公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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67話 ターニングポイント

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 ライルは冒険者としての活躍の幅を広げていた。瘴気を発する魔物を倒し続け、シーダ姫からもたらされる面倒な依頼や、ギルドに持ち込まれる厄介な依頼も解決に導いている。

 今では大陸中にその名が知られるようになり「伝説の冒険者だ」と、噂を広める者も少なくない。

 そんなとある秋の日、現在休憩中のティリアはギルドの椅子に座って、小雨が振る外の景色を眺めていた。

「ぼーっとして、どうしたのティリアちゃん?」
「ヴェイナーさん………」

 ヴェイナーは「あたしも休憩にしようかな」と言って、ティリアの隣の椅子に腰掛ける。

「アイツ、貴族になるんだって?」
「はい。昨日、国王様からの使者が家に来られました。来月早々に式典が予定されているみたいです」

「へぇ」
「ライルは凄いですね」

「まあ、達成困難な依頼でもなんとかするし。瘴気取り込んで暴れ出した伝説のギガンテスも、遠距離魔法一発で倒しちゃったし。その功績で、来月には子爵に叙爵されるしね」

 自身の力を高め続けたライルは、大陸の平和を脅かした伝説級の魔物すらも相手にならなかった。既に名実共に世界最高の冒険者となっている。

「ライルが子爵にねぇ」

 ヴェイナーの呟きを聞いたティリアは、遠い目をして景色を眺めた。ライルが遠くに行ってしまう気がして、物思いにふけってしまったからだ。

「アイツなら叙爵を断りそうなもんだけど。お金に全然興味なさそうだしさ」
「断れなかったみたいです」

 拒否は不可能だった。大衆からの熱烈な支持があり、それに加えて王命でもあったからだ。

「新しく興す家門は『グローツ子爵家』になるんだっけ?」
「はい」

 ライルは悩んだ末に、慣れ親しんだグローツ子爵を名乗る事にした。

「アイツって祖国のグローツ子爵家から追い出されたんでしょ? それなのに、またグローツを名乗りたいなんて不思議ね」
「ライルにとって、それだけ深い思い入れがあるのかもしれませんね」

 母や兄弟達からはぞんざいに扱われ、父親からは殺され掛けた。それでもライルは、自身の家族や自らの運命を恨んだりはしていない。

 何故ならライルが落ちこぼれて家族から疎まれたからこそ、ティリアの護衛となれたのもまた事実だからだ。

「あれだけ高名だったグローツ子爵家の名も、今では地に落ちてるからね。そのグローツ子爵家とも混同されて、色々と誤解を生むんじゃない?」

 祖国のグローツ子爵家は没落の一途を辿っている。そして力が弱まり没落する過程で、闇に葬られていた様々な問題が明るみとなり、醜聞にまみれてしまった。

 新たなグローツ子爵家とは無関係だが、家名が同じ事でライルへ非難の目を向ける者もいるだろう。

 それでもライルは、ティリアと出会う切っ掛けをくれたグローツ子爵家に感謝している。

 そして可能であれば、少しでも家の汚名をそそぎたいと思っているからこそ、今回の叙爵に前向きになれたのだ。

「グローツ子爵様、ライル様。私は、ライルをどう呼ぶべきでしょうか?」

 今後はどのようにしてライルと接するべきか? それがティリアの目下の悩みの種だった。

「そんな事で悩んでたの?」
「はい」

 ティリアが深刻な顔で頷くと、ヴェイナーはニヤリと笑った。

「旦那様でいいんじゃない? どうせ遅かれ早かれ、そんな感じで呼ぶ事になるんだし」
「旦那様ですか?」

 ティリアはしばらく考えて、それもいいかもしれないと思った。ライルが領地や邸を賜れば、領地経営や邸の管理を行う必要が出てくる。

 だが上手くやろうと思っても、一朝一夕の経験では無理だろう。軌道に乗せるには、5年10年という長い時間が必要となってくる。

 だが祖国で国の経営や王城の管理に携わり、このギルドでも様々な業務をこなしてきているティリアにとっては、一領主の仕事など造作もない。

 そしてティリアは、ここ数ヶ月の生活で平民として生きる術も学んでいる。使用人や領主補佐として生きていくのに一切の不足はないだろう。

(今度は私がライルに仕えるのね。「今日の装いは如何いたしましょうかライル様?」なんて言ったら、ライルはどんな顔をするのかしら)

