109 / 118
【109】お似合いだと思って
しおりを挟む「ねえディル君」
チート城君がゆっくりと足をたたむ中、私はたずねた。
「本当にここが魔族の支配領域なの? なんか、思ってたのと違うんだけど」
窓から見えた村の景色。
それはまるで、絵画のように綺麗だった。
水平線が見えそうなほど広く、澄み切った湖。
まばらな民家。
ささやかな畑。
ご褒美のような静けさ。
「私のイメージではもっとこう……暗くてジメジメした世界を想像してた」
「そうですね。主様のイメージで、おおむね間違いないと思いますよ。俺も魔族のことをすべて知っているわけではないですが、『闇』と相性が良いのは確かです」
「……ぜんぜん違うよね? ここ」
「ま、何事も例外があるということですね」
あっさりと納得するディル君。いいのかなそれで。
いやまあ、平和的、友好的であることに越したことはないんだけど。
玄関ホールに向かう私を、アムルちゃんが追い抜いた。
「お姉様、早く早く!」
「ちょおっと待ったアムルちゃん!」
呼び止める。赤い髪のツインテールが綺麗な弧を描いた。
可愛らしく小首を傾げる彼女に、私は咳払いした。
「アムルちゃん、その格好は何?」
「これですか?」
くるん、とその場で一回転。さすが、踊りをメインに戦う少女。体幹がしっかりとした美しい舞だ。
水着です。
ピンクのひらひらビキニなのです。
どっから引っ張り出してきたのか、手にはビーチボール。
アムルちゃんは天使の微笑みを浮かべた。
「お姉様もご一緒に泳ぎましょう!」
「いやいやいや。遊びに来たんじゃないよ? 確かに湖は綺麗で気持ち良さそうだけどさ」
「そうなんです! ディルお兄様のお話では、それはそれは冷たくて、浸かればあっという間に気持ちよくなれるとか!」
「ディル君ちょっとこっち来なさい」
弟わんこを呼んでお座りさせる。
――『気持ちよくなる』の意味が違うよね?
――面白いでしょう?
アイコンタクトで意思疎通。もはやツッコミに台詞すら不要とは恐れ入った。
いつの間にか私用の水着まで両手に抱えていたアムルちゃんを着替えに戻らせる。
後に残ったのは正座したままの弟わんこと、カラーズちゃんたち。
メイド服姿の彼女らの手には、色とりどりの水着。わお。
「申し訳ありません、聖女様……お似合いだと思って、つい」
「あー……」
額を押さえる。仕方なく言った。
「落ち着いたら、みんなで行こうか。泳ぎに」
ぱぁっと表情が明るくなるカラーズちゃんたち。
ま、息抜きは必要よね。
息抜きで済めばね。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
神々の寵愛者って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる