46 / 94
46話 聖女の部屋
しおりを挟むお嬢の歌声は、こいつらを動かす力になる。
けど現状は、身体が上手くついていっていないのだろう。
聖女が声によってオークどもを鎮めるのなら、そのための技術や訓練プランも大図書館には残されているはずだ。
「まあ、それよりもまずは」
へたり込んで大きく息をつくお嬢に寄り添いながら、俺はブロンテンに言った。
「おいブロンテン。お嬢を一度休ませたい。適当な部屋はあるか」
『そうですねえ。今なら職員用宿舎か当直室が空いてると思いますよ。何せ皆幽霊ですし』
「当直室なんてところでお嬢を雑魚寝させられるか。ちゃんとした部屋を用意しろ。なければ自分らで探す」
「ヒ、ヒスキさん。そこまでしなくても」
お嬢が慌てるが、さっきの歌で予想外に疲労してしまったのか声に力がない。
イティスに声をかけ、お嬢を支えさせる。
『ご主人。本職の聖女が使っていた部屋があるはずですよ。大図書館の見取り図が変わっていなければ、アタシ、案内できると思います』
「それはいい。頼む」
『はい。それでは』
俺の体側にくっついていたポン刀が光を放つ。直後、腰まであるロングヘアーの少女に姿を変えた。そういえば、シーカはもともとこんな姿だったな。
『こっちの姿の方が案内しやすそうなので』
先導して歩き出すシーカ。その彼女の後ろ姿を、ブロンテンが腕組みしながら見つめている。
『ふむ……』
「おいどうした。突っ立ってないで行くぞ」
『ああ失礼。あの女性のお姿、どこかで見たような』
「あいつはシーカ。元聖女だったって話だ。粗相をやらかして追放されたと聞いてる」
『おお! そういえば、伝説的な聖女様にそのようなお方がいらっしゃったと聞いたことがあります! 何でも究極の女たらしだったとか!』
「おい言われてるぞ」
『……いいのですご主人。これはアタシが背負わなければならない業……』
『実際は思ったより幼い方だったのですねー。まあ、僕の守備範囲からは飛び出していますので関係ありませんが。ご安心を』
『ご主人。案内の前にこのヒトぶった切っていいですか? 聖剣の錆にしてくれます』
「やめとけ。ばっちい」
『わんちゃん、汚物扱いはひどいですな……』
そんな馬鹿話をしながら図書館内を歩く。
エントランスの1階左側奥にある扉から別棟へ向かう。
さすが由緒ある図書館だけあって、中の空気は独特だ。紙の匂いという奴だろうか。考えてみれば、ずっと長い時間書物がそのままで置かれているのも不思議だ。もしかしたら、ここの幽霊たちは自らの生命力と引き換えに、本の寿命を延ばしているのかもしれない。
毛の長い絨毯が敷き詰められたフロアに出た。見るからに貴人用の空間である。
等間隔に並ぶ扉は重々しく、趣が感じられる。
そのうちのひとつのまえにシーカは立った。
『ここでどうでしょう? 角部屋で日当たりもいいと思います』
「問題なさそうだな。イティス、開けてくれ」
うん、と頷いたイティスが扉の取っ手を握る。しかし、いくら回しても動かしても扉が開かなかった。イティスが困り顔をした。
「兄貴様。この扉、何か変だよ。鍵がかかってる様子がないのに、手応えがないんだ」
『魔法の封印がかかっているんでしょうか?』
シーカも隣で腕組みをする。ほぼほぼ霊体と同様な彼女は手出しできないらしい。
ブロンテンは相変わらず役に立ちそうにない。
仕方ない、【カシワブラッド】の力で無理矢理植物に凸させようかと考える俺。
そのとき、お嬢が扉にそっと手を当てた。そして、囁くようにアカペラを歌う。
すると、水を張ったガラスを叩くような音がして、扉がひとりでに開いた。
「おお!」
「……ここって聖女様のお部屋だったんでしょ? だったら、ここも歌で開くかなって」
「素晴らしいことです、お嬢。さすがです」
『ケルア嬢の声は相変わらず極上です……ぐひゅひゅ』
「元聖女は反省しろ」
『思わぬ飛び火。返す言葉もありません』
しゅんとするポン刀聖女を尻目に、俺たちは部屋の中へと入った。
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる