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74話 見えてきた映像
しおりを挟む「夢の中を確認する方法があるのか? どんな?」
『これ』
そう短く言って、ファンマが手を伸ばす。周囲にふよふよ浮かんでいる本のひとつが、彼女の手に収まった。
見た目、ずっしりと重量がありそうなブツである。
ファンマはそこから、一枚の板を取り出した。よく見るとその本、ケースの中にいくつも板が収まっているタイプのやつだった。辞書とか辞典が紙ケースに入ってる、あの感じである。
板は厚さが1センチほど。それがさらりぱかりと開くようになっている。内側には真っ白な紙が貼り付けられていた。
なんだこれ。
『これを、こう』
疑問符を浮かべる俺たちの前で、ファンマは開いた板をイティスの顔面に置いた。遠慮の欠片もないそこそこの暴挙に、眠っているイティスが「むご」と声を漏らす。慈悲がない。
お嬢が慌てた。
「ファンマさん。もうちょっと優しくしてあげてください」
『……? 神獣様ならこうすると思って』
つまりぞんざいな扱いがデフォルトだと思っているのか。よく見てるな無表情メイド。
お嬢が責めるように俺を見るので、俺はそっと視線を外した。
ファンマが言うには、この板はその人の心の中を映し出すらしい。ブロンテンが手を叩いた。
『見たことあるよ。これ確か、聖女様たちの精神鑑定に使う奴だね』
「精神鑑定。物騒だな」
『聖女様は心のありようが大事だからねえ。これで精神的な揺れや、外敵からの干渉をいち早く察知して対処しようってことだよ。いわば一種の医療器具だね』
『けど、このままじゃ出力不足で使えない』
ファンマが言い、俺を見た。
『でも、神獣様が神獣の力を注げば、きっと使える』
「なるほどな」
そういうのはきちんと検証してから使うモンだと思っていたが、まあいい。
俺は板紙の上に前脚を置いた。深呼吸し、魔力を流し込むイメージをする。
だが、ちっとも反応しない。
『何してる? 神獣様』
「うるさいな」
『あとお手々ばっちい』
「うるさいな!」
文句を言いながら脚をどかした。ちょっとだけ肉球の跡がついていた。
俺は少し考え、別のアプローチをする。
「映し出せ、写し出せ。白の平原に描き出せ」
思いつきの詠唱。物語で本に力を込められるなら、これでもいけるんじゃないかと思ったのだ。
ちょっとだけ周りの視線が痛い。
そのとき、板紙に変化が起こった。
白い紙の表面に映像が浮かび上がったのだ。
『成功。さすが』
「おお! ……お?」
喜びかけた俺は首を傾げる。
描き出されたのは果てなく続く坂道。その途中にある休憩スペース。
シャレオツなガーデニングチェアに座って、テーブルの上の菓子を美味そうに食っているイティスの姿だった。
こいつめ。
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