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37話 その力で見つけたモノ
しおりを挟む「ヒスキさん!?」
「兄貴様、大丈夫!?」
「あ、ああ……問題ない」
湖から這い上がった俺は、心配してくるお嬢たちに呆然と答えた。
自分の前脚を見る。すでに水滴は乾いていた。
濡れてもすぐに乾く身体――以前、溺れかけたお嬢を助けたときも同じだった。
しかしまさか、この特性があっても泳げないとは思わなかった。
まったく身体が水に浮かなかったのだ。
半裸状態の舎弟が俺を抱き上げる。
「びっくりしたよー。兄貴様、いきなり『がぼがぼがぼ』って沈んだっきり、浮いてこないんだもの。あたし、もう少しで助けに飛び込むところだった」
「すまん。それはそうと服は着ろ、イティス」
「兄貴様、水から上がってすぐなのに、もうもふもふー」
「聞けや」
「ヒスキさん、泳げなかったの? 出会って最初の頃、川から助けてくれたから、私てっきり……」
「すんません。実は自分でも驚いていまして」
お嬢の言葉に、気まずさを隠せない俺。
ちなみに言っておくが、生前の俺は別にカナヅチでも何でもなかった。むしろ泳ぐのは好きだ。ヤクザの刺青のせいでプール施設へ入れず、密かにやきもきしたくらいである。
そのとき、ポン刀聖女が声を上げた。
『でもさすがご主人。水中で普通に呼吸されてましたよね?』
「え!? そうなの兄貴様!?」
「そういえばそうだったな。すぐに戻ったから意識してなかったが、確かに地上にいたときとあまり違いはなかった。息苦しさもなかったし」
「す、すごいですヒスキさん。さすが神獣」
感心して目を丸くするお嬢と舎弟。
正直、ありがたくない。事態打開がより遠くなったことに変わりないからだ。
さて、どうやって図書館までたどり着くか。
水中呼吸ができるなら水底を歩いて渡る方法もあるが、このずどんと落ち込んだ水深を考えると、無事に這い上がってこられるかわからない。
何か別の方法はないか。
俺は改めて辺りを見回した。
湖のほとりに生えているセボトルの一本に近づき、【カシワブラッド】を発動。にょきにょきと伸びてきた枝を撚り合わせ、大図書館目がけて放つ。
何とか向こうまで到達させて、樹の橋を作れないかという算段だった。
途中までは順調に枝を伸ばすことができた。ところが、中間地点あたりから伸びが悪くなる。
そこからさらに数メートル進んだところで、ついに枝は伸びなくなってしまった。
「ち……。イッヌの身体じゃあこれが限界か」
『ちょっと待ってください』
ふいにポン刀聖女が真剣な声を上げた。
『今……ご主人の枝が何かに阻まれたように見えました。ほら、枝の先端。微かに光が散ってます』
「んー、どこぉ?」
イティスが目を細めて枝の先を見据える。お嬢も同様に手で庇を作るが、やはりはっきりとは視認できないようだ。
一方の俺。イッヌとしての特徴なのか、シーカの言う現象が理解できた。枝の先端で、何かがチカチカときらめいているのだ。くっきりはっきり見える――というよりは、ソレが動いている様子がわかると言った方が正しいか。
さらには、【カシワブラッド】を通じて、何となく感じるのだ。
伸ばした枝が、何かに遮られて進めなくなっていると。
「まさか、結界なのか? あの廃教会と同じような……」
『きっとそうですよ、ご主人!』
応えるシーカの声に、期待と興奮が混じる。
『たとえ弱くとも結界が生きているなら、図書館の機能がまだ存続している証。ご主人! これは何としてでも、大図書館に入るべきです!』
「そうだな」
俺は頷く。
問題はどうやってあそこまでたどり着くか。そして、泳げないお嬢や、諸々の荷物をどうやって運び込むか――だ。
「やっぱりあたしが」と言って再び服を脱ごうとする舎弟を遮り、俺は言った。
「ひとつ、やってみたいことがある」
『やってみたいこと?』
「シーカ。元々ここは巨大な街だったんだろ? もしかしたら街の痕跡が湖の底に残っているかもしれない。何か使えるモンがあれば、それを取ってくるんだ」
湖に歩み寄る。
「もう一度潜って、水底の様子を探ってくる。俺の身体なら、それができるはずだ。イティスが泳いで向かうのはその後。いいな?」
「う、うん。兄貴様がそう言うなら」
「よし。じゃあここで待ってろ。ではお嬢、もう一度行ってきます。何かあれば、シーカの奴を寄越しますんで」
「何かあってからじゃ困るよ。だから必ず帰ってきてね」
「承知しました。行くぞポン刀聖女」
俺はシーカを身にまとい、再び湖に身を投げ出した。
入水による細かな水泡が晴れると、視界は一気に開けた。マジでとんでもない透明度だ。
水の冷たさは感じるものの、体温が奪われて凍えるほどじゃない。どういう理屈か知らないが、普通に呼吸もできる。
水中独特の静けさの中、時折こつん、こつんと音がする。わずかな水の流れで石か何かがぶつかる様子だろう。イッヌとしての聴覚は健在だった。
これなら、いざというときソナー代わりに使えそうだ。
慎重に歩を進める。水底は細かな砂利と土で覆われており、上を歩くとふわりと土砂が舞い上がった。
緩やかな下り斜面を降りていく。しばらく進むと、一気に水深が深くなっている場所に行き着いた。
陽光が届きにくく、先は薄暗い。しかし、暗視に長けた俺の目は、その先に広がるモノを視界に捉えた。
(あれは……)
『すごい。こんなにたくさん』
俺の目を通してポン刀聖女も同じモノを見たのか、感嘆の声を漏らす。
水底に広がっていたのは、無数の葉っぱだった。
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