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73話 眠りの意味
しおりを挟む突然寝落ちしやがったこの半人前舎弟。
俺が呆れていると、お嬢がイティスの肩を揺する。
「イティス。イティス。こんなところで寝たら風邪引くよ」
「……くー……くー」
「イティスってば!」
かなり強めに揺り動かすが、イティスの奴は起きない。かなり深い眠りに入っているようだ。
……いや、それにしたって熟睡しすぎじゃないか?
一度寝たらテコでも起きないような奴だったか、こいつ。少なくともこれまでの旅だと、そんなことはなかったように思うが。
だんだんとお嬢の顔が不安げになっていく。
「ヒスキさん。どうしよう。イティスが起きない。何かあったのかな? どうしよう」
「落ち着いて下さい、お嬢。少なくとも、命が取られたわけじゃありません」
俺はお嬢を宥めた。
隣を見ると、ポン刀聖女と変態元館長がじっとイティスの寝顔を見ている。こいつら、またイティスの寝顔のかわいらしさにトリップしてやがるな――と思っていたのだが、存外、真面目な顔をしている。
『ご主人。イティス嬢はもしかしたら、ただ眠っているだけじゃないのかもしれません』
「なんだと?」
『この感じ、ちょっと似てるんだよねえ。僕もこれまで数えるほどしか見たことないんだけどさ』
ブロンテンがもったいぶる。
奴が言うには、これは『夢業』というらしい。アル・パストラ大図書館の修行形態のひとつだ。
何でも、本の力を借りることで、夢の中で様々な訓練や勉強ができるようになるのだという。夢の中は経験値が圧縮され、通常よりも効率良く身につけることができるのだとか。
何だよその創作意欲をかきたてる設定は。
俺も若ぇ頃ならやってみたかったぞ。
俺は、この中で一番修行に詳しそうな奴に聞いてみた。
「シーカ。その夢業ってのは例えばどんなことをやるんだ?」
『……。ん?』
「ん?じゃねえ。お前曲がりなりにも聖女だったんだろ。こういう修行は経験があるんじゃないのか」
『いやぁ。罰として夢の中で折檻されたり埋められたりというのはあったんですが、修行となるとどうかなー? 的な?』
「貴様に聞いた俺がバカだった」
『わんちゃん。僕。僕には聞かないのかい? 僕、館長』
「ハナから無意味だとわかっていることはしない主義だ」
『ひどい!』
仕方なく、メミポラ3人娘に尋ねる。
「お前らは経験はあるか? 何か危険があったり、注意すべき点は?」
『夢業の中身は、本当に人それぞれで』
『私は暗い洞窟の中でずっと歌った』
『あたしはずっと食べてた。ピーマン嫌いなのに』
「それ何かプラスの効果があるのか?」
とにかく、メミポラ3人娘もイティスの状況は夢業に入った人間の様子に近いと言っていた。
「夢業は大図書館独特のものなんだろ。だったら、ここの機能が戻ってきたっていう証だ。まあ、舎弟としてまず身体を張って確かめたという点は評価してやろう」
しかしこうなると、こいつがどんな修行をしているのか気になる。
イティスには、お嬢を守る最初の騎士になってもらわなければならん。そのために武器の使い方や身のこなし方を教えたし、故郷の村では実戦もさせた。
これがしょーもない修行内容だったら、無理矢理でも叩き起こさなければ。
「何とかしてイティスの夢の中を確認する方法はないものか」
『あるよ』
そうあっさりと言ったのは、ファンマだった。
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