73 / 77
73話 決戦に向けて
しおりを挟む
王宮医師と侍女にティリアを任せ、ライルは別室で魔女達との話し合いを行っている。
「――というのが、ティリア様の現状です」
「そっか。大変な事になったのね」
シーダ姫の転送魔法で召喚されたのは、時渡りの魔女アリサだ。腰まである長い黒髪を耳に掛け、テーブル上に置かれた紅茶を飲んでいる。
「アリサ。其方も存じておるだろうが、魔女の領分を超えての肩入れは許されんからな」
「分かってますよ先輩。私だって魔女歴長いんですから」
釘をさしているシーダ姫はアリサの上役だ。立場上、魔女達の教育を一手に任されている。
「本当に分かっておるのか? 余計な事をして事態をかき乱すのは、其方の性分だからなぁ」
「しませんってば。まぁ、ちょーっとは手助けしちゃうかもしれませんけどぉ」
「……あのなぁ」
「大丈夫ですって。グレーゾーンで勝負しますから。『黒』だと断定されるようなヘマはしませんよ」
呑気なアリサを見ながらシーダ姫は呆れている。だが気楽なアリサの態度に、ライルは多少なりとも心が救われた気がした。ライルから見る限り、アリサは今回の件に協力的だからだ。
「で、私は何を手伝えばいいんですか? まともな方法だと間に合わないのは分かりますけど」
「ふむ。やる事は至ってシンプルだ」
シーダ姫は目線をライルに向ける。
「俺が全ての瘴気を消滅させますから、シーダ姫殿下とアリサさんは、そのサポートをお願いします」
「全ての瘴気を消滅させる?」
アリサは唸る。
「間に合うの? 残り10日なんでしょ?」
「間に合わせます。たとえ俺の命に代えてでも、絶対にティリア様を救うつもりですから」
するとシーダ姫がライルを睨む。
「滅多な事を言うな。其方が死んでしまえば、ティリアは不幸な女として一生過ごす事になるぞ」
悲嘆に暮れるティリア姿が容易に想像出来てしまう。
「どのような結果になろうとも、其方は必ず生きねばならん。それを努々忘れるな」
「……はい」
シーダ姫はアリサに向き直り、前方に手をかざした。
「ではアリサ。これを見てくれ」
テーブル上に半透明の球体が現れる。立体ホログラムの世界地図だ。
「様々な条件を鑑みて話し合ったのだが、ここへ魔物共を集めて、決戦の地にしようと考えておる」
「島……ですか?」
「うむ」
立体ホログラム上の一点が点滅している。そこは大陸の北東に位置している巨大な島だった。
「不毛とも言える地で人も少ないからな。島民達をこの城に匿い、事が終われば金を握らせて帰島させればよかろう」
「この世界の人や魔物に対して強制転移魔法を使うんですか? それ、魔女の規約に触れますよね?」
「其方がそう思うのであれば、そうなのだろうな。わたしには規約に触れるようには見えんが?」
アリサは大袈裟に腕を振る。
「いやいや、かなりヤバイですって!」
「心配するな。グレーゾーンだ。それに、バレなければ良いと言ったのは其方だろう?」
シーダ姫は不敵に笑った。
「うわぁ。黒い笑みですね。そんなに肩入れしたくなる程、ティリアちゃんの事が気に入ったんですか?」
「まあな。それに、どうせなら二人には幸せになってもらった方が良いだろう? そう思わないか?」
アリサは驚いて右手を口に当てた。
「先輩がそんな事言うなんて……今日は隕石が降るかも」
「ははははは。面白い冗談だなアリサ。隕石など降るはずがなかろう」
「ですね。隕石降らせちゃったら規約に触れちゃいますもんね」
「うむ。それは流石に目立ち過ぎるからな」
「あはははは」
とんでもない会話を交わす魔女達の言葉を聞きながら、ライルは効率的な戦闘方法について考察していた。
それからしばらくしてシーダ姫が立ち上がる。
「では、やるか」
「そうですね」
「シーダ姫殿下、アリサさん。どうかよろしくお願いします」
ライルは深々と頭を下げた。
「ティリア様は、ようやく幸せになれるはずだったんです。不幸なまま終わっていいはずがない」
「え? ティリアちゃんは不幸だったの?」
ライルは痛まし気に話し出す。
「フローレンス公爵家に在籍されていた頃から、ティリア様は耐えるばかりの人生だったんです。家族や侍女達から蔑まれ、王太子は面倒事を押し付けてくるばかり。王太子妃教育も苛烈と言える程に厳しいものでした。ティリア様は相当にお辛かったと思います」
ライルは言葉に詰まりつつ呻く。
アリサは「ふーん」と言って、小首を傾げた。
「それでも私には、ティリアちゃんが不幸だったとは思えないけどね」
「そう……でしょうか?」
「こんなに心配してくれるライル君が身近にいたんだし、意外と満更でもなかったんじゃない?」
「満更でもない?」
「そうそう。そもそもこっちの国に来てから、彼女が悲しくて泣いてる姿を見た事ある?」
「……いえ。それはありませんでしたけど」
祖国では極稀にあったが、今ではそんな事はない。
「じゃあやっぱり、ティリアちゃんは幸せだったと思うわ」
アリサはニコリと笑う。そしてその日、シーダ姫とアリサの手によって、島民の一時避難が完了した。
「――というのが、ティリア様の現状です」
「そっか。大変な事になったのね」
シーダ姫の転送魔法で召喚されたのは、時渡りの魔女アリサだ。腰まである長い黒髪を耳に掛け、テーブル上に置かれた紅茶を飲んでいる。
「アリサ。其方も存じておるだろうが、魔女の領分を超えての肩入れは許されんからな」
「分かってますよ先輩。私だって魔女歴長いんですから」
