33 / 77
33話 ギルドの風物詩
しおりを挟む
ライルはギルドの扉を押し開けた。
「おっ? 帰ってきたね」
「遅くなってすみませんヴェイナーさん」
「気にしなくていいって。どうせそこのアホが『試合しようぜ』とか何とか言って、アンタは付き合わされたんだろ?」
ライルは何とも言えない表情だ。無言は肯定を意味する。
「『ウチのギルドでは俺がエースだ!』とか言って飛び出してったくせに、負けて担がれて帰って来てんだから世話ないわホント。あはははは」
ヴェイナーが笑い飛ばすと、ライルの肩を借りていたリンドルがビクリと震えた。顔を上げてライルから離れると、ヴェイナーに突っ掛かる。
「随分な言い草じゃねぇかよヴェイナー。誰のお陰でこのギルドが持ってると思ってんだ?」
「あたしのお陰に決まってんだろ。今までどんだけ綱渡り経営してきたと思ってんのさ。あたしがギルマスやってなきゃ、ここは更地になってるよ」
「その前に、俺の稼ぎがなきゃとっくに潰れてんだろが!」
「はぁ? 不良冒険者がナマ言ってんじゃないよ! 大体さぁ、アンタがしょっちゅう安請け合いして、儲からない仕事ばっかギルドに持ってくるから大変なんだからね!」
「仕事がないよりマシじゃねぇかよ!」
「赤字の仕事なんて無い方がマシなんだよ! 話持ってくるなら少しは仕事を選べって、いつも言ってんでしょうが! その軽過ぎる頭には、綿でも詰まってんじゃないでしょうね?」
2人の間には火花が飛んでいる。誰も立ち入れない雰囲気だ。
「まーたやってるよ。これが始まると『リンドルが帰ってきたんだなぁ』って感じがするよな」
「ギルドの風物詩だからね」
ギルドメンバー達は、喧々囂々とやり合う2人を遠巻きに眺める。
「ヴェイナーさんとリンドル様は、あまり仲がよろしくないのでしょうか?」
ティリアは遠慮がちに訊いてみた。もしそうであれば、仲を取り持つのもやぶさかではないからだ。
「いやぁ。そんなんじゃないさ。何だかんだ言って、あの2人はそれなりに認め合ってるからな。ヴェイナーは、Aランク冒険者としてのリンドルの腕を買ってるし、リンドルは、弱小ギルドを切り盛りするヴェイナーを支えようとしてるしな」
ベテラン冒険者は「けどなぁ」と言って肩を竦める。
「どっちも素直じゃないから、ロクに礼も言えないんだよ。だからこうやって、よく喧嘩になっちまう」
周りのギルドメンバー達は、ヴェイナーとリンドルを見ながら苦笑している。
「では、お二人は仲がよろしいのですか?」
「そう思ってもらっていい。本当に仲が悪かったら、リンドルはウチを出て他所のギルドに行ってるさ」
ベテラン冒険者の言葉に、ティリアは納得したようだ。
「ていうかさ、リンドル君って超悲惨だよね」
「言えてるー」
女性冒険者達がヒソヒソと話す。
「リンドルさんは悲惨なんですか?」
ライルは質問しながら女性冒険者達の方を見た。
「急にこっち見ないでよライル君! 美形に見つめられたら惚れちゃうでしょうが!」
「ああ、安心してティリアちゃん。私達はライル君を取ったりしないからね。ドロドロの愛憎劇とかやるつもりないし」
「えっ?」
するとライルが何かを言う前に、ティリアは女性冒険者の背に隠れてしまった。不都合があると隠れてしまうのは、ティリアの昔からの癖だ。
「リンドル君は姐さんに惚れてるからね。姐さんは、リンドル君の好意にまぁっっっったく気付いてないけど」
「だって仕事一筋の鉄女だもん。酒場で声掛けした男も全滅してるらしいし」
そんなこんなでしばらく様子を眺めていると、ヴェイナーとリンドルの口喧嘩はすぐに終わった。どうやらヴェイナーの勝利に終わったようで、リンドルは燃え尽きている。
「馬鹿だねーリンドル君。姐さんに口で勝てるわけないのにさ」
「それも含めて風物詩だからなぁ。ははは」
「ティリアちゃんはライル君と喧嘩とかしないの?」
「喧嘩ですか?」
ティリアはライルの顔をじーっと見て、何かを考えている。
「そういった事は……ないと思います」
ティリアの答えとは裏腹に、ライルはモノ申したそうな表情だ。
「どうしたのライル君? 言いたい事があるなら言っちゃいなよ」
「そうねライル。遠慮しないで言って」
ティリアの後押しもあり、ライルは噛み含めるように話し出す。
「では僭越ながら具申させていただきます。最近は俺とティリア様で口論になる時があります」
ティリアは「えっ?」と言って驚いている。
「俺が剣や魔法の修練を行っていると、ティリア様が『そろそろ止めるように』と釘を刺されますよね? 修練を続けたいと思っていても、ティリア様に止められてしまえば俺は止めざるを得ません。そういった時に、多少の押し問答となる事がありました」
『それって喧嘩なの?』
というのが、ここにいる冒険者達の総意だった。
「俺は、もっと長時間の修練をやりたいんです」
「でもそうしたら、ライルは倒れるまでやってしまうでしょう?」
「必要な事ですので。倒れてしまうなら、それはそれで仕方ありません」
「身体が一番大事よ。そんなに根を詰め過ぎるのは良くないわ」
「……」
ライルは何も言えなかった。ここにいる冒険者達にはライルの気持ちはバレバレだったが、ティリアだけは理解していない。
『貴女を守れるように強くなりたいんですよ』
という本音が言えないライルは、リンドルと同じように生温かい目を向けられるようになった。
「おっ? 帰ってきたね」
「遅くなってすみませんヴェイナーさん」
「気にしなくていいって。どうせそこのアホが『試合しようぜ』とか何とか言って、アンタは付き合わされたんだろ?」
ライルは何とも言えない表情だ。無言は肯定を意味する。
「『ウチのギルドでは俺がエースだ!』とか言って飛び出してったくせに、負けて担がれて帰って来てんだから世話ないわホント。あはははは」
