公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

文字の大きさ
38 / 77

38話 天井に張り付く魔物の再来

しおりを挟む
 とある晴れた日。

「来週はウチのギルドの生誕祭だからね。準備忘れんじゃないよ」

 ヴェイナーの言葉に、ギルドメンバー達は思い思いに反応する。

「ギルドの生誕祭?」
「ギルドの設立記念日よ。地域の人達を招いてお祝いをするの」

「そうなんですか。ティリア様は博識ですね」
「毎日色々な書類に目を通してるもの」

 少しだけ得意気に言った。その姿が愛らしく、ライルは自然と目を細める。

「でもライルの方が博識じゃない?」
「俺がですか?」
「だって、私が知らない魔法を使っているもの」

「ティリア様から頂いた力を使っているのですから、ティリア様が魔法を使っているようなものですよ」

 見つめ合っていると、ティリアはフイに外を見た。

「ギルドにも誕生日があるのね」
「誕生日と聞いて、悲しくなりましたか?」
「ううん。そんな事ないわ」

 ティリアがフローレンス公爵家にいた頃は、家族に誕生日を祝ってもらった事などない。婚約者からも祝いの言葉一つ掛けられず、おそらくは侍従が選んだと思われる贈り物が届けられるだけだった。

「私の誕生日は、いつもライルが祝ってくれたもの」
「俺の誕生日も、いつもティリア様に祝って頂きました」

 2人だけの世界に入っていたが、ギルドメンバー達にバッチリ聞かれているのを失念していた為、後日色々と揶揄われて焦る事となる。

 △

『きゃあああ!』

 ギルド生誕祭を翌日に控えた日、ギルド内で複数の悲鳴が上がった。

「何だ!」
「どうしたんだ!」

 冒険者達が武器を片手に殺到した。

「あ、あれ見て」

 調理担当の女性が震えながら天井を指差す。そこには紫色のおどろおどろしい何かが、天井に張り付いていた。

「新種の魔物かっ!?」
「一旦離れろっ! 誰か魔法使い呼んでこい! 魔法で殺すんだ!」
「待ってください」

 人を掻き分けてライルが声を掛ける。

「おお。お前がやってくれるのか。燃やすか凍らせるかしてくれ。飛び掛かってくるかもしれんから、あまり近付き過ぎるなよ」

 冒険者はそう言って大きく下がる。

「いえ。違うんですよ皆さん。あれは魔物ではありません」
「はぁ? どう見ても魔物だろう? あの毒々しい焦げ茶と紫のコントラストは、今にも人を呪い殺しそうじゃないか」

 周囲の人間はウンウンと頷いて同意している。

「違います。あれはタルトなんです」
「魔物がタルト? 馬鹿を言うな」
「そうだぜライル。まさか『呪われたタルトだ』とでも言うつもりか?」

 ギルド生誕祭の調理担当者達も「そうよそうよ」と言って、ライルの意見を否定する。

「タルトなんですよ皆さん」
「タルトだっていうなら、そもそも誰が作ったの? あんな変な物を作る人なんてウチにいないはずよ」
「それは……」

 ライルがしどろもどろになっていると、ティリアがおずおずと進み出た。

「申し訳ありません。私が作りました」
『えぇえええええええ!?』

 誰もが驚いた顔でティリアを見ている。可憐な容姿をしており仕事も完璧なティリアが、タルトの化物を作ったという事実が信じられないからだ。

「材料に何を混ぜたの? どうやって作ったの? ティリアちゃん大丈夫? 疲れてるの?」

「いえ、あの……疲れてはいません。焼いた生地に生クリームと赤と青の果物を載せていたら、躓いてしまってああなってしまったんです」

(躓いたらタルトが魔物になるのか!?)

 全員の心の叫びが一致した瞬間だ。

 色々と説明が端折られている為に製作過程が不明だった。しかし誰もが思っている疑問であろうとも、それを口にする者はいない。

 ティリアが申し訳なさそうにしており、それ以上突っ込んで訊ける雰囲気ではなかったからだ。

「ライルを呼びに行って戻ってきたら、大騒ぎになっていて。すみません」

 躓いたティリアは、テコの原理やら物理反射の法則を、神懸かり的な偶然で何度か発動させている。そうしてなんやかんやで、最終的に天井に張り付かせてしまったのが真相だ。

「気にしたら駄目よティリアちゃん」
「ヴェイナーさん。でも私、以前もパンケーキで同じ事をしてしまったんです」
「大丈夫。誰にだって苦手な事はあるわ」

 ヴェイナーはティリアの頭を撫でて慰めると、ギルドメンバー達にアイコンタクトを送る。送られた者達も「分かっています」と言った感じで小さく頷いた。

『ティリアの料理はポンコツだ』

 という情報がギルド内で共有される事となる。明日以降は、ティリアが料理担当を務める機会はなくなるだろう。

 しかし彼等彼女等は後に、ティリアは料理だけではなく刺繍もポンコツであると知る事になる。

「あのバケモ……タルトどうすんだ?」
「俺が食べます」

「馬鹿野郎! 死ぬ気かライル!」
「オメェはウチのエースだろうが! 無駄な事で軽々しく特攻すんじゃねぇ!」

 ベテランの冒険者達に諫められたが聞き入れるつもりはない。ライルにも譲れないものがあるからだ。

「退くわけにはいきません。必ず俺がいただきます」

 そしてライルは、魔導構成式を素早く組み立てて印を切る

「《氷柱アイシクル》《重力増加グラビティ・インクリーズ》」

 テーブル状の氷柱が現れ、タルトは増加した重力に耐えられずにビターンと落下した。氷柱の上にタルトが載っている状態だ。

「さて、いただきましょうか」
「ライル。食べるのは止めた方が良いんじゃないかな?」
「何故ですかティリア様?」

「天井に付着した物だし」
「天井との接触部を避けて食せば問題ありません」

 ライルの必食の意志は固い。説得を諦めたティリアが引き下がると、ライルは魔法を行使する。

「《風刃ウィンドブレード》」
「ライル。アンタさっきから色々と魔法使ってるけどさぁ。魔導超越者マジックマスターの無駄遣いよそれ」

 ヴェイナーは呆れている。しかし上機嫌のライルは一切気にする事も無く、タルトを切り分けてパクリと食した。満足気な笑みだ。

「美味しいですよ。ティリア様」
「え? マジで? そんじゃ俺も貰いっと」
「なっ!?」

 ライルは渡すものかと奮闘したが、いかんせん急過ぎてどうにも出来なかった。

「はいゲット」

 リンドルはアクロバティック強奪で難無くタルトを手に入れる。そしてこれみよがしに口に入れ、

「ぶはぁっ! 不味い! がはぁっ!」

 バタリと床に倒れた。

「不味い? どこがですか。こんなに美味しいのに」

 リンドルは、モグモグと食べ始めたライルを見上げる。ライルの味覚には強烈なティリア補正が掛かっている事を理解したリンドルだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

処理中です...