神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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92話 司書たちの驚き

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 お嬢が聖女として大成するためには、大図書館での修行が不可欠。
 だが、大図書館は休眠中で、修行しようにもその機能はほとんど眠ったままだと、現館長も言っていた。
 機能を復活させるためには、腑抜けた幽霊となった司書どもに活を入れなければならない。

 その糸口が、今見えてきたということだ。

 おそらく、こいつらが拠り所としている本がこの部屋にあったのだろう。
 それが本洗濯によって、本来の姿を取り戻した。
 同時に、幽霊だった奴らも目を覚まし、実体を取り戻したというわけだ。

 ……めんどくせぇな、ここの連中。

「おい、お前ら」
「え?」
「今まで幽霊としてフラフラしてやがったお前たちを目覚めさせたのは、ここにいらっしゃるお嬢だ。よく目に焼き付けておけ」
「ちょ、ちょっとヒスキさん!?」

 突然話を振られて、お嬢が慌てる。
 しかしお嬢。これは好機なんです。ここの連中に恩を売り、お嬢の修行を円滑に進めるため。
 こいつらには、誰のおかげで正気を取り戻したか、キッチリわからせてやる必要がある。

「いいか、復唱しろ! 目覚めたのはお嬢のおかげ! はい!」
「……め、目覚めたのはお嬢のおか、げ?」
「声が小せえっ! それと疑問形で言うな! オラ、もう一回!」
「め、目覚めたのはお嬢のおかげ!」
「もう一回!」
「目覚めたのはっ! お嬢のおかげ!」
「兄貴様、なにこれ」

 イティスが目をぱちくりさせながら言う。隣ではお嬢が顔を覆いながらしゃがみこんでいた。
 ちなみに、ウチの変態2人は率先してコールに参加している。流石だ。こういうときは頼りになる。

 その後、目覚めた司書たちは各々自分の本を受け取りに来た。
 俺が思ったとおり、洗濯によって綺麗になった本ばかり。
 新品同様の姿になった本を、半分くらいの司書は驚きと喜びの顔で見つめていた。そのまたさらに半分くらいは、紙の匂いを嗅いで恍惚としている。さすがだよ。

 で、喜んでない半分は、やはり微妙な顔だ。年月を重ねた紙の本独特の感触が忘れられないらしい。それはそう。

 俺は千差万別の表情を見せる司書たちに興味をひかれた。
 ざわざわしたざわめきが、耳に馴染む。
 奴らの考えていることを想像しながら、俺は『物語った』。

「これは、神話が出来上がるまでの話だ――」

 即興で組み上げる、神の成り立ちモドキの物語。
 俺の声と言葉に呼応して、綺麗になった本たちが輝きだした。ページから文字が舞う。
 その様子を、司書たちは驚きの表情で見つめた。

「これは、夢業なのか? それとも聖女様の御力!?」

 ――聖女は本から力を得る。
 本と司書が復活した今、聖女が得られる力は本来の大きさに戻っているはず。

 今、それらがお嬢へと向かっていく。

 さっきまで恥ずかしそうにしゃがみこんでいたお嬢は、光の文字に呼びかけられたように顔を上げ、立ち上がった。
 そのまま、決意の顔で光の奔流を受け入れる。

 お嬢の小さな身体に光が染みこんでいくと、首元のスカーフが美しく光り輝いた。

「あれは、聖女様がお召しになる布地。では、あの少女は本物の――!?」

 そうだ。敬え。跪け。
 ここにおわすは、お前らの上に立つ聖女様だぞ!

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