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60話 語り手はひとりじゃない
しおりを挟むとにかく。
レフテの力を借りれば、俺が本を活性化させることができることがわかった。
あとはこれを一冊でも多く増やしていけばいい。
問題は、膨大な蔵書すべてで同じようにやっていては、時間がいくらあっても足りないこと。
『どうするの』
――館長室を出た俺とファンマは、いったんお嬢たちが休む聖女の部屋へと向かっていた。
力を少し補充できたレフテから、館長室にある本も何冊か託されている。それらすべて、ファンマの周囲をゆっくりと回っている。
まるでファン○ルだ。すげぇ便利である。
ファンマが聞いてきたのは、どうやって大図書館すべての本を活性化させるかということ。
俺は言った。
「ひとりでやろうとするから首が回らなくなるんだ。だったら、他の連中の力を借りればいい」
『他の?』
「物語を紡ぐ行為は、何も俺だけの専売特許じゃない。聞こえてきた音、イメージした姿を、そのまま素直に口にする。それだけでも十分物語になると俺は思っている」
『そっか。犬でもできるから』
「おいコラ無表情メイド。鈍器本ファン○ラーめ。てめぇ俺に喧嘩売ってんのか? あ?」
『喧嘩。したことない。どんなの?』
「……チッ。まあいい、忘れろ」
『虫の音……』
「いいからそっちも忘れろ。いい加減思い出させんな」
ため息をついてから、ファンマに言う。
「誰でも物語を作れるってことは、当然、お前も対象だ。ファンマ。お前の声もネタも頼りにしているんだ、こっちはよ」
『じゃあ虫……』
「お前、もしかして意外と根に持ってる?」
無表情だからいまいち感情が読めない。
じっと奴の顔を見上げていると、微かに笑ったように見えた。
背中に背負った巨大本や、異空間書庫の本を活性化させたことで、ファンマの感情や表情が少しずつ戻っている証だ。
正直言って、ファンマは貴重な人材だ。
この大図書館の幽霊司書たちは、ほとんどが意思疎通が不可能なほど腑抜けになってしまっている。こんな連中に物語を作る芸当などできるわけがない。
何気に便利な書籍運搬能力といい、今は手元に置いておきたい奴である。
虫好きは勘弁して欲しいが。
お嬢の部屋まで戻ってくる。
一度解除された封印はそのままなのか、ファンマがドアノブに手をかけるとすんなりと開いた。
「お嬢。戻りました」
足音と声を殺しながらそっと中に入る。
ベッドを見ると、お嬢とイティスは相変わらず寄り添い合って、安らかな寝息を立てていた。
ベッドの傍らでは、シーカがベッドサイドに背を預け、同じくうつらうつらしていた。ただ、片手を天井に高く向けたままだ。
で、ブロンテンは宙に浮かんでだらんと四肢を垂れ下げていた。
シーカが手にした聖剣がブロンテンを串刺しにしている。おおかた、お嬢に粗相をしようとした変態に天誅を下そうとしたのだろう。
ブロンテンがむくりと顔を上げた。
『む。わんちゃん、ファンマちゃん。お帰りなさい』
「チッ」
『この状況を見て舌打ち?』
せっかく鬱陶しい野郎が成仏するかと思ったのに。
詰めが甘いぞポン刀聖女。それでも俺の懐刀か。
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