公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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70話 叙爵式の始まり

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 王都へ向けて旅立ってから4日後、到着した迎賓館で歓待を受けた。その2日後となる今日は、叙爵式に出席する準備で朝から忙しい。

「いよいよか」

 ライルはそわそわとした気分で落ち着かなかった。それは、子爵の爵位を賜って貴族の身分に返り咲くからではない。

 ティリアが迎賓館の侍女達に磨き上げられて、ライルの目の前に現れるからだ。ちなみにライルの準備は、ティリアよりも随分早く終わっていた。黒を基調とした正装で貴公子然とした姿だ。

(驚くな。気絶もするな)

 心の中で何度となく呟く。ギルドメンバー達から散々「見る前に心構えをしておけ」と助言されたからだ。

 コンコン。

 1時間ほどが経つと、部屋のドアがノックされた。

「ライル様。入室してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」

(気合を入れろ!)

 ライルは入室を促してから深呼吸をする。

「失礼します」

 ドアが開いて2人の侍女が入室し、その後からゆっくりとティリアが現れる。

「!?」

 言葉が出なかった。眩暈をおこして少しふらついてしまったが、予期していた事でどうにか踏み止まる。

(なんと美しい)

 結い上げられた白銀の髪と白磁の肌には、青く上品なドレスがこの上なく似合っている。

 祖国でぞんざいな扱いをされていた頃のティリアは、本人との相性が悪い派手目のドレスを着せられていた。

 しかし今着ているドレスは、清楚なティリアの為に作られた、華美な主張をし過ぎないドレスだ。ライルが今まで見て来た中で、最も美しかった。

「さあティリア様。存分にお披露目くださいませ」

 そんなティリアは僅かに頬を赤く染め、アメジストの瞳でライルを見つめている。ライルがティリアから目が離せないように、ティリアもまたライルから目が離せないようだった。

「コホン」

 あまりにも長く無言が続いた為、侍女の一人がわざとらしく咳をする。

「ライル様。何か言う事はございませんか?」
「……」

 そう言われても、ライルは何も答えられない。

「淑女が着飾っております。紳士として一言あってしかるべきかと存じますが?」

 若い侍女とは言え、他国の要人を迎える事もある迎賓館の侍女だ。高位貴族の出身でもある彼女達は、叙爵前のライルに遠慮したりはしない。

「ライル様。何か言う事はございませんか?」

 進み出る侍女は、厳しい目をライルに向ける。「さっさと褒めろ」と言っているのだ。

「……ティリア様」

 以前のライルであれば尻込みしただろうが、様々な人間から散々後押しされてきた事により、何とか言葉を絞り出せた。

「と、とても良くお似合いです。月の女神が降臨なされたのかと、思ってしまいました」

 侍女達は満足気に微笑んだ。ライルの誉め言葉は及第点だったらしい。だが驚き過ぎたティリアは、大きく目を見開いて言葉を失っている。

「ティリア様?」

 ライルが顔を覗き込むように声を掛けると、ティリアは振り返って部屋から逃げようとした。

 ガシィッ!

「ふふふ。いけませんわティリア様」

 もう一人の侍女が、素早くティリアの手首を掴んだ。

「ライル様からお褒めの言葉を頂いたのですよ? であればティリア様も、相応のお言葉を返すべきではありませんか?」

 あわあわ言っているティリアは、侍女達から諭され宥められ促され、最終的には真っ赤になりながら「す、素敵よライル」と言わされた。
 ティリアから初めて容姿を褒められたライルは、天にも昇る気持ちだ。

 その後、侍女達から叙爵式での注意点などを聞いていると、やがて王城へ出発する時刻となった。館の外では王家の馬車と御者が待機している。

「ティリア様。お手をどうぞ」
「ええ」

 ライルがエスコートの為に手を伸ばすと、侍女が「お待ちください」と言って、ライルを制止した。

「ティリア様はライル様の婚約者と伺いましたが?」

 指摘されて二人はハッとした。

「館の中では咎めませんでしたが、これ以後はお気を付けくださいませ」

 経験豊富な侍女達は、ライルとティリアが偽装婚約である事など早い段階で見抜いている。

 ティリアが婚約者のフリをするのは、ライルに娘を紹介しようとする貴族達や、殺到するであろう貴族令嬢達からの求愛を躱す為だ。

 安易に「ティリア様」などと呼び掛ければ、婚約者ではない事実がすぐに露呈してしまうだろう。

「ティリア様。無礼な振る舞いとなってしまいますが、どうかお許しください」
「構わないわ」

 ライルは「それでは」と言って咳払いをする。

「い、行こうかティリア」
「は、はい」

 二人はギクシャクしながら、侍女と共に馬車へと乗り込んだ。

 △

 煌びやかな王城の大ホール。入場した二人を見て、周囲から大きなどよめきが起こった。「隣の令嬢は誰だ?」という疑問によるものだ。

 ライルには婚約者がいないという情報は広く知られていた。ゆえに有力な家や貴族令嬢達は、ライルの到着を今か今かと手ぐすね引いて待っていたのだが。ティリアを伴って現れるのは想定外だったのだろう。

「ほう? 其方がティリアか?」

 目敏いシーダ姫が、従者を引き連れてやって来た。ザンダーク王国の第3姫、シーダ・ルオン・ザンダーク5歳だ。

 金髪赤目で未来視の天啓を持っているが、5歳の魂では強大な天啓の力には耐えられない。

 なので本来のシーダ姫は異次元で眠りに就いている。目の前にいるシーダ姫は、シーダ姫と魂が入れ替わっている転魂の魔女だ。

「シーダ姫殿下。お初にお目に掛かります。私はティリアと申します」

 綺麗なカーテシ―を披露する。シーダ姫に関する事情はライルから聞いていたので、年齢不相応な様子を見てもティリアは動揺したりはしない。

 シーダ姫は「ふむ。これはまた美しい娘だな」と言ってニヤリと笑い、ライルにだけ聞こえる小声で呟いた。

「随分と魔物討伐に励んでおるようだなライル。ティリアの為か?」
「……」

 ライルが無言だったのは図星を突かれたからだ。ティリアに危害を及ぼしそうなものは、可及的速やかに排除しようと考えている。それを見透かされたライルは、どうにも居心地が悪かった。

「時渡りの魔女アリサからも、色々と報告を受けておるぞ? ティリアティリアと色ボケするのも大概にしておけよ?」
「……」

「おや? ティリアは黒の装飾品を身に着けていないようだが? まさか其方、自分の色の装飾品をティリアに贈らなかったのか?」
「……」

 ライルは言葉に詰まる。用意だけはしていたが、土壇場で怯んで贈れなかったのだ。

「くくっ。根性なしめ」
「……」
「魔物討伐よりは、宝石を渡す方が簡単だと思うがなぁ」
「……」

 散々揶揄って満足したシーダ姫は「また後でな」と言って去って行った。それからしばらくして、大ホールのざわめきが収まり静寂が訪れる。

「国王陛下並びに王妃殿下の御入場です」

 叙爵式が始まった。
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