78 / 94
78話 ツタで飛んでけ
しおりを挟む一方のイティス。
自らの力量が上がったことに舞い上がっている様子だった。
ニコニコ顔で何度もシーカの聖剣を素振りしている。あの調子なら、モチベーション高く励んでくれることだろう。
ふと、イティスが俺のところまで来た。
「ねえねえ兄貴様。お願いがあるんだけど」
「あ? お願い?」
「うん。あたしもアレが欲しい」
そう言うと、なぜかブロンテンを指差した。
俺はイッヌの顔をしかめる。
「やめとけ、あんな趣味の悪いモン」
『ちょっとわんちゃん?』
「違うよ。本体の方じゃなくて」
『ちょっとイティスちゃん!?』
さらりと無意識に前館長をディスった後、イティスは「兄貴様が創った草の鎧!」と目を輝かせた。
「あたしもああいうカッコいい鎧が欲しい!」
「ふふん。そうか、カッコいいか。そうかそうか」
『カッコよかったかなあ?』
ブロンテンがぼやくので再度無視。
すると、それまで黙っていたファンマが小首を傾げた。
『ツタの鎧。いいの? 大丈夫?』
「何が言いたいんだ?」
『小さな身体にツタが絡まる。負担大きい』
ファンマの言葉に、俺は唸った。
確かにブロンテンは幽霊だから、多少――というかどれだけ雑に扱っても安心だ。しかし、生身のイティスはそうはいかない。
と、いうか。
そこでふと俺は思い至った。
10歳そこそこのガキにツタを絡ませて鎧にするなんて、よくよく考えたら絵面がヤバくないか?
別に俺自身は何とも思わないが、場合によっちゃあお嬢の情操教育に影響が出るかもしれん。
そんな風に考えていると、さっそく実害が向こうからやってきた。
『小さな身体に』
『ツタ』
『あの可憐で可愛らしい声の持ち主に』
『ツタ……!』
「お前ら」
聖剣状態のシーカと、まだ地面に大の字になったままのブロンテンが呟いた。
何を想像しているのか丸わかりの、抑えきれない欲望を剥き出しにした戯言だ。
やはりお嬢の情操教育に良くない。こいつらが。
「イティス。その話は却下だ。別のやつを探せ」
「えーっ」
「それと――お前らはこうだ」
『へ?』
きょとんとするポン刀聖女と変態前館長に、【カシワブラッド】を発動させる。
花壇の一部から強靱なツタを伸ばし、聖剣と前館長を絡め取る。そのままぐぐっと持ち上げて――。
「ちょっと頭冷やしてこい!」
ブン投げた。
上空の青空に高々と舞い上がる奴ら。
そのまま、大図書館の東棟の屋上に突き刺さった。こっからじゃ見えないのが少々残念である。
お嬢が慌てた。
「ヒスキさん!? いつもながらやり過ぎだよ!」
「すみません。ですが、お嬢の身体だけでなく健全な精神を守るのも俺の役目なので」
「……? 何でさっきのが健全な精神を守ることになるの?」
「そういうところです。お前もだ、イティス」
「え? 兄貴様どういうこと?」
首を傾げるお嬢とイティス。
その隣でファンマがスンとしていた。私は沈黙を守りますというポーズだろう。さすがメイドである。
「さて、そろそろ奴らを回収してきますか。お嬢たちはここで待っていて――」
『おおーい! わんちゃーん!』
そのとき、やたら興奮した変態前館長が屋上から大声を上げて手を振ってきた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる