聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

文字の大きさ
69 / 118

【69】楽しいのか?

しおりを挟む
 ――あれから一週間が経過した。

 無事に――無事に?――浄化素材を採取し終えた私たちはお城へ帰還。
 その日のうちに、アムルちゃんたちは素材の一部を持ってレギエーラに戻っていった。

 一週間。そうあれからもう一週間だ。
 でも私は、いまだにあのときを引きずっている。

 朝。
 寝室に新たに加わった立派なベッドから身体を起こす。
 あくびとともに背伸びをしていると声をかけられる。

『おはようございます聖女様』
「うん……おはよー」
『お着替えをお持ちしました。御髪を整えますね』
「いや、自分でできるから大丈夫だよ。ありがとう『スカーレット』ちゃん」

 失礼いたしました、と深々と腰を折るメイド服姿の『私』。
 もとい、元枯れ木人形ちゃん。

 丁寧に着替えをテーブルの上に置くと、にこりと微笑む。そして再度、見事なおじぎ。
 大きな赤色のリボンで結い上げた金髪を揺らし、『スカーレット』ちゃんは部屋を後にした。

 ねえ、あれってさ。
 私より聖女っぽくない?
 淑やかでさ、仕草も女性らしくてさ、思いやりと優しさに溢れてさ。

 そりゃあもう、めっっっちゃ引きずってますよ私。
 私よりあの子『たち』の方がカナディア様っぽいってね! へこむわ!!

 ――説明します。
 幻の毒沼を浄化した私とアムルちゃんの魔力は、そこにいた枯れ木人形ちゃんたちにも大きな影響を与えた。
 それが『人化』。私と瓜二つの姿に変身したのだ。

 どうやら、もともと枯れ木人形たちには何かに擬態する能力が備わっていたらしい。それが私やアムルちゃんの強い聖魔力を受けて、いわば『聖女カナデの姿をコピーする力』に昇華したようだ。
 ディル君とアムルちゃんお父様の弁である。

 枯れ木人形たちは私の姿になったことをあっさり受け入れた。それどころか涙を流しそうなくらいに感激して、『ぜひ仕えさせて欲しい』と懇願してきた。
 さすがにこれほど大勢は無理だよ――と答えると、彼らはすぐさまメンバーを選抜し、城までやってきた。
 その数、十二名。

 みんな、見た目がまったく同じで、言動もほぼ一緒だったため、区別がつかない。
 悩んだ私は、彼女らに大きなリボンを手渡し、その色で見分けることにしたのだ。個体名も、色にちなんで付けている。
 十二色のメイドたち――彼女らを『カラーズ』と呼ぶ。

 ちなみに、他の枯れ木人形たちは本来の姿に戻り、今も幻の毒沼で暮らしている。彼らが言うには、『いつお呼び出しがかかっても良いように待機している』とのこと。

 ――身だしなみを整えた私は、ため息をつきながら寝室の扉を開ける。

 ディル君が嬉しそうに言っていたな。
 二千人の影武者ができましたね、って。うるさいわ。やめて。

 鬱々とした表情のまま廊下に出る。
 弟わんこが立っていた。
 ガスマスク装備中だった。

「しゅこここ!」
「………………」

 それ付けて笑うの気に入ったんだね。
 楽しいか? 楽しいのか? ん?

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...