 ティリアは柔らかく微笑んだ。「畏れ多い事です!」などと慌てふためくライルの姿が想像出来てしまったからだ。

「楽しそうねティリアちゃん」
「ふふっ。すみません。今までと立場が逆になったら、ライルはどんな顔をするのかと考えてたんです」
「立場が逆? どういう意味?」

 ヴェイナーは訝し気に疑問を投げ掛ける。

「え? ライルが子爵様になれば、ライルは私の事をティリアと呼びますよね?」
「そうね。でもあいつ結構ヘタレだからさ。ティリアちゃんが嫁になっても、呼び捨てにするのはかなり先になるんじゃない?」

「嫁っ!? 私は使用人になるんですよっ!?」
「……ああ、そういう風に考えちゃったんだ?」

 ヴェイナーは、微妙に話が噛み合わなかった理由を理解した。

「使用人になんかするはずないでしょ? アイツ見てれば分かるじゃない」

 ティリアは戸惑っている。

「だからさぁ『嫁にして!』ってティリアちゃんから言いなよ。このままだと死ぬまで関係変わらないよ?」

「で、ですがライルは叙爵しますから、平民の私では身分違いになります。それに、ライルが誰を好きになるかは分かりませんし、ライルに好意を持つ御令嬢も多いですし……」

 ティリアはモゴモゴ言いながら、最後には黙ってしまう。ヴェイナーは「やれやれ」とボソッと囁いた。

 その日の夕方、ギルドメンバー達は帰って来たライルを建屋の裏に連れ出して「いい加減にしろ!」的な小言をクドクドと言い続けた。

 控えめなティリアからではなく「男であるライルの方から気持ちを伝えるべきだ」との意見がギルドの総意だったからだ。

「アンタは貴族になるんだから、ティリアちゃんとの関係も今まで通りじゃ駄目よ?」

「そんな事はありません。俺の身分がどうなろうと、俺の主君は死ぬまでティリア様ですから」

 ライルは一歩も退かなかった。

 ライルは堂々と胸をはる。ティリアの蘇生魔法で助かった命だ。ティリアの為に使うのが当然だと考えていた。

「アンタが慕う気持ちも、まあ分かる。ティリアちゃんって、ギルドで埋もれさせておくのが勿体ない才女だからね」
「ティリア様は素晴らしい御方ですからね。祖国にいた時も数々の政策を――」

 ティリア本人が聞いていたら赤面して止めたであろう賛美や、祖国での優れた功績を、ライルはとうとうと語っていった。

「――ですので、ティリア様は王妃になられてもおかしくない御方なんです」
「ふーん。そんなに素晴らしいんだったら、平民にしておくのは大きな損失ね」
「まったくその通りです」

 ヴェイナーの言葉に力強く同意する。

「じゃあティリアちゃんを嫁にしなさい」
「!?」

「アンタが頑張れば子爵夫人にはしてやれるでしょ?」
「ティリア様のお気持ちが最重要です!」

「だ・か・ら。まずはアンタが自分の気持ちを伝えないと話が進まないのよ。いつまでも目を背けんなっての!」

 ライルは口をパクパクとさせている。

 ヴェイナーは「二人とも似た者同士だわ」と感じて呆れてしまった。

 しかしこの日を境に、ライルとティリアは双方を意識するようになる。今までは主従でしかなかった関係が、少しずつ変わっていった。
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