公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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39話 ギルド生誕祭でのラストダンス

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 ギルド《鷹の眼ホークアイ》の生誕祭は、創設以来のとてつもない人出となった。余りにも人が多過ぎた為、急遽街の大広場での開催に変更となった程だ。

 街の住人達はライルを一目見ようと大挙して押し掛け、ライバルであるはずの他ギルドの冒険者達も、手土産持参でちゃっかり参加している。まるで町全体を挙げての祭りといった様相を呈していた。

 そして飲めや歌えやの大騒ぎが、真昼間から延々と続いている。ギルド《鷹の眼ホークアイ》 が毎年開催している小じんまりとしたものとは、全くの別物であった。

「ライル様は、魔法使いなのに剣士様でもあるんですね」
「凄いわぁ」

 押し掛けている街娘達の目的は、ライルと恋仲になる事だ。ライルは魔法の腕もさる事ながら、剣士としてもSランク冒険者を圧倒する凄腕である。

 ワイバーン討伐の英雄であり、外見も見目麗しいとなれば、街娘達に群がられるのも必然だった。

「素敵」
「恰好良いですねぇ。お近付きになりたいわぁ」
「ちょっと! 抜け駆けしないでよ!(小声)」

 ウットリとした顔をしている大勢の街娘達に囲まれて、ライルはどうしたらいいか分からずに困惑している。

 ライルはチラチラとティリアに視線を送り、懇願するような目を向けたりもしているが、ティリアはライルに応えない。我関せずで無表情だった。

 日の入りが迫っている時間だが、肉食系街娘の勢いは衰える事を知らず、長時間に渡ってライルを攻めている。

「ティリアちゃん楽しんで……るわけないか」
「ヴェイナーさん?」

 ヴェイナーはティリアが座っているベンチに腰掛けた。

「あっ! 今あの子、ライルの腕に触ったわ」

 ヴェイナーの言葉に、ティリアは眉根を寄せてムッとする。心情が分かりやす過ぎて、ヴェイナーは思わず苦笑した。

「顔に出てるけど、感情は隠さなくていいの?」
「いいんです。私はもう貴族ではありませんから」

 ヴェイナーは「そう」と言って、ティリアの顔を覗き込んだ。

「あの子達が気に入らないなら、宣戦布告してくればいいじゃない『私のライルに手を出さないで』ってさ」
「な、な、な」

 ティリアは口をパクパクさせている。その様子がなんだか可笑しくて、ヴェイナーは声を上げて笑った。

「そんなに顔に出ちゃうようだと、もう王太子妃にはなれないわね」
「えっ?」

「ティリアちゃんの事もライルの事も、調べさせてもらったわ。というより、ウチのギルドに所属してる人間については全員調査してるんだけどね」

「そうですか」
「調べられてるって聞かされて気を悪くした?」

「いいえ。私もギルドのお仕事をしていますし。そういった情報が必要なのは分かっていますから」

 少しの間だけ沈黙が続くと、ヴェイナーはポツリポツリと話し出す。

「あたしも少しだけティリアちゃんと境遇が似てる。これでも一応貴族の端くれだったからさ。でもまあ、なんだかんだと紆余曲折を経て、今ではギルマスなんてやってるけどね」

 ウインクをするヴェイナーの目には、後悔の色は見られない。

「貴族だった時は大変だったけど、それでもティリアちゃんやライルよりは気楽だったんじゃないかな。好きな事を優先してたしさ。ティリアちゃんはどう? 公爵家にいた頃は、ちゃんと楽しんでた?」

「私は……苦しかったり辛かったりする事が多かったです。でも全てがそうだったわけではありません。嬉しい事や楽しい事もありましたし。何より今は、とても充実した毎日を送れていますから」

 ティリアの本音を聞いて、ヴェイナーはニコリと笑う。

「ティリアちゃんが『嬉しい』『楽しい』と思った時、貴女の傍には誰がいたの?」
「えっ?」

「今の『とても充実した毎日』を貴女に与えてくれるのは誰?」
「それは……」

「あそこで女の子達に迫られて困ってる男じゃないの? もしそうだったら、貴女が助けてあげないと駄目よ」
「……」

「取り返しのつかない後悔だってあるわ。だからあたしは、絶対に悔いが残らないように生きるって決めてる。欲しい物は欲しいって言うし、やりたい事はやりたいって言う」
「ヴェイナーさん」

「今すぐ動かないと二度と手に入らないかもしれない。チャンスなんてもう来ないかもしれない。これから先、そういう事は必ず起こるわ。だからあたしは躊躇しないの」

 ヴェイナーがティリアの瞳を真っすぐに見つめると、ティリアはすっくと立ち上がった。

「ヴェイナーさん。ありがとうございました。私、行ってきます」
「行ってらっしゃい。ついでに『他の女に構うな!』とでも怒鳴って、ライルを2,3発引っ叩いてきなさい」
「そ、それは遠慮しておきます」

 白いフレアスカートを風に靡かせながら、ティリアはライルに駆け寄る。そして短い言葉を交わすと、腕を掴んで戻って来た。娘達は悔しそうな顔をしていたが、ティリアを一目見て「諦めるしかない」と悟ったようだった。

「おかえり。アンタが女の子達にデレデレしてたから、ティリアちゃんが御冠よ」
「デレデレなんてしてません!」

 ライルが慌てながら否定していると、どこからともなくリンドルがやって来た。

「おいヴェイナー。ラストダンスが始まるぞ。せっかくだから踊ろうぜ」
「何であたしがアンタと踊らなきゃなんないのさ」

「べ、別にいいじゃねぇかよ。適当なお気楽ダンスなんだからよ」
「はいはい。ギルメンの要望なら仕方ないか。これもギルマスの務めだからね」

 ヴェイナーは立ち上がってライルを見た。

「ティリアちゃんを放ったらかしてたんだから、最後のエスコートくらいしっかりやんなさいよ」

 言い終わると、ヴェイナーは踵を返して大広場の中央へと向かって行った。

「ティリア様」

 ライルは片膝を着いて右手を伸ばす。

「貴女と踊る栄誉を俺に頂けませんか?」
「ええ。喜んで。素敵な剣士様」

 ティリアは微笑んでその手を取った。

 2人の優美なダンスは見る者を魅了していった。
 それは多くの住人達の目に留まり、これ以後のギルド生誕祭では、ラストダンスは特別なものだと認識されるようになる。
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