106 / 118
【106】いますぐ解放してあげて!
しおりを挟むそれから私たちは、魔族の支配領域を目指して出発した。
四足歩行状態になったチート城が、ずしん、ずしんと闊歩する。
チート城君、意外と繊細な性格なのか、ごつごつした岩場や危険な斜面を可能な限り慎重に移動している。おかげで、城にいる私たちは快適そのものだ。
思わず良い子良い子したくなる。チート城君の頭はどこだろう。わからないので、とりあえず今立っている窓の手すりをさすさすした。
天気は良好。
風も気持ちいい。
絶好の旅行日和だ。チート城君も心なしか上機嫌に感じる。腹に響く歩行音は無視しよう。
「気持ちいいですねえ、お姉様」
私の隣に立ったアムルちゃんが笑顔を向けてくる。私も笑顔を返す。
「本当にね。こういうのんびりな旅もいいなっと思う」
「お城様、とても楽しそうですわ」
「そうだね。……それはそうとアムルちゃん」
きょとんと私を見上げる赤髪の少女。
「アムルちゃんはよかったの? 私たちに付いてきて。レギエーラからずっと離れてしまうし」
「心配ご無用ですわ。お父様とお母様にはお話しして、ご了承いただいています。むしろ激励されましたわ。『モノを得るまで帰ってくるな』と」
「……もしかしなくてもお母様のおことば?」
「はいです。もし手ぶらで帰ってきたら酒飲んで暴れてやると言っていました」
「激励とは」
けらけらと楽しそうに笑うアムルちゃん。
「それに、お姉様たちが設置して下さった転移陣のおかげで、帰ろうと思えばいつでも帰れますので。わたくしにとってはなんのデメリットもありません。むしろ――」
ふと可憐な少女の表情が闇に染まる。
「あのにっくきパーをこの空気中から完全消滅できると考えると、血湧き肉躍りますわ」
「もしかしてお母様より過激派?」
「すべてはお姉様のために」
くすくすくす……と楽しそうに笑うアムルちゃん。
私は輝きを失った瞳で言った。
「お茶にしようか」
「はいです!」
ちゃんと甘さを感じるかな、私の身体。いつか心労で吐血するんじゃないだろうか。
食堂に行くと、そこには全員が揃っていた。
割烹着姿のディル君がクッキーの乗った皿を運んでいる。
「さあ主様。どうぞこれでお茶を」
「読心術が遠隔化している……まあいいや。ディル君、その格好珍しいね」
「ありがとうございます。俺もここらでキャラ付けを強化しようかと思いまして」
「キャラ付け言うな。じゅうぶん濃いよ君たち」
アムルちゃん、ディル君、ヒビキ、カラーズちゃんたち。
いまや家族同然の面々と穏やかなお茶の時間を過ごす。
――微かな、違和感を覚えた。
ヒビキはいい。カラーズちゃんたちもいつもどおりの可愛さだ。
しかし……ディル君とアムルちゃん、少々機嫌が良すぎないだろうか?
「ねえ」
「はい?」
「今日はパーさん、出てこないね」
「ああ、それでしたら」
にっこり、とイケメンスマイルを爆発させるディル君。
「先ほど簀巻きにして放り出しておきました。長いロープを城の足にくくりつけておいたので、良い感じに引きずり倒していると思いますよ今頃」
「いますぐ解放してあげて!」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる