神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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61話 制裁の理由

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 するとシーカが身じろぎしながら目を覚ました。掲げた聖剣を一切ブレさせないでいる点は認めてやろう。
 というか、お前その姿でも眠るのな。

『あ、ご主人。お帰りなさい。館長さんとお話はできましたか?』
「ああ。それなりに収穫もあった。それよりシーカ、この状況はどういうことだ」
『制裁です』

 にっこり口だけ笑って答えるポン刀聖女。なかなかキまった面構えである。

『推しへの不必要な接触、接近は御法度。それなのに、この変態さんは眠っているケルア嬢やイティス嬢の顔を至近距離からジロジロ眺めてました』
「ほう」
『さらに、おこがましいことに子守歌と称して身体接触を計ろうとしたので、こう……こうっ!』
『あがが。シーカちゃん。僕は霊体だから痛みはないけど、腹をぐりぐり抉られる感覚は気持ち悪いからやめてくれないかな?』
「ぬるい。やれシーカ」
『こう、こう、こうっ!!』
『あばばば』

 聖剣をぐりぐりねじって折檻を加えるポン刀聖女に、空中で悶える変態前館長。
 まったくしぶとい。こいつ早く成仏しないだろうか。

『神獣様。シーカ様は本当に聖女様?』
「そういえば怪しくなってきたな」
『ご主人。それはひどいです。アタシとご主人は一蓮托生、同じ志を持った同志じゃないですかぁ!』

 ぐりぐりしながら涙目になるシーカ。
 お嬢には決してポン刀聖女を見習わないように言っておこう。

「ん……」

 ふとお嬢がベッドの中で身じろぎする。
 俺たちは慌てて口を閉ざした。
 幸い、まだ眠りの中のようだ。横向きに寝返りをうったお嬢のお顔が、こちらを向く。
 生前、別荘の病床でずっと見つめてきた寝顔だ。俺は懐かしい気持ちになると同時に、少し心配になった。

 故郷の村を出てから何度も夜を越してきた。その度にお嬢の寝顔を見守ってきたのだが、今日のお顔は、いつもよりも険しいように見えたのだ。
 お嬢の背中にくっついているイティスは、幸せそうに涎を垂らしながら爆睡しているというのに。何だか無性に腹が立ってきたな。こいつ、俺の【カシワブラッド】で引き剥がしてやろうか。

『ところでご主人。ファンマ嬢が持ってる――というか浮いてる本は、いったい何なんです? すごい数ですけど』

 シーカが小声で尋ねてきた。

『これ全部、聖女の訓練本ですか?』
「いや。これは館長室の奥の書庫に保管されていた本だ。レフテ――ファンマの母親で現館長の許可を得て持ってきた。こいつが大図書館を目覚めさせるカギになるはずだ」
『カギ?』
『物語、だよ』

 ファンマの言葉に、さらに首を傾げるシーカ。
 ブロンテンが憎々しげに呟いた。

『おのれあの女狐め。僕を水没都市に蹴落としただけでなく、まんまとわんちゃんに取り入るとは。世界の小さ可愛い子に唾を吐きかける卑怯な所業』
「なあシーカ。聖女の訓練にこいつを欠片残さず消し去ることを取り入れてみたらどうだ? 聖女の本領なんだろ。邪悪を取り除くこと」
『とてもよい考えだと思います。さすがご主人。アタシの同志』
『もういっぺんくたばれと言われてる? 僕?』
「ネームドエネミーになれるだけありがたく思え」

 意味は伝わっていないだろうが、意図は伝わったようでブロンテンは青くなっていた。そのまま黙っているがいい。

 さて、とりあえず。

「すべてはお嬢が元気になってから。今はぐっすり休んでいただかなければならない。そのために」

 俺はファンマが保管する本のひとつを咥えた。
 前脚を上手く使って本を開く。

「こいつの持つ『音』を使おう」
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