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45話 ジリ貧な彼らに向けて
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とにかく、これほどヤル気がない連中とは思わなかった。確かに修行どころではない。
「おい、そこの。俺らをお前らのボスのとこまで案内せえ」
試しにヤクザ口調で声をかけてみるも、やはり反応なし。それどころか、お嬢のときよりも塩対応である。
まいったな。こいつら、まったく役に立たない。
というか、こんな状況だったら、外から侵略されたらひとたまりもないんじゃないか? 現に俺たちの侵入を易々と許してるわけだし。ガバい。ガバすぎる。
こんなんじゃ、破滅までジリ貧じゃねえか。
お嬢の貴重な修行の場が、そんないい加減な態度じゃ困る。せっかくお嬢が腹を括ったのに。
「おいブロンテン。こいつらほっといて、俺たちだけで修行は進められないのか?」
『難しいですねぇ。大図書館の機能維持は司書たちが担っていますので』
「てめぇは元館長だろ。何とかできないのか」
『元館長ですしあはは』
「この野郎」
この軽口がムカつく。
仕方ない。とりあえず見せしめにブロンテンでもシバいて、周りの幽霊どもに活を入れるか――そんな風に考えたときである。
ふと、お嬢が前に進み出た。
すでにエントランスには10人ほどの司書幽霊たちが漂っている。そいつらに向けて、お嬢は意を決したように『歌い出した』。
涼やかで透き通る声。お嬢の村で村人どもを正気に戻したお嬢の歌声は、間違いなく特別な力を秘めている。
今回も、それが証明された。
さっきまで漂うばかりだった幽霊たちが、我に返ったようにお嬢をいっせいに振り返ったのだ。
お嬢はさらに一歩前に踏み出し、胸襟を広げるように両手を左右に伸ばして歌い続ける。
俺は思いだした。お嬢の歌声はASMR。この世界の象徴そのもの。
ジリ貧で滅び行くあいつらに、再びこの世界で生きるための活力を与えられるのではないか。
お嬢もきっと、自らの歌と声の力を信じたのだ。
最初に出会ったときは、あんなにご自身の声に自信を持てずにいらっしゃったのに。ご成長成された。
感慨深い。
女性幽霊のひとりがゆっくりとお嬢に近づいていく。そいつの目には、さっきまでなかった意思の光が宿っていた。
お嬢も手を差し伸べる。
だが。
お互いの手が触れ合う直前、お嬢は歌うのをやめてしまった。何度か咳き込みながら、その場にへたり込む。
「お嬢!」
「ケルア!」
俺とイティスが駆け寄って介抱する。
お嬢は「大丈夫」と小さく笑みを見せたが、額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「村のときみたいにできるかなと思ったんだけど……ちょっとしんどいね」
「お嬢。ご無理をなさらないでくだせえ」
「うん。ありがと。……でも悔しいな。まだぜんぜん力が足りないや」
お嬢は唇を噛む。
隣でお嬢を支えながら俺は考える。村と大図書館、何が違う? 村のときはここまで消耗していなかったのに。
『おお……これは素晴らしい……!』
「ブロンテン。感心してないで、心当たりがあるなら説明しろ」
『先ほどの歌声は、間違いなく聖女の力が発現していました。大図書館の皆、その力を受けて一時的に正気に戻ったようですな。けど、一度にこれだけたくさんの人間――今は幽霊ですが、彼らに力を与えたことで、お嬢ちゃんの体力の方が音を上げたのでしょう』
「おらお前ら! タダでお嬢の歌声を聞くとは、どういう了見だ!? 払うモン払ってもらおうか!? ああ!?」
「兄貴様。たぶんそれ言ってもダメだと思うな。あたし」
珍しくイティスの冷静なツッコミに、俺は口を閉ざした。
しかし、大図書館を動かすヒントは見つかったようだ。
お嬢の歌声である。
「おい、そこの。俺らをお前らのボスのとこまで案内せえ」
試しにヤクザ口調で声をかけてみるも、やはり反応なし。それどころか、お嬢のときよりも塩対応である。
まいったな。こいつら、まったく役に立たない。
というか、こんな状況だったら、外から侵略されたらひとたまりもないんじゃないか? 現に俺たちの侵入を易々と許してるわけだし。ガバい。ガバすぎる。
こんなんじゃ、破滅までジリ貧じゃねえか。
お嬢の貴重な修行の場が、そんないい加減な態度じゃ困る。せっかくお嬢が腹を括ったのに。
「おいブロンテン。こいつらほっといて、俺たちだけで修行は進められないのか?」
『難しいですねぇ。大図書館の機能維持は司書たちが担っていますので』
「てめぇは元館長だろ。何とかできないのか」
『元館長ですしあはは』
「この野郎」
この軽口がムカつく。
仕方ない。とりあえず見せしめにブロンテンでもシバいて、周りの幽霊どもに活を入れるか――そんな風に考えたときである。
ふと、お嬢が前に進み出た。
すでにエントランスには10人ほどの司書幽霊たちが漂っている。そいつらに向けて、お嬢は意を決したように『歌い出した』。
涼やかで透き通る声。お嬢の村で村人どもを正気に戻したお嬢の歌声は、間違いなく特別な力を秘めている。
今回も、それが証明された。
さっきまで漂うばかりだった幽霊たちが、我に返ったようにお嬢をいっせいに振り返ったのだ。
お嬢はさらに一歩前に踏み出し、胸襟を広げるように両手を左右に伸ばして歌い続ける。
俺は思いだした。お嬢の歌声はASMR。この世界の象徴そのもの。
ジリ貧で滅び行くあいつらに、再びこの世界で生きるための活力を与えられるのではないか。
お嬢もきっと、自らの歌と声の力を信じたのだ。
最初に出会ったときは、あんなにご自身の声に自信を持てずにいらっしゃったのに。ご成長成された。
感慨深い。
女性幽霊のひとりがゆっくりとお嬢に近づいていく。そいつの目には、さっきまでなかった意思の光が宿っていた。
お嬢も手を差し伸べる。
だが。
お互いの手が触れ合う直前、お嬢は歌うのをやめてしまった。何度か咳き込みながら、その場にへたり込む。
「お嬢!」
「ケルア!」
俺とイティスが駆け寄って介抱する。
お嬢は「大丈夫」と小さく笑みを見せたが、額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「村のときみたいにできるかなと思ったんだけど……ちょっとしんどいね」
「お嬢。ご無理をなさらないでくだせえ」
「うん。ありがと。……でも悔しいな。まだぜんぜん力が足りないや」
お嬢は唇を噛む。
隣でお嬢を支えながら俺は考える。村と大図書館、何が違う? 村のときはここまで消耗していなかったのに。
『おお……これは素晴らしい……!』
「ブロンテン。感心してないで、心当たりがあるなら説明しろ」
『先ほどの歌声は、間違いなく聖女の力が発現していました。大図書館の皆、その力を受けて一時的に正気に戻ったようですな。けど、一度にこれだけたくさんの人間――今は幽霊ですが、彼らに力を与えたことで、お嬢ちゃんの体力の方が音を上げたのでしょう』
「おらお前ら! タダでお嬢の歌声を聞くとは、どういう了見だ!? 払うモン払ってもらおうか!? ああ!?」
「兄貴様。たぶんそれ言ってもダメだと思うな。あたし」
珍しくイティスの冷静なツッコミに、俺は口を閉ざした。
しかし、大図書館を動かすヒントは見つかったようだ。
お嬢の歌声である。
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