聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

文字の大きさ
112 / 118

【112】問おう!

しおりを挟む

 湖畔にある一見長閑な集落。
 そこは魔族領域で、住んでいるのも人間ではなかった。
 理由は不明だが、集落に住む人々は思い思いの『何か』に『埋まる』のを好むらしい。
 地面。水底。建物の壁。岩。草原の中。
 私はいまだかつて、これほどまでに後ろ向きで、これほどまでに濃い人々を見たことがない。
 なにせ魔族です。

 推測だけど、この集落も元々無人になったところに住み着いたんじゃないかな。彼らがえっちらおっちら建物を建てたり畑を耕したりする姿が思い浮かばない。
 え? その辺りはちゃんとする? そうですか。それは失礼しました。

「――ではそろそろ、貴公らの来訪目的を問おうか」

 威厳ある声でそう言ってきたのは、この集落の長。一番立派な建物の、一番綺麗な部屋の中の、一番立派な壁の中心に埋まって顔だけ出してる。
 もうやだ。

 集落のこととかそれっぽく回想して現実逃避していたけど、やっぱり逃げられなかった。

 ――私は今、部屋の中央に正座している。入口をのぞく三方の壁には、集落の重鎮と思しき顔がずらりと埋まっている。
 その恐怖に気が遠くなりそうな私と対照的に、両隣の仲間たちは意気盛んだった。

「我々はとある人物を捜している。我らが主に不埒を働いた、許しがたい者だ」
「わたくしたちの目的はその者の確保。それさえ叶うのならば、皆様の平穏を邪魔するつもりは毛頭ありません。どんなささいな情報でもかまいません。ご協力いただけませんか?」

 ディル君、アムルちゃんが説得にあたる。
 二人の声には自信がみなぎっていた。さっきまでの焦り――焦ってた理由は敢えて頭からキックする――が嘘のようだ。

 それもそのはず。
 彼ら二人は、どこからか調達してきた大きな木の板に穴をあけ、自分たちの顔を突っ込んで立っていたからだ。

 わかりやすく言うと、観光地にある顔の部分だけくり抜いた看板だ。あれに顔を突っ込んで写真を撮るんだよね。あれは観光地ならではの良い思い出になるよね。記念になるよね。
 今は悪夢でしかない。なにせただの無地の板だ。

 なぜに味方まで嬉々として未知の領域へ足を踏み入れるのか。これじゃあ普通に座っている私が一番目立つ。
 現に、周辺の壁埋まり重鎮さんたちが「なんだコイツ?」みたいな目で見ている。

 おかしいのは私か。そうなのか。
 郷に入っては郷に従え――とは、なんと残酷なことわざだったのだろう。今痛感した。

 ――神様。
 こうしてグダグダ考えている間に、どうかこの会談を終わらせてください。さっさと。

「貴公らは魔王を捜していると言ったな。いいだろう」

 私は顔を上げる。
 これ、話が無事先に進んだ?

「我々が知っていることを教えてやってもよい。だがその前に! 問おう! 貴公らが捜している者の名を!」
「……!」
「畏れ多くも魔王様を捜していると言うのなら、申して見よ! かのお方の名前を!」

 ――全員に緊張が走った。
 頬に汗をひと筋流し、ディル君がうめく。

「なんと……巧妙な策略か」
「そうね……いやそうじゃねえ」
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

処理中です...