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【107】あなた馬鹿だよ
しおりを挟むチート城君を止め、私は慌てて外に出た。
地上までかなりの高さがあって、正直ビビった。眺め良かったもんね。高いのは当然だよ。
「えい、度胸だ!」
カナディア様の聖杖を握りしめ、私は正面入口からジャンプ。
横殴りの風を感じながら、聖杖から魔力を解放する。
不可視の壁が私の周りに展開され、風が一気に穏やかになった。
けど、肝心の落下速度は変わらない。
「ちょっとちょっとちょっとぉっ!?」
叫ぶ間に地面と真正面から激突。
岩が弾けるすごい音がした。
絶叫マシーンが止まった直後の荒ぶる心臓を感じながら、私は恐る恐る目を開ける。そして立ち上がる。
どうやら……無事だったみたいだ。
薄く包み込む魔力が完璧な防御壁となってくれたおかげで、私自身にはかすり傷ひとつどころか、砂埃ひとつ付いていない。
その代わり、地面は大きく抉れていた。
――より正確に申し上げると、私の形に綺麗な穴が空いていた。古いマンガで見たことあるよこの図形。
超恥ずかしい。
「主様……」
呼びかけられ、錆びた鉄のようにぎしぎしと振り返る。
ディル君が額を押さえてうつむいていた。加えて、深いため息をついている。
「いくら聖杖の加護があるとはいえ、いきなりこの高さを飛び降りるのは無茶が過ぎます」
「あー……ごめん、なさい?」
「まったく。こちらの身にもなってください。パーのことで膨れっ面になった俺とアムルを主様がキチンと突っ込んでくれると思ったのに。どうしてわざわざ主様の方から仕込みをしてくるんです」
おもむろにガスマスクを取り出すディル君。
「こんなの笑うしかない」
「本当にごめんなさいねっ!!」
憤然と踵を返す私。
――だいぶ苦労して気を取り直し、チート城君の足下へ向かう。
ディル君たちの言葉通り、足のひとつに長いローブが結びつけられていた。
よく観察すると、ロープには強い魔力が込められていた。これだと、そうそう断ち切ることはできなさそうだ。
パーさん絶対処刑してやる感がありありと漂っていて、背筋が寒くなった。
「パーさんっ!」
呼びかけながら、私はロープを辿って先端へ。
そこにパーさんの姿はなかった。
代わりに結びつけられていたのは――。
『親愛なる我が聖女へ この魔王パー(※以下、ボロボロになっていて判読不能)』
「……サイン色紙?」
「おのれ邪悪なる魔王め!」
気炎をあげるディル君の横で、私は朽ち果てたサイン色紙の砂埃を払った。
「パーさん」
しみじみとつぶやく。
「あなた馬鹿だよ」
ごめんだけど本当に。
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