僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

文字の大きさ
29 / 92
6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム

第29話 子どもたちともふもふ、のどかな時間

しおりを挟む
 ――子どもたちの楽園、もふもふ家族院。

「クッキー、おいしい」

 さっくさくの食感とほどよい甘さを噛みしめながら、ユウキはつぶやいた。
 スコーンのときも幸せだったが、このクッキーも極上の幸せを運んでくれた。
 転生者であるユウキにとって、固形物を食べられるだけでも贅沢である。ましてやお菓子なんて片手で数えるほどしか口にしたことがなかったから、人一倍、幸せを感じる。

 クッキーは色々な形があった。四角いもの、丸いもの、星形のもの。それらが平皿の上に山となっている様子は、見ているだけで楽しい。まるで自分たちのようだと思う。

 隣で同じくクッキーを食べていたアオイが、ほんのりと笑う。

「気に入ってくれて、よかったですー」
「本当にアオイはすごいよ」
「ふふふ」

 さらに隣のヒナタが言った。

「わたしも食べてよかったの? これ、ユウキのために作ったクッキーでしょ」
「僕は皆と食べられるほうが嬉しいよ」
「そっか。うん、わたしも嬉しい。サキもそうでしょ?」

 皆の視線が隅っこに座る寝癖少女に移る。
 アオイに怒られたことがよほどこたえたのか、半泣きの状態でかじりかじりとクッキーを食べていた。

「うう……おいしい。よかった。ウチも食べられて本当によかったぁ……膝痛い……」
「大丈夫? なにか塗り薬、使った方がいいかな。それともマッサージ?」
「うう……ユウキ院長君が優しい……」
「ダメですよー、サキちゃんは反省できるときにしっかり反省してもらわないとー」
「うう……アオイ君が厳しい……」

 ヒナタ、サキ、アオイ。
 彼女らとともに一緒のお菓子を食べ、話に盛り上がる。
 ユウキは心から思った。彼らと打ち解けられてよかった。

 さらさらさら……と梢が静かに鳴る音がする。自然の中にある綺麗な音を真似ることのできるケセランたちが、コロコロと転がってきた。機嫌が良さそうだ。

 ケセランはユウキたちの膝や肩に飛び乗ってくる。どうやら半泣きのサキが心配になったようで、寝癖だらけの頭の上にも一匹、飛び乗る。サキは感激して、また泣いた。

 膝上に乗ったケセランを、ユウキは撫でた。ふわふわな感触が手のひらに返ってくる。ケセランの黒い瞳がユウキを見上げ、それから気持ちよさそうに細められた。なんだかこちらも気持ちよくなって、眠くなりそうだとユウキは思った。

「ケセランたち、皆優しいんだね」

 ユウキが言うと、ケセランはユウキの手のひらに身体を押しつけるようにクルクルと回った。少しくすぐったい。

「ケセラン君たちは、ウチらの言葉だけじゃなくて感情の機微も察する力があるようだね」

 サキが言った。クッキーが食べられて、ケセランにも触れられたので、機嫌が直ったようだ。

 すると、各々お気に入りの場所に収まっていたケセランたちが、おもむろにユウキのところに集まってきた。肩の上、頭の上、膝の上、手の上……いろんな場所に乗っかってきて、小さく小さく音を立てる。
 ユウキは目を閉じた。ケセランのささやかなオーケストラを聴いていると、まるで大自然の中に身を置いているような気持ちになる。

「おやおや」

 サキがテーブルに肘を突く。ちょっと羨ましそうだった。

「ケセラン君たちは、ユウキ君が大好きになったようだね。素晴らしい大歓迎ぶりだ」
「ねえユウキ。もしかしてなにか心配事でもあるの?」

 ふと、ヒナタが眉を下げた。

「ケセランたち、ユウキを慰めているように見える」
「僕は大丈夫だよ。けど……そうだね、きっと気づいてくれたんだろうな」

 それ以上は言うのをやめておく。

 生前、病院から出られなかったユウキは、大自然の中で過ごした経験がない。
 ケセランたちは、自分たちの特技を披露すればユウキが喜んでくれると思ったのだろう。本当に優しい種族である。
 転生前のことは、このレフセロスの人たちには関係がない。ユウキにとっては乗り越えた過去であっても、周りに心配をかけるのはよくないと思った。
 ユウキはもう、もふもふ家族院の院長先生なのだから。

「だから――ありがとう」

 ケセランへの感謝を込めて、改めて、彼らのふわふわの身体を撫でた。
 その様子を、ヒナタたち他の子どもたちは温かな目で見つめる。

「あ――」

 そのとき、ふとヒナタが声を出した。

「そういえば、レンとソラはまだ帰ってこないんだね」

 ユウキは首を傾げる。ヒナタは言った。

「もふもふ家族院の男の子たちだよ。朝から張り切って森に入っていったんだけど、おやつ時間まで帰ってこないなんて、どこまで行ったんだろうね」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...