釘をさしているシーダ姫はアリサの上役だ。立場上、魔女達の教育を一手に任されている。
「本当に分かっておるのか? 余計な事をして事態をかき乱すのは、其方の性分だからなぁ」
「しませんってば。まぁ、ちょーっとは手助けしちゃうかもしれませんけどぉ」
「……あのなぁ」
「大丈夫ですって。グレーゾーンで勝負しますから。『黒』だと断定されるようなヘマはしませんよ」
呑気なアリサを見ながらシーダ姫は呆れている。だが気楽なアリサの態度に、ライルは多少なりとも心が救われた気がした。ライルから見る限り、アリサは今回の件に協力的だからだ。
「で、私は何を手伝えばいいんですか? まともな方法だと間に合わないのは分かりますけど」
「ふむ。やる事は至ってシンプルだ」
シーダ姫は目線をライルに向ける。
「俺が全ての瘴気を消滅させますから、シーダ姫殿下とアリサさんは、そのサポートをお願いします」
「全ての瘴気を消滅させる?」
アリサは唸る。
「間に合うの? 残り10日なんでしょ?」
「間に合わせます。たとえ俺の命に代えてでも、絶対にティリア様を救うつもりですから」
するとシーダ姫がライルを睨む。
「滅多な事を言うな。其方が死んでしまえば、ティリアは不幸な女として一生過ごす事になるぞ」
悲嘆に暮れるティリア姿が容易に想像出来てしまう。
「どのような結果になろうとも、其方は必ず生きねばならん。それを努々忘れるな」
「……はい」
シーダ姫はアリサに向き直り、前方に手をかざした。
「ではアリサ。これを見てくれ」
テーブル上に半透明の球体が現れる。立体ホログラムの世界地図だ。
「様々な条件を鑑みて話し合ったのだが、ここへ魔物共を集めて、決戦の地にしようと考えておる」
「島……ですか?」
「うむ」
立体ホログラム上の一点が点滅している。そこは大陸の北東に位置している巨大な島だった。
「不毛とも言える地で人も少ないからな。島民達をこの城に匿い、事が終われば金を握らせて帰島させればよかろう」
「この世界の人や魔物に対して強制転移魔法を使うんですか? それ、魔女の規約に触れますよね?」
「其方がそう思うのであれば、そうなのだろうな。わたしには規約に触れるようには見えんが?」
アリサは大袈裟に腕を振る。
「いやいや、かなりヤバイですって!」
「心配するな。グレーゾーンだ。それに、バレなければ良いと言ったのは其方だろう?」
シーダ姫は不敵に笑った。
「うわぁ。黒い笑みですね。そんなに肩入れしたくなる程、ティリアちゃんの事が気に入ったんですか?」
「まあな。それに、どうせなら二人には幸せになってもらった方が良いだろう? そう思わないか?」
アリサは驚いて右手を口に当てた。
「先輩がそんな事言うなんて……今日は隕石が降るかも」
「ははははは。面白い冗談だなアリサ。隕石など降るはずがなかろう」
「ですね。隕石降らせちゃったら規約に触れちゃいますもんね」
「うむ。それは流石に目立ち過ぎるからな」
「あはははは」
とんでもない会話を交わす魔女達の言葉を聞きながら、ライルは効率的な戦闘方法について考察していた。
それからしばらくしてシーダ姫が立ち上がる。
「では、やるか」
「そうですね」
「シーダ姫殿下、アリサさん。どうかよろしくお願いします」
ライルは深々と頭を下げた。
「ティリア様は、ようやく幸せになれるはずだったんです。不幸なまま終わっていいはずがない」
「え? ティリアちゃんは不幸だったの?」
ライルは痛まし気に話し出す。
「フローレンス公爵家に在籍されていた頃から、ティリア様は耐えるばかりの人生だったんです。家族や侍女達から蔑まれ、王太子は面倒事を押し付けてくるばかり。王太子妃教育も苛烈と言える程に厳しいものでした。ティリア様は相当にお辛かったと思います」
ライルは言葉に詰まりつつ呻く。
アリサは「ふーん」と言って、小首を傾げた。
「それでも私には、ティリアちゃんが不幸だったとは思えないけどね」
「そう……でしょうか?」
「こんなに心配してくれるライル君が身近にいたんだし、意外と満更でもなかったんじゃない?」
「満更でもない?」
「そうそう。そもそもこっちの国に来てから、彼女が悲しくて泣いてる姿を見た事ある?」
「……いえ。それはありませんでしたけど」
祖国では極稀にあったが、今ではそんな事はない。
「じゃあやっぱり、ティリアちゃんは幸せだったと思うわ」
アリサはニコリと笑う。そしてその日、シーダ姫とアリサの手によって、島民の一時避難が完了した。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~
阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」
婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。
けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。
セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。
「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。
――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる