルドの風物詩だからね」
ギルドメンバー達は、喧々囂々とやり合う2人を遠巻きに眺める。
「ヴェイナーさんとリンドル様は、あまり仲がよろしくないのでしょうか?」
ティリアは遠慮がちに訊いてみた。もしそうであれば、仲を取り持つのもやぶさかではないからだ。
「いやぁ。そんなんじゃないさ。何だかんだ言って、あの2人はそれなりに認め合ってるからな。ヴェイナーは、Aランク冒険者としてのリンドルの腕を買ってるし、リンドルは、弱小ギルドを切り盛りするヴェイナーを支えようとしてるしな」
ベテラン冒険者は「けどなぁ」と言って肩を竦める。
「どっちも素直じゃないから、ロクに礼も言えないんだよ。だからこうやって、よく喧嘩になっちまう」
周りのギルドメンバー達は、ヴェイナーとリンドルを見ながら苦笑している。
「では、お二人は仲がよろしいのですか?」
「そう思ってもらっていい。本当に仲が悪かったら、リンドルはウチを出て他所のギルドに行ってるさ」
ベテラン冒険者の言葉に、ティリアは納得したようだ。
「ていうかさ、リンドル君って超悲惨だよね」
「言えてるー」
女性冒険者達がヒソヒソと話す。
「リンドルさんは悲惨なんですか?」
ライルは質問しながら女性冒険者達の方を見た。
「急にこっち見ないでよライル君! 美形に見つめられたら惚れちゃうでしょうが!」
「ああ、安心してティリアちゃん。私達はライル君を取ったりしないからね。ドロドロの愛憎劇とかやるつもりないし」
「えっ?」
するとライルが何かを言う前に、ティリアは女性冒険者の背に隠れてしまった。不都合があると隠れてしまうのは、ティリアの昔からの癖だ。
「リンドル君は姐さんに惚れてるからね。姐さんは、リンドル君の好意にまぁっっっったく気付いてないけど」
「だって仕事一筋の鉄女だもん。酒場で声掛けした男も全滅してるらしいし」
そんなこんなでしばらく様子を眺めていると、ヴェイナーとリンドルの口喧嘩はすぐに終わった。どうやらヴェイナーの勝利に終わったようで、リンドルは燃え尽きている。
「馬鹿だねーリンドル君。姐さんに口で勝てるわけないのにさ」
「それも含めて風物詩だからなぁ。ははは」
「ティリアちゃんはライル君と喧嘩とかしないの?」
「喧嘩ですか?」
ティリアはライルの顔をじーっと見て、何かを考えている。
「そういった事は……ないと思います」
ティリアの答えとは裏腹に、ライルはモノ申したそうな表情だ。
「どうしたのライル君? 言いたい事があるなら言っちゃいなよ」
「そうねライル。遠慮しないで言って」
ティリアの後押しもあり、ライルは噛み含めるように話し出す。
「では僭越ながら具申させていただきます。最近は俺とティリア様で口論になる時があります」
ティリアは「えっ?」と言って驚いている。
「俺が剣や魔法の修練を行っていると、ティリア様が『そろそろ止めるように』と釘を刺されますよね? 修練を続けたいと思っていても、ティリア様に止められてしまえば俺は止めざるを得ません。そういった時に、多少の押し問答となる事がありました」
『それって喧嘩なの?』
というのが、ここにいる冒険者達の総意だった。
「俺は、もっと長時間の修練をやりたいんです」
「でもそうしたら、ライルは倒れるまでやってしまうでしょう?」
「必要な事ですので。倒れてしまうなら、それはそれで仕方ありません」
「身体が一番大事よ。そんなに根を詰め過ぎるのは良くないわ」
「……」
ライルは何も言えなかった。ここにいる冒険者達にはライルの気持ちはバレバレだったが、ティリアだけは理解していない。
『貴女を守れるように強くなりたいんですよ』
という本音が言えないライルは、リンドルと同じように生温かい目を向けられるようになった。
「おっ? 帰ってきたね」
「遅くなってすみませんヴェイナーさん」
「気にしなくていいって。どうせそこのアホが『試合しようぜ』とか何とか言って、アンタは付き合わされたんだろ?」
ライルは何とも言えない表情だ。無言は肯定を意味する。
「『ウチのギルドでは俺がエースだ!』とか言って飛び出してったくせに、負けて担がれて帰って来てんだから世話ないわホント。あはははは」
ヴェイナーが笑い飛ばすと、ライルの肩を借りていたリンドルがビクリと震えた。顔を上げてライルから離れると、ヴェイナーに突っ掛かる。
「随分な言い草じゃねぇかよヴェイナー。誰のお陰でこのギルドが持ってると思ってんだ?」
「あたしのお陰に決まってんだろ。今までどんだけ綱渡り経営してきたと思ってんのさ。あたしがギルマスやってなきゃ、ここは更地になってるよ」
「その前に、俺の稼ぎがなきゃとっくに潰れてんだろが!」
「はぁ? 不良冒険者がナマ言ってんじゃないよ! 大体さぁ、アンタがしょっちゅう安請け合いして、儲からない仕事ばっかギルドに持ってくるから大変なんだからね!」
「仕事がないよりマシじゃねぇかよ!」
「赤字の仕事なんて無い方がマシなんだよ! 話持ってくるなら少しは仕事を選べって、いつも言ってんでしょうが! その軽過ぎる頭には、綿でも詰まってんじゃないでしょうね?」
2人の間には火花が飛んでいる。誰も立ち入れない雰囲気だ。
「まーたやってるよ。これが始まると『リンドルが帰ってきたんだなぁ』って感じがするよな」
「ギルドの風物詩だからね」
ギルドメンバー達は、喧々囂々とやり合う2人を遠巻きに眺める。
「ヴェイナーさんとリンドル様は、あまり仲がよろしくないのでしょうか?」
ティリアは遠慮がちに訊いてみた。もしそうであれば、仲を取り持つのもやぶさかではないからだ。
「いやぁ。そんなんじゃないさ。何だかんだ言って、あの2人はそれなりに認め合ってるからな。ヴェイナーは、Aランク冒険者としてのリンドルの腕を買ってるし、リンドルは、弱小ギルドを切り盛りするヴェイナーを支えようとしてるしな」
ベテラン冒険者は「けどなぁ」と言って肩を竦める。
「どっちも素直じゃないから、ロクに礼も言えないんだよ。だからこうやって、よく喧嘩になっちまう」
周りのギルドメンバー達は、ヴェイナーとリンドルを見ながら苦笑している。
「では、お二人は仲がよろしいのですか?」
「そう思ってもらっていい。本当に仲が悪かったら、リンドルはウチを出て他所のギルドに行ってるさ」
ベテラン冒険者の言葉に、ティリアは納得したようだ。
「ていうかさ、リンドル君って超悲惨だよね」
「言えてるー」
女性冒険者達がヒソヒソと話す。
「リンドルさんは悲惨なんですか?」
ライルは質問しながら女性冒険者達の方を見た。
「急にこっち見ないでよライル君! 美形に見つめられたら惚れちゃうでしょうが!」
「ああ、安心してティリアちゃん。私達はライル君を取ったりしないからね。ドロドロの愛憎劇とかやるつもりないし」
「えっ?」
するとライルが何かを言う前に、ティリアは女性冒険者の背に隠れてしまった。不都合があると隠れてしまうのは、ティリアの昔からの癖だ。
「リンドル君は姐さんに惚れてるからね。姐さんは、リンドル君の好意にまぁっっっったく気付いてないけど」
「だって仕事一筋の鉄女だもん。酒場で声掛けした男も全滅してるらしいし」
そんなこんなでしばらく様子を眺めていると、ヴェイナーとリンドルの口喧嘩はすぐに終わった。どうやらヴェイナーの勝利に終わったようで、リンドルは燃え尽きている。
「馬鹿だねーリンドル君。姐さんに口で勝てるわけないのにさ」
「それも含めて風物詩だからなぁ。ははは」
「ティリアちゃんはライル君と喧嘩とかしないの?」
「喧嘩ですか?」
ティリアはライルの顔をじーっと見て、何かを考えている。
「そういった事は……ないと思います」
ティリアの答えとは裏腹に、ライルはモノ申したそうな表情だ。
「どうしたのライル君? 言いたい事があるなら言っちゃいなよ」
「そうねライル。遠慮しないで言って」
ティリアの後押しもあり、ライルは噛み含めるように話し出す。
「では僭越ながら具申させていただきます。最近は俺とティリア様で口論になる時があります」
ティリアは「えっ?」と言って驚いている。
「俺が剣や魔法の修練を行っていると、ティリア様が『そろそろ止めるように』と釘を刺されますよね? 修練を続けたいと思っていても、ティリア様に止められてしまえば俺は止めざるを得ません。そういった時に、多少の押し問答となる事がありました」
『それって喧嘩なの?』
というのが、ここにいる冒険者達の総意だった。
「俺は、もっと長時間の修練をやりたいんです」
「でもそうしたら、ライルは倒れるまでやってしまうでしょう?」
「必要な事ですので。倒れてしまうなら、それはそれで仕方ありません」
「身体が一番大事よ。そんなに根を詰め過ぎるのは良くないわ」
「……」
ライルは何も言えなかった。ここにいる冒険者達にはライルの気持ちはバレバレだったが、ティリアだけは理解していない。
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