ヴェイナーが笑い飛ばすと、ライルの肩を借りていたリンドルがビクリと震えた。顔を上げてライルから離れると、ヴェイナーに突っ掛かる。
「随分な言い草じゃねぇかよヴェイナー。誰のお陰でこのギルドが持ってると思ってんだ?」
「あたしのお陰に決まってんだろ。今までどんだけ綱渡り経営してきたと思ってんのさ。あたしがギルマスやってなきゃ、ここは更地になってるよ」
「その前に、俺の稼ぎがなきゃとっくに潰れてんだろが!」
「はぁ? 不良冒険者がナマ言ってんじゃないよ! 大体さぁ、アンタがしょっちゅう安請け合いして、儲からない仕事ばっかギルドに持ってくるから大変なんだからね!」
「仕事がないよりマシじゃねぇかよ!」
「赤字の仕事なんて無い方がマシなんだよ! 話持ってくるなら少しは仕事を選べって、いつも言ってんでしょうが! その軽過ぎる頭には、綿でも詰まってんじゃないでしょうね?」
2人の間には火花が飛んでいる。誰も立ち入れない雰囲気だ。
「まーたやってるよ。これが始まると『リンドルが帰ってきたんだなぁ』って感じがするよな」
「ギルドの風物詩だからね」
ギルドメンバー達は、喧々囂々とやり合う2人を遠巻きに眺める。
「ヴェイナーさんとリンドル様は、あまり仲がよろしくないのでしょうか?」
ティリアは遠慮がちに訊いてみた。もしそうであれば、仲を取り持つのもやぶさかではないからだ。
「いやぁ。そんなんじゃないさ。何だかんだ言って、あの2人はそれなりに認め合ってるからな。ヴェイナーは、Aランク冒険者としてのリンドルの腕を買ってるし、リンドルは、弱小ギルドを切り盛りするヴェイナーを支えようとしてるしな」
ベテラン冒険者は「けどなぁ」と言って肩を竦める。
「どっちも素直じゃないから、ロクに礼も言えないんだよ。だからこうやって、よく喧嘩になっちまう」
周りのギルドメンバー達は、ヴェイナーとリンドルを見ながら苦笑している。
「では、お二人は仲がよろしいのですか?」
「そう思ってもらっていい。本当に仲が悪かったら、リンドルはウチを出て他所のギルドに行ってるさ」
ベテラン冒険者の言葉に、ティリアは納得したようだ。
「ていうかさ、リンドル君って超悲惨だよね」
「言えてるー」
女性冒険者達がヒソヒソと話す。
「リンドルさんは悲惨なんですか?」
ライルは質問しながら女性冒険者達の方を見た。
「急にこっち見ないでよライル君! 美形に見つめられたら惚れちゃうでしょうが!」
「ああ、安心してティリアちゃん。私達はライル君を取ったりしないからね。ドロドロの愛憎劇とかやるつもりないし」
「えっ?」
するとライルが何かを言う前に、ティリアは女性冒険者の背に隠れてしまった。不都合があると隠れてしまうのは、ティリアの昔からの癖だ。
「リンドル君は姐さんに惚れてるからね。姐さんは、リンドル君の好意にまぁっっっったく気付いてないけど」
「だって仕事一筋の鉄女だもん。酒場で声掛けした男も全滅してるらしいし」
そんなこんなでしばらく様子を眺めていると、ヴェイナーとリンドルの口喧嘩はすぐに終わった。どうやらヴェイナーの勝利に終わったようで、リンドルは燃え尽きている。
「馬鹿だねーリンドル君。姐さんに口で勝てるわけないのにさ」
「それも含めて風物詩だからなぁ。ははは」
「ティリアちゃんはライル君と喧嘩とかしないの?」
「喧嘩ですか?」
ティリアはライルの顔をじーっと見て、何かを考えている。
「そういった事は……ないと思います」
ティリアの答えとは裏腹に、ライルはモノ申したそうな表情だ。
「どうしたのライル君? 言いたい事があるなら言っちゃいなよ」
「そうねライル。遠慮しないで言って」
ティリアの後押しもあり、ライルは噛み含めるように話し出す。
「では僭越ながら具申させていただきます。最近は俺とティリア様で口論になる時があります」
ティリアは「えっ?」と言って驚いている。
「俺が剣や魔法の修練を行っていると、ティリア様が『そろそろ止めるように』と釘を刺されますよね? 修練を続けたいと思っていても、ティリア様に止められてしまえば俺は止めざるを得ません。そういった時に、多少の押し問答となる事がありました」
『それって喧嘩なの?』
というのが、ここにいる冒険者達の総意だった。
「俺は、もっと長時間の修練をやりたいんです」
「でもそうしたら、ライルは倒れるまでやってしまうでしょう?」
「必要な事ですので。倒れてしまうなら、それはそれで仕方ありません」
「身体が一番大事よ。そんなに根を詰め過ぎるのは良くないわ」
「……」
ライルは何も言えなかった。ここにいる冒険者達にはライルの気持ちはバレバレだったが、ティリアだけは理解していない。
『貴女を守れるように強くなりたいんですよ』
という本音が言えないライルは、リンドルと同じように生温かい目を向けられるようになった。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~
阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」
婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。
けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。
セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。
「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。
――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる