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75話 舎弟のイメージ
しおりを挟むテーブルには実に色とりどりの菓子が並ぶ。ショートケーキ、ワッフル、チュロス、マカロン、おはぎに大福、大学芋、おいせめて和洋は統一しろ。
それらを幸せそうに平らげる夢の中のイティスに、お嬢がぽつりと呟いた。
「イティスが食べてるの、お菓子なんだ。私、あんな可愛いの見たことないや」
「おのれイティスめ。お嬢にこんな顔をさせるとは舎弟失格」
「ヒスキさん、そうじゃなくて」
お嬢が慌ててフォローする。
「私の故郷にもお菓子はあったけど、あんな形や色をしたのは見たことないなあって。どんな味なんだろう。でもどれも美味しそうだよね」
「お嬢」
俺は無意識に口をつぐんだ。
そういえば、生前のお嬢は目が見えず、ああいう菓子類を見たことはなかった。身体が弱かったお嬢をオジキが大事に保護していたこともあり、むやみに菓子類も食べられなかったと記憶している。
そんなお嬢に、俺は無責任だったか。
まあ、一番ハラ立つのは半人前舎弟だがな! あの野郎、むしゃむしゃ際限なく食いやがって。もうテーブルの半分が空だよ。何やってんだ。
『もしかしたら』
ふとファンマが言う。
『神獣様から与えられているものの喩えなのかも』
「はぁ?」
『夢の中は自由。けど、見たことないものは出てこない。今あの子が食べてるの、神獣様の影響かも』
じーっと幽霊メイドが俺を見ながら言う。
おい待て。これ俺のせいかよ。俺はこいつをこんな風に甘やかした記憶はねえぞ。
『ご主人、できればアタシにもこの夢をくださいな』
『僕も。読書中の菓子はたまんないんだよねえ』
「黙れ変態ども」
俺の唸りが聞こえたのかどうか。
ふと、夢の中のイティスが何者かから菓子をごっそり取り上げられていた。実に悲しそうな顔をするイティス。つーかお前、そこで何をしてる?
するとイティスは立ち上がった。さっきまでの緩んだ表情を引き締め、前方を見る。
その先は、延々と続く登山道だった。
イティスは登り始める。
すると前方から、何体ものオークやオークバイトが襲来してきた。夢とはいえ、かなりリアルな姿だ。
オークどもに対し、イティスはどこからか取り出した剣を構えた。途端にポン刀聖女が『あ! アタシだ』と喜んだ。確かに、見た目はシーカが宿っている聖剣だ。
構えも、俺が教えたとおりを忠実に守っている。
イティスは意を決したようにオークたちの群れに飛び込むと、次々と斬りかかっていった。
その動きは拙く力任せ感は否めないものの、故郷の村で見たときより数段鋭くなっている。
これは。夢の中で実戦経験を積んでいるのか?
まさかイティスの奴。お嬢より一足先に、大図書館の修行機能を夢の中で体験しているのではないか?
それまで大人しくたたっ切られるだけだったオークどもに、動きが出た。イティスを後ろから襲う。
直後、頭上からでっかい『脚』が降ってきて、襲ってきたオークを踏み潰した。
白い紙上に浮かび上がったそいつの姿に、俺はあんぐりする。
イティスを助け、オークを踏み潰したのは――天にも届きそうなデカさになった『戌モードの俺』だった。デカすぎてかなり見切れている。正直すげぇ恥ずかしい。
それだけではなかった。
どこからか現れた助っ人がイティスに先んじてオークを吹っ飛ばしていく。そいつは上半身裸のムキムキマッチョで、頭部だけがイッヌの俺だった。
だから何で俺。
ある意味惨状と言える光景に、ファンマが冷静にコメントした。
『これがイティスにとっての神獣様イメージ。……かも』
「マジかよ」
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