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94話 再判定
しおりを挟む「おう、乾いたか。しおりのヤロウめ」
『ひゃい。おかげさまで……』
すっかり怯えてやがる。まあ無理もないが。
でっかい栞がひらひらと宙を舞い、喋っている様子を見て、司書連中がどよめいていた。
どうやら、しおちゃんの存在は図書館内部でも限られた人間しか知らないみたいだ。
もしかしたら、聖女として独り立ちする者だけがコイツと出会えるのかもしれない。
しおりのヤロウの視線が、お嬢に向く。――正確には、栞頭の紐がちょんちょんとお嬢を示している。なんかムカつくな、あの仕草。
お嬢は背筋を伸ばし、少し緊張した様子だった。
すると、お嬢の首元からスカーフがひとりでに離れた。「あっ……」とお嬢が呟き、手を伸ばすが、スカーフはひらりとかわす。
そのまま、しおりのヤロウの所まで漂った。
俺は怒声を上げる。
「おいコラしおり! てめぇ、再判定するどころか、お嬢からモノを奪うとはどういう了見だ! ええ!?」
『ちょ、ちょっと静かにしてください』
しおりのヤロウが怯えながら懇願する。
その場にいた皆が顔を見合わせ、困惑する。
するとしおちゃんは、スカーフを自分の身体で包み込んだ。丸っとくるまる。
まるでお嬢を判定していたときのようだ。
直後、予想していなかったことが起こる。
しおちゃんの身体の表面に、いくつもの光る文字が浮かび上がったのだ。
それだけではない。
呆然と推移を見守っていた司書連中たちが手にした本が、再び光を放ち始めたのだ。お嬢の歌声を聞いていたときのように。
さらに。
「ちょっとケルア! 身体が光ってる、光ってる!」
「え、嘘!? え? ええ!?」
狼狽えるお嬢。
イティスの言うとおり、お嬢の身体まで薄らと輝いているのだ。
しおりのヤロウと同じ色である。
俺はシーカと視線を合わせた。頷き合う。
もしお嬢に何か変な真似をするつもりなら、俺たちがしおり1枚をしおり100枚に変えてやる。
すると、ファンマが俺の耳を軽く引っ張った。
『神獣様』
「なんだ。耳は気になるから引っ張んな」
『たぶん、大丈夫。ほら見て』
そうファンマが言ったとき、お嬢の光が収まった。同時に、司書連中の本も、しおりのヤロウの発光も収まる。
しおりのヤロウがくるりと元の姿に戻った。スカーフが再びお嬢の元へ向かう。
『……なるほど』
「あん?」
『まさかこれほどの短期間で基準に達するとは、思ってもみませんでした』
しおちゃんが言う。
俺たちは顔を見合わせた。
『あなたの力は証明されました。改めて、あなたに聖女の証を授けましょう』
「ほ、本当ですか!?」
『栞は嘘を言いません』
それを言ったら、栞は空も飛ばないしそもそも喋らないんだがな。
しおちゃんがお嬢の元にやってくる。
『さあ、力を抜いてください。私の中に眠る無数のデザインから、あなたにぴったりの服を授けましょう。それをもって、あなたは聖女の第一歩を刻むのです』
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