僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

文字の大きさ
31 / 92
6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム

第31話 責務を果たしたいのなら

しおりを挟む

 森へ向けて歩き出したユウキとヒナタ。
 温もりのある陽光が梢の合間から差し込み、綺麗な陰影を作っている。

「ヒナタ。レンたちはこの先にいるの?」

 ユウキは尋ねた。日当たりが良いにもかかわらず、地面はそれほど草が生い茂っていない。柔らかでなだらか、ほどよく歩きやすい。
 だが、道らしい道はない。

 森の中を歩くのが好きなのか、ヒナタはクルクルと踊りながら進んでいた。ユウキの問いかけに、彼女は小首を傾げる。

「んー、どうだろ?」
「え!?」
「あはは。大丈夫大丈夫。森で迷うことはないよ。きっと会える会える」

 笑顔で言われる。いかに鉄壁のメンタルを持つユウキとはいえ、さすがにこのままでいいのかなと思う。

「レンやソラは、どうしてこの森に? いつもの遊び場だったりするの?」
「そうだね。レンはわたしよりも外遊びが好きだから、よく森に出ているよ。今朝は確か、こっちの方向に走っていったから、きっとこの先にいるんじゃないかなって」
「なるほど……うーん」

 ここで暮らすヒナタが焦っていないということは、本当に危険はないのだろう。

 ヒナタを見る。赤い髪のツインテールが、踊りに合わせて回っている。陽光を浴び、青々とした草地を舞台に鼻歌を歌う。こちらまで楽しくなってくる姿だ。
 このままぼんやり森とヒナタを見続けるのもいいかなという思いが、頭をよぎった。

 自分の頬を叩く。
 ダメだダメだ。僕はもふもふ家族院の院長先生。ヒナタと遊ぶのは、ちゃんと皆を見つけてから!
 大きく息を吸い込む。

「レンー! ソラー!」

 森に向かって呼びかけた。ユウキの声は木々の葉っぱに吸い込まれ、すーっと消えていく。
 ヒナタが踊りを止め、目をぱちくりとさせた。それからなにか考える仕草をし、ユウキの隣に並ぶ。元気印の少女が「おーい!」と叫んだ。
 風の音、鳥の鳴き声が小さく響くだけだ。

「返事がない……」
「結構、奥まで行っちゃったのかもしれないね」
「ヒナタ、レンたちが行きそうな場所に心当たりがある?」
「うーん。たくさんありすぎて、今日はどこに行ったのかわからないかも」
「たくさんかあ。それだけあると、退屈しなさそうだね」
「うん。森を歩くだけで一日終わっちゃうよ。毎日違う発見!」

 それはすごく楽しそうだ――と顔がほころびかけ、また「違う違う」と首を横に振る。
 僕は院長先生! しっかりしなきゃ。

 辺りを見回す。高い木に登れば、周辺の状況がわかるのではないかと考えた。木登りの経験はないが、きっとなんとかなるとユウキは自分に言い聞かせる。
 ちょうど良さそうな大木を見つけ、そちらに足を向けたとき。

 ――責務を果たしたいというなら、力を貸しましょう。

 ふいに、頭の中で声がした。
 同時に、胸の奥がふんわりと温かくなる。この感覚、覚えがあった。

「ユウキ、また目に光が灯ってる!」

 ヒナタが顔をのぞき込みながら言う。彼女の言葉通り、普段は黒い瞳が今はゆっくりと銀色に明滅していた。
 善き転生者の魂が、手を差し伸べてくれたのだ。

 頭の内側に、スッと涼やかな風が吹き抜ける――そんな不思議な感覚になる。
 すぐ目の前の地面が、薄らと光っていることに気づく。
 ユウキはしゃがみこみ、片手を草地の地面に置いて、光に重ねた。

 するとその途端、光とともに

 ――超感覚、とでも言おうか。
 木の反対側、さらにその向こう、今いる場所からは見ることのできない場所の気配を、ユウキは

 超感覚に、触れるものがある。
 凪いだ水面に波紋を生じさせるかのように、ふたつ。たくましい生命力を感じるものと、大木のように静かな気配を感じるものと。
 君の求める人たちはここだよ――と教えてくれるようだった。

 位置は、ここから太陽方向にまっすぐ。気配の他に、水の流れも感じた。

「どう? ユウキ」

 無意識のうちに閉じていた目を開くと、ヒナタが遠慮がちに声をかけてきた。すでに一度、彼の転生者としての力を目の当たりにしていたヒナタは、固唾を呑んで様子を見守っていたのだ。

 ユウキは立ち上がる。すでに地面の光は収まっていた。どうやら、ヒナタには光が見えていなかったらしい。
 胸に手を当て、心の中で「ありがとう」とお礼を言ってから、ユウキは元気印の少女に向き直る。

「レンたちの居場所、たぶんわかったよ」
「え? ホント!?」
「うん。ここから南に、太陽の方向に真っ直ぐ。そう離れてないと思う。……ねえヒナタ」

 確認のため、問いかける。

「この先に川とか池とか、あったりする?」
「あるよ。綺麗な小川と、ちょっと大きな池――すごい、ユウキ。なんでわかったの?」
「僕の中の転生者さんが力を貸してくれたんだ。場所を教えてくれた。そしたら、水の気配も感じたんだ」

 へぇーと、ヒナタは感心しきりだった。

「ユウキの力って、本当にすごいんだね。なんでもできちゃいそう」
「僕の力じゃないよ。すごい人たちが、力を貸してくれたんだ」
「うーん。でもさ、それはユウキだからじゃないの? ユウキもすごいから、すごい人たちがすごい力を貸して、すごいことを――って、あれ?」

 言っていて自分でもこんがらがってきたのか、ヒナタが頭に手を当てて首を傾げた。ユウキは苦笑した。

「レンたちは池にいるんだね。そこになにがあるんだろう」
「たしか、魔物が住んでたよ」
「………………えっ!?」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...