53 / 94
53話 半人半霊の役割
しおりを挟む「ごめんなさいね。急に取り乱したりして」
しばらくして落ち着きを取り戻したレフテ――ファンマの母親は、俺に頭を下げた。
俺がただのイッヌじゃない神獣であることも理解してくれたようだ。他の連中とは明らかに違う。話が通じるのは非常に助かる。
「あんたはここの幽霊たちとは違って、普通に人間なんだな」
「いえ、そういわけでもありませんよ」
ファンマとよく似た怜悧な目が俺を見つめる。
「今の私は半分人間、半分幽霊と言えます。その証拠に、先ほどはエネルギー切れで倒れておりました」
「普通に腹が減ったとか喉が渇いたとかじゃねえのか」
「そういった行為をしなくてよいのは、この身体の利点です。力が続く限り、いつまでも調べ物ができる。本が読める」
そこそこキまった目で断言された。何となく三徹した絵描きくらいの迫力がある。舎弟にいたんだよな、実際にそういう奴。さすがの俺も「寝ろ」と言った。
それはともかく。
「何でお前さんだけそんな中途半端な存在なんだよ」
「このアル・パストラ大図書館の機能を維持するための鍵となっているためです」
レフテは壁に並んだ無数の本を見渡した。
「大図書館を長期間にわたって守っていくには、必要最低限の力に抑える必要がある。だからここの者たちは肉体を本に封印し、霊体のみとなって存在しています。ですが、全員が霊体化してしまえば、元に戻る術がなくなってしまう。ゆえに、私は管理者として、人の肉体を保っているのです。本は、『開く人の手』が必要ですから」
「なるほど。わかったような、わからないような……だな」
「私にもわからないことがあります。あなたはいったい、何者なのですか?」
レフテは立ち上がると、館長席と思われる豪奢な机に向かう。そこに積んである本の一冊を手に取り、パラパラとめくった。
「私の知る限り、あなたのような力を持った存在はいません。それだけじゃない。あなたの言葉で私はエネルギーを取り戻しました。本の力を活性化させたのです。いったいどうやって?」
「俺だって知らない。だが、そんなことは俺にとってどうでもいいんだ」
俺の台詞にレフテは不満そうな顔をする。
しかし構わず、俺は言った。
「俺が求めるのはただひとつ。お嬢に相応しい環境を用意させることだ。お嬢は聖女となるに相応しいお方。そのための修行に最適だから、わざわざ遠いところから歩いて来てやったんだ。収穫がないとやってられないんだよ」
「確かに、我が大図書館は聖女様の育成も重要なお仕事。娘のファンマも、もともとは聖女様のお手伝いをするために鍛錬を重ねた子です。……それで、今その方はどちらに?」
「別棟の聖女の部屋でお休みになられている。回復次第、すぐにでも修行を始められるようにしてもらいたい。それが俺の願いだ。さっきの話を聞く限り、あんたならそれが可能なんだろ? レフテさんよ。何たってここの管理者なんだからな」
すると、レフテは目を伏せた。
「私や娘を目覚めさせてくれた礼として是非に――と言いたいところですが。我々はどうやら長く休眠しすぎたようです。大図書館の機能を完全に取り戻すには、私にも本にも力が足りない。まさか私まであんな無様な姿で倒れ伏すとは……」
「来るか来ないか分からない敵にビビりすぎたツケだ」
「返す言葉もないですね……」
「で? どうすりゃお前ら全員に活を入れられるんだ」
俺が尋ねると、しばらくレフテは考え込む。
そしておもむろに、本棚の一角に歩み寄った。レフテが手をかざすと、重厚な音と共に本棚が左右に分かれる。おいおい隠し部屋かよ。ちょっと滾るじゃねえか。
「この奥に特別な書庫があります。ここの本たちを活性化させることができれば、大図書館全体を復活させるエネルギーが得られるかもしれません」
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる