神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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54話 身内の恥

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「すげぇ……隠し部屋かよ」
「あの、神獣殿」

 開かれた空間に入ろうとしたとき、レフテが呼び止めた。

「あなたは前館長のブロンテンを知っているのですか?」
「知っているも何も、俺たちを中まで案内した男だ。不本意だがな」
「あの男がそんなことを……」
「うちの大事なお嬢に変態な目を向けるのは断固として許せん。タコオークになって襲ってきた野郎だしな」
「……彼を旧都市に封印したのは私です。あの男、アル・パストラ大図書館の未来を決める大事な時期に、『これからは若者の時代だ!』とか言って、規則より大幅に小さな子を集めようとして」
「職権濫用も甚だしいな。あんた正解だよ、あいつ封印したの」
「親戚として恥ずかしい限りです」
「親戚だったのか!?」

 悲痛な表情で頷くレフテ。振り返るとファンマもどこか嫌そうな表情をしている。ブロンテンの前では平気そうな顔を作っていたのか。俺は思わず同情した。

「だがまあ、奴がいなければ大図書館に入る前に立ち往生していたかもしれん。今のところそれ以上の害はなさそうだし、そのままにしている。ヤバいそぶりを見せたら、うちの聖女が一刀両断にする手はずだ」
「聖女? 聖女がいるのですか?」
「ずーっと昔のことだそうだがな。覚えがないか? シーカっていう。ブロンテンと似て、かわいいモノとかわいい声に目がないなかなかの変態だ」

 ポン刀聖女本人は『一緒にしないで下さい』と言いそうだが。
 すると、レフテは顎に手を当て考え込んだ。

「微かに……どこかの記録で見た覚えがありますね。聖女の中でもとりわけ特異な性格で、強大な力を持っていながら辺境に飛ばされた者がいると。しかし、それはもう100年以上も前の話。この大図書館が現在のように悠久の時を漂うようになる、さらに前の人物のはず」
「やっぱりか。まあ、あいつが封印されていた教会も、すっかり廃墟と化していたしなあ」
「何か、大きく動き出そうとしているようですね。我々がこのタイミングであなたと出会ったのも、運命なのかも知れません」
「だったら、その運命とやらに十分感謝して、お嬢のために働いて貰わないとな」

 俺はそう言って、隠し部屋の中に入っていく。俺の後ろにはファンマが続いた。相変わらずデカイ本を背負ったままだ。
 レフテも後を追いかけようとして、立ち止まる。自らの手を見て、表情を曇らせた。

「どうした、館長さんよ」
「……想像以上に、衰弱が激しいようです。今の私では、この部屋から動くのは難しい」
「おいおい。あんたが頼りなんだぜ。あの書庫でどうやって本を活性化しろっていうんだよ」
「仕方ありません。ファンマ」

 娘を呼ぶ。
 レフテが手を大きく動かすと、本棚や空中に浮かぶ本たちの中から、数冊の本が飛んでくる。
 ファンマの周りをゆっくりと回り始めた。何かちょっとカッコいい。

「この先で役に立ちそうな本を託します。あなたが代わりに、神獣殿を支えなさい」
『わかった、母様』
「神獣殿。あまり無理はなさいませぬよう。本との付き合いは、一朝一夕にはなりません」
「ま、いざとなったら引き返せってことか」
「それから」

 真剣な表情でレフテが言う。

「くれぐれも本をカジカジしたり、おしっこかけたりしないように」
「するか!!